第17話 探索開始
探索を始める前に、やる事があった。
グリードが落ちた魚を転がしながら、海に帰している間の事だ。
ロックは出発前のまじないをする。
「ちょっと良いか!? やらなくちゃいけない事があるんだ」
そう言って立ち止まったロックは、大陸から背を向けて、海の方を見る。
そして、未踏大陸の探索を終えて帰ってからやりたい事を大声で叫んだ。
「ここから帰ったら飯たらふく食うぞー!」
シャックスは、死亡しそうな人間のとる行動だなと心の中だけで呟く。
ロックの故郷には、危険な場所に出向く際に、やりたい事を述べて特別な歌を歌うのだという。
「俺のふるさとじゃ、危険な旅に出る前には、こうやって気合を入れるんだよ」
「そうなんだ」と言ったアーリーも、真似して小声でやりたい事を発言する。
「私は美味しいスイーツ食べたいな。帰ったらご飯で贅沢がしたい」
その様子を見たナギも続く。
「では、私も。帰ったら本を読みたいですね。珍しい本を国から貸し出してもらえるでしょうか」
ひとしきり話に花を咲かせた後、ロックが歌を歌い出した。
それは、世間で有名になっている冒険譚の歌だった。
それを聞いたアーリーやナギも歌い出した。
シャックスはテレパシーで歌う。
母のレーナに読み聞かせてもらった事があるなと思い出した。
こういった時、声が出ないのが残念だとシャックスは思う。
シャックス達は歌い終わるのを待ってから出発した。
探索が遅くなってしまったが、シャックスはそれでもかまわないと思っていた。
速さは重要ではないと思っていたし、仲間のやりたい事はやらせてやりたかった。
最後に出発したのはシャックスともう一組のパーティーだけだった。
「あの、ノースさん。シャックスさん達のパーティーと協力しませんか?」
「そうだなハク。何があるか分からないうちは、固まって動いた方がいいかもしれないな」
ある程度進んだ頃、そのパーティーが協力を持ち掛けてきた。
そのパーティーには、試験で助けた少年ハクがいた。
男性三人、女性二人のパーティーである。
ハクのパーティーとはある程度船の中で交流していたため、諍いになる事はないと了承する。
彼等をまとめているのは、長身の青年ノースだ。
年は、二十代あたりだ。
のっぽというあだ名が付けられているノースは、仲間達から親しまれていた。
彼等は皆、仲の良いグループだった。
ノースの決断に異を唱える者はいない。
後発であるシャックス達は、人が通った道を進んでいく。
周囲を警戒しながらだが、シャックス達はしりとりをしていた。
シャックスが「トレント」と言ったら、アーリーが「トマト」と言う。
ナギが「またトかよ。トンカチ」と言うと、ロックが「チーズ」と言った。
協力しているパーティーの一人が、「そんな事してていいのかな」と呟いた。
たまに茂みから、赤い目に赤い体毛が生えたヘビが飛び出したが、シャックスが剣で両断した。
ハクやノース達が驚くが、シャックス達は特に顔色を変えることなくしりとりを続けている。
ある程度進んだ時には、大きな蛾のようなモンスターが襲ってきた。
人間の身長ほどあるその蛾は、不快な音を出してシャックス達の集中を削ごうとしている。
しかしアーリーがすぐに弓で射て、シャックスが炎の魔法で燃やしたため害がなかった。
ハクやノース達が驚くが、シャックス達は特に顔色を変えたりしない。
そんな中、血の匂いをかぎとって、シャックスが片手を上げる。
「ラブロマンス」としりとりの続きをしていたロックが、口をつぐんだ。
「誰かが怪我をしたみたいだ」
シャックスがそう言うと、他の者達が真剣な表情になる。
さらに前に進むと、血の跡を発見した。
動物の血か人の血かは、分からないが近くに装備品が落ちていた。
そのため、戦闘があった事を悟る。
少し前。
時間をさかのぼると、そこには他の探索メンバーがいた。
男性六人で構成されたそのメンバーたちは、試験でも特に目立ったところの無かった者達だ。
彼らは、突然空から飛来した巨大な何かに襲われる。
それはドラゴンだ。
地上にいる探索者たちからは、逆光でその姿がよく見えなかった。
リーダーらしき男性が迎撃を指示して、仲間たちは魔法や武器で戦うが、それらはまるで歯が立たない。
ドラゴンは、悠然としたたたずまいで、自分に攻撃してくる者達を見つめる。
強者としての余裕を感じられる姿だった。
そのうち、ドラゴンは鋭い牙で襲い掛かる。
最初にリーダーがやられ、他のメンバーたちが狼狽した。
それで、混乱が起き、まとまりがなくなってしまう。
その場から逃げ出そうとした彼らは、背後から攻撃を受けて、二人が倒れ伏した。
残された二人は絶望した顔で、ドラゴンを見上げる。
そのドラゴンは、目を細めた後、腕を振るって残りの二人を叩き潰した。
一人は即死だったが、もう一人は息があった。
だが、生き残れはしなかった。
なぜなら、下半身が潰れていたからだ。
その人物は、家族が渡してくれたペンダントを握りしめながら、最後の時を迎えた。
事切れた彼らの元を、ドラゴンが去っていく。
後に残された亡骸に、狼型のモンスターたちがむらがった。
同時刻。
密林の中を、エルフの少女が歩いていた。
雑草などが深く生い茂っているため、その姿は良く見えない。
エルフの少女は、うんざりした様子で空を見あげる。
「最近ドラゴンをよく見かけるな。一体どうしてだろう」
そのエルフの少女は、周囲をきょろきょろと見回す。
それは探索者達の声が聞こえてきたからだ。
エルフの少女は息をひそめて、隠れる。
探索者達は近くにエルフの少女がいるとは思わず、通り過ぎていった。
彼らがいなくなったのを見て、エルフの少女ははあっと息を吐く。
「久しぶりに人間に話しかけてみたいけど、相手の事がよく分からないしな」
残念そうな声でそう言った少女は、近くの木になっていた果物をもぎ取る。
赤いリンゴのような食べ物だが、黄色い斑点がついていた。
その果物に皮ごとくらいついた少女は、しばらく口を動かす。
そうしている間に、虎型のモンスター、イエロータイガーが目の前に現れた。
少女は、自身が持っていた短剣出、とびかかってきたイエロータイガーをかわし、一息で喉を引き裂いた。
イエロータイガーは苦しそうにしながらも、少女に反撃しようとしたが、それは叶わなかった。
少女が近くにあった木の枝を折って、とびかかってきたイエロータイガーの心臓に深々と突き刺したからだ。
「帰ったら祠の掃除しなくちゃ、誰も気にしてないのに、仕事だけはやらせようとするんだから」
少女は虎に襲われた事など気にもせず、その後の事を考えていた。




