第13話 アリーナ
シャックスはアーリーと共に、アリーナにたどり着く。
「アリーナにアーリーがたどり着きましたよっと。それはリアーリー?」
アーリーはダジャレが好きだという事が分かった。
シャックスはアーリーの顔を数秒間見つめた後、視線をそらした。
アーリーは赤くなって頬を膨らませる。
「ちょっとぉ、何か言ってよぉ!」
「……」
シャックスは反応に困った。
アーリーがポカポカと肩を叩いてきたので、無言の吐息をテレパシーで伝える事にする。
建物の内部に入ると、すでに多くの人間が集まっていた。
大抵の人間は推薦状がある者達だったが、そうでない者達もいた。
「推薦状がある人は向こうに並んで! 無い人はこっちね!」
「人数が多いんだからさっさと動け! この調子だと日が暮れちまうぞ!」
声を出している男性や女性がきびきびと動いて、人を整列させている。
彼等はみな、揃いの服を着ていた。
アーリーによると、騎士団の制服らしい。
試験を監督するために、休日返上で働いている。
本当なら休みだったのに、と涙目でぼやいている者もいた。
シャックスはアーリーと別れ、左右に分けて待機させられる。
アーリーは推薦状のない者だった。
さらに整理のために強面の男性が参加希望者を10人ずつのグループに分けていく。
シャックスが参加希望者を数えると、ざっと300人ほどいるようだった。
待っている時間で、参加希望者の顔を見回していく。
サーズがその中にいたのには驚かなかった。
揃っている者達の年代は比較的高めだが、若者の年代がシャックスが予想していたより多かった。
シャックスと同年代の者達が多く存在している。
それらを確かめてからシャックスは、自分が分けられたグループの面々を見つめる。
彼らはみな凡庸な顔つきをしていた者達だったが、シャックスは一人の少年に注目した。
灰色の髪に黒い瞳の、同年代の少年だ。
気弱そうで神経質そうな少年は、周囲をきょろきょろと見回していた。
しかしシャックスはこの中で一番生き残りやすそうだなと、彼を評価する。
人混みの中を移動する身のこなしを見てそう判断した。
何度も人とぶつかりそうになっていたが、それでも身のこなしは軽い。
シャックスでも避けられるかどうか分からない、きわどい瞬間でもきちんと避けていたからだ。
開始時間がきて、強面の男性が話を始めた。
茶色の髪に、紫色の瞳をしている。
「私の名前はグリード・グリフォン。今日はよく来てくれたな」
男性の名前はグリードと言い、国の中で活躍している魔法使いだと簡単に自己紹介。
見た目は50代で、額に傷があるのが特徴的だ。
グリードは自分の事を語るでもなく、すぐに説明すべき事を淡々と口にしていく。
グリードは大陸踏破についての簡単な説明と、これから行うテストについて話す。
試験を受ける者達の様子は様々で、居眠りする者やメモをする者。
自信満々に頷きながら耳を傾けている者がいる。
シャックスが注目していた少年は話をメモしていた。
シャックスはなぜかその人物に視線が吸い寄せられている事に気が付く。
違和感を抱いたが、それ以上深く考えず、説明の内容に集中した。
グリードは、大人しく説明を聞いている者達を見回す。
集まってきた希望者の顔ぶれは、第一陣と比べると比較的若い者達が多い。
推薦された希望者や、前もって希望すると予測されていた者達の素行調査はざっと済んでいる。
野心に溢れた顔つきをしている者や、追い詰められた環境から一発逆転を狙う者など、理由は様々だ。
だがその場に集まった者達は、恐れを知らない顔つきが多い。
過剰に恐怖心を抱く事は良くないが、かといって余裕を持ちすぎるのも良くない。
甘い見通しのツケは、自分で払う事になるだけでなく、周囲の人間にも被害を及ぼす。
グリードはこれまでそこそこの年数を生きてきたため、その事実を嫌と言う程把握していた。
気を引き締めて、しっかり見極めなければならないなとグリードは思った。
説明終了後。
シャックスはグリードが話した内容を頭の中でまとめながら、他の者達と共に場所を移動する。
まずは全員、魔力量を図る事になった。
推薦状のある者達から、テーブルのあるスペースへ向かう。
そして、テーブルの前に並んだ者達は、順番に用意された水晶に手をかざしていく。
「水晶は魔道具で、国宝なので壊さないようにしてください」だと試験監督の男性から説明される。
「許可した時以外手に触れないように」
それに加えて「壊したら弁償する事になるから注意しろ」とグリードが脅した。
視界の隅で何割かの人間が体を震わせる。
アーリーも少し身震いしていた。
シャックスは落ちこぼれでもクロニカ家の人間として過ごしてきたため、水晶の値段に思うところはないが、貴族ではない人間にとってはそうではなかった。
普通に働いていては、一生かけても弁償できない金額だったからだ。
シャックスは、こういった事は気にするべき点なのだと思いながら、気を付けて自分の番に水晶の前へ移動する。
シャックスには、普通の魔力量というものが分からなかったが、ここにいる者達の魔力量が全員高い方にあるという事は分かった。
グリードたち会話から推測したからだ。
「魔力の面では問題のない人間が多いな。みな平均よりかなり高い」
相槌を打つほかの人間も「そうですね」と同意している。
シャックスの順番が来る前、視線の先で、次々にテストが行われたが、みな手をかざすと水晶はまばゆい光を発した。
シャックスはその時の光の強さをできるだけ覚えておく事にした。
そうしていよいよ、シャックスの順番が来たため、自分の魔力を抑えて、テストをこなす。
セブンの修行で、魔力を抑える事ができるようになっていたのが幸いだった。
旅立つ前にシャックスはセブンから、探索中に他人から妨害が入る事を考えて、「いつもより抑えて」と言われていた。
強者が目立つと妬みや僻みを買うからと、実感のこもった声で。
水晶は一瞬強く光りかけたが、すぐに他の者達と同じ光量になった。
目の前で見ていた試験監督の男性が「平均ですね。次の人どうぞ」と言う。
シャックスはすぐにその場から立ち去る。
しかしグリードの目は誤魔化せなかった。
シャックスが去った後、グリードが呟く。
「毎年ああいう事をやるやつが必ず何人かいるんだよな」
グリードは、シャックスが魔力量を偽装しているのを見抜いていた。
「これからの事を考えて慎重になっているのか、自分を偽る事に慣れているのか、どっちなんだかな」
多感な時期の少年少女が探索に選ばれれば、大陸探索で仲間割れが起きると考えていた。
その少し後、アーリーも魔力の量を調べられる。
彼女は平均よりも少し少ないようだった。
水晶におっかなびっくり触って光らせた後、手を離してすぐにほっとした顔になった。
予想外だったのは、メモをとっていた少年だ。
その少年が、水晶に触れると、平均より強めの光が発せられたからだ。
魔法の才能があるのかもしれないな、とその光景を見たシャックスは思った。
その後は、軽いテストがあった。
足の速さや瞬発力、握力、視力検査などをこなした。
その中で注目を浴びていたのはサーズだ。
シンプルなテストだったがすべてかなり優秀な数値を記録して、見守っていた希望者や試験監督の者達を驚かせていた。
一方シャックスはこれも無難な数値に調節した。
しかし、瞬発力のテストで少し予想外の事が起きる。
それは、試験監督者が笛で音が鳴らした瞬間に、的に石をなげるというテストだった。
シャックスは普通の成績にしたのだが、グリードが背後からシャックスに紙屑を投げつけたため、うっかり振り返ってキャッチしてしまった。
その瞬間だけ注目を浴びたシャックスはまずいと思ったが、グリードも試験監督者も深く追求しなかったため、安堵したのだった。
瞬発力のテストで良い成績だった者達は他にもいた。
アーリーやメモをとっていた少年がそうだった。
二人ともかなり反応が良く、他の希望者達から驚かれていた。
最後に行われるのは実戦形式のテストだ。
十人で一塊になり、木製の武器を渡される。
アリーナの各所に作られた簡易的な舞台の上で戦うのだ。
他の人間に一撃入れたら死亡させたとみなされるらしい。
さっそく最初のグループがテストを行う。
テストの基準は曖昧で、勝てば良いと言うものではなかった。
生き残っても敗北者の方が合格するケースがある。
それは立ち回りの良さや、手数の多さ、連携などを評価しての事だった。
そのため、卑怯な行動で勝利した者は、失格になっていた。
国からの依頼を適当にこなされては困るからと、グリードは解説した。
成果が重要で、生き残る事は大切ではないと暗に言われているのは、さすがにシャックスも思うところがあったが、何も言わなかった。




