第16話 到着
その日の夜。
シャックスは船の一室で静かに過ごしていた。
セブンとの生活の間にシャックスは、小舟に乗った事はある。
だが、今乗っているような大きな船には乗った事がなかった。
そのためシャックスは船酔いの心配をして、いくつかの薬を用意していた。
しかし、幸いにもその薬を使わずには済んでいた。
ちなみに、他二船酔いになる者達がちらほらいて、シャックスは海を眺めながら死んだ目をした者達を何人も見かけていた。
気の毒だったため、薬をわけたら感謝されたのだった。
朝食と夕食は国から支給されるため、困る事はない。
船のコックが決まった時間に調理して、食堂で振る舞ってくれる。
シャックスも先ほど夕食を食べたばかりだ。
国が雇うコックだけあって、腕は確かで、味は申し分なかった。
アーリーやナギ、ロック達と一緒に食事をし、シャックスは楽しんだ。
しかし、大食漢もいるため支給される食事だけで足りない者もいる。
そういった者達のために、追加でお金を払えばその都度食事を用意してくれるという。
シャックスは提供される食事で十分であるため、必要性を感じていなかった。
シャックスは夕食の事を考えながら、部屋でのんびりと過ごす。
グリードから一人一冊、未踏大陸についてまとめられた同じ内容の情報冊子を支給されていたため、それらに目を通していく。
大陸は大きな楕円形の形をしており、第一陣は初めに外周をぐるっと回っていた。
そこから中心部にかけて険しい山脈が続き、だんだんと高度が上がっていく。
大昔に噴火した火山から降り積もった灰と岩石で、基本的な部分が形成された大陸だった。
探索隊は中心部に向かって進んだが、たどり着いたものはいない。
情報冊子を読んでいたところ、シャックスの部屋を訪ねてくる者達がいた。
アーリーとナギ、ロックがシャックスの部屋にやってきた。
彼等は自分達とパーティーを組まないか提案しにきたのだ。
「私達、これからは一緒に行動しましょうよ」
アーリー、ナギ、ロックが続けて喋る。
「この四人なら、気が合いそうだなと思いました」
「おう、俺も悪い奴じゃなさそうだって思ったからな」
探検をする時にはパーティーで行動するのがセオリー。
シャックスは彼等とならうまくやっていけると判断する。
そのため、シャックスはアーリー、ロック、ナギと四人パーティーを組む事に決めた。
その後は、親睦を深めるためといって、互いにもっと深い自己紹介をした。
好きな物や好きな事、得意な事、これまでの生活について1時間ほど語り合った。
シャックスには友達がいない。
しかし、友達がいたらこういった事をするのだろうなとシャックスは思った
翌日、シャックス達は船内にある修練場を訪れた。
船に乗っている間に体力が落ちてしまわないようにと、様々なトレーニンググッズが用意されている。
他の探索メンバーたちは数人ほど来ていた、体を鍛えていた。
シャックス達も色々な道具を試してみる。
一通り試したところで、シャックス達は互いに戦ってみる事にした。
くじ引きで決めたのは、シャックスとロック。
アーリーとナギの組み合わせだ。
初めにシャックスとロックが戦う。
「遠慮はしなくても大丈夫だ」
とシャックスが伝えると、ロックは「分かった」と言って、拳を打ち込んでくる。
軽くて遅いそれらをシャックスが避けていくうちに、だんだんと互いの体が温まってきた。
ロックは素早く動いて、シャックスの背中をとろうとする。
ロックは相手の死角から攻撃するやり方を得意としていた。
しかしシャックスは簡単に背中を取らせない。
ロックから距離をとって、風の魔法で拘束した。
ロックは「参った!」と告げる。
シャックスの勝ちだった。
次は、ナギとアーリーが戦う。
矢の先端を丸くした訓練用の弓でアーリーが攻撃する。
「じゃあ、私達もやるわよ」
ナギは、風の魔法でその攻撃を防御します。
「お手柔らかにお願いしますよ」
そして、炎の魔法でアーリーを取り囲んだ。
船は木製だったが、修練上は鉄や石でできており、魔道具の効果などもあったため、室内が燃える事はなかった。
他の魔法も部屋を傷つける事はできない。
アーリーは炎に取り囲まれるが、すぐにそこから脱出した。
炎の魔法が弱まったからだ。
アーリーはこの部屋に備え付けられている魔道具と同じものを持っていた。
理由は、そのためだ。
脱出してすぐに攻撃したアーリーの弓が、油断していたナギに当たる。
ナギは「降参です」といって負けた。
その後、もう一度組を変えて、何度か互いに戦いあった。
この時間でシャックス達は、ほぼお互いの実力を把握したのだった。
数週間後。
シャックス達は未開の大陸へ到着する。
グリードが魔法で作った氷の港に船がつく。
シャックス達は冷気を感じながら降りた。
未開の大陸は、島のサイズや植物、生き物たちが異様に大きかった。
目の前を巨大な鳥が飛翔していき、その鳥は捕まえていた魚を落とした。
それはシャックス達を丸のみできるほどの巨大な魚だった。
魚がびちびちと跳ねるとたくさんの水しぶきが飛んでいく。
それを見たシャックスは自分が小人になったようだと感じた。
探検に出発する前に、グリードが最後の説明を行う。
「しっかり聞いておけよ。大事な事だからな」
先発の探検隊が調べた所によると、安全ラインが存在するという。
そのライン内であれば、監督者が救出してくれると言った。
しかし、そのラインから出たら、救出はされないらしいという。
ラインの向うで倒れた者を発見した場合は、支給品のタグを持ってくるように言った。
時刻を知らせるため、一週間の間は鐘を鳴らしてくれると言う。
シャックスは船を見つめる。
船には、大きな鐘が設置されていた。
魔道具で出来た鐘は不思議と遠くまで響くようになっている。
シャックス達が全滅した場合は、船は亡骸や所持品などは回収せずに都に戻ると言う。
探索メンバーが死亡した事を知るのは、魔道具のタグによるものだ。
一人一つ渡された金属のタグは、持ち主が死ぬと特殊な音を響かせ、船の鐘をわずかに振動させるらしい。
その振動の回数が、探索メンバーの数に達した時、全滅の判定が下される。
その話を聞いたシャックスが仮死状態になった時はどうなるのかと質問した。
仮死状態の場合もタグは機能し、船の鐘も鳴るが、音がほんの少し違うため、聞き分ける事ができるのだ。
アーリーが仮死状態なんてあるのかと聞いた。
「仮の死ってそんな事ありえるの?」
その質問にはロックが答える。
「たまにあるみたいだぞ。珍しいけど、俺も冬の川に落ちて一度心臓とまったけど、少し経ったら動き出した事があったからさ」
ナギが「人間って不思議ですね」と相槌を打った。
近くにいたハクがその話を興味深そうに聞いている。
シャックスは純粋にその時の事が聞きたくなったが、これから探索なので、好奇心はしまっておいた。
シャックス達はいよいよ出発する。
他のメンバー達の行動は様々。
意気揚々と出発する者もいれば、慎重に進む者もいる。
シャックス達は後者だ。
ロレンス達が一番に走っていくのを眺めながら、アーリーが「ああいうタイプ、早死にしそう」と呟いた。
シャックス達はまったく同じ気持ちで頷く。
ロレンスのおかげで四人の心は探索開始一分で一つになった。




