第11話 十五歳
セブン考案の修行は厳しいものばかりだった。
セブンが監督している時に、シャックスが修行でへまをすると、気配を消したセブンに容赦なくハリセンでどつかれた。
どつきすぎてハリセンが破れて使えなくなった時は、そこら辺にあった木の棒で叩かれた。
木の棒で叩かれるのは痛いため、セブンが眠っている間にこっそりハリセンを修理する日もあった。
セブンは出会った頃より、シャックスに遠慮がなくなっていた。
何か失敗すると容赦なく、罰としてどつかれた。
しかしシャックスはそのおかげで、ふいうちの攻撃に対応できるようにもなった。
修行に慣れてくると、一人で黙々とモンスターと戦う事が多くなった。
しかしたまには、セブンに連れられて、彼女の用事に同行する事もあった。
それは町や村を荒らしているモンスターの退治だった。
遺跡のある町で、遺跡荒らしが起こしたガーディアンゴーレムが暴れまわった時があった。
ガーディアンゴーレムは機械と岩が合体したモンスターだ。
魔王が生きていた大昔、戦闘のために改良したモンスターだと、モンスターの情報を乗せた図鑑には描かれていた。
過去の事実はその通りだったので、特に異論はなかった。
話は現代に戻り、シャックスはそのモンスターと戦った時、セブンと協力してガーディアンゴーレムを退治した。
しかし、それは簡単ではなかった。
セブンが、魔法を使ってガーディアンゴーレムを一度は倒したが、相手が再生したのを見て驚いた。
シャックスが、同じように魔法でガーディアンゴーレムを倒しても、再生した。
ならばと今度セブンは、苦労して物理攻撃で倒した。
あまり得意ではないといったセブンは、剣でガーディアンゴーレムを攻撃したのだ。
しかし、ガーディアンゴーレムは復活。
同じようにシャックスがやってみても、復活してしまう。
そのため二人は、一度モンスターの前から退いて、作戦会議をする事になった。
話し合いの結果、シャックスは以前クロニカ家の屋敷で見たモンスター図鑑を思い出した。
その本はクロニカ家の書庫にあったもので、いつか家を出る時のためにと、人目を忍んで本を読み、知識を蓄えていたのだ。
その本によると、ガーディアンゴーレムの倒し方はかなり厄介だった。
二人の人間が対象を同時に攻撃して、左右から魔法を当てなければならないという特殊な戦い方をする必要があった。
改良されたモンスターは、このように特殊な戦い方で倒す必要のあるものが多かった。
だからシャックスはセブンと息を合わせて左右からモンスターを挟み込み、同時に攻撃。
最大火力の水魔法と雷魔法を食らったガーディアンゴーレムは、今度はしっかりと倒れたのだった。
セブンはその戦いを終えた後、シャックスの頭を撫でて褒めた。
「大分強くなったわね」
シャックスの魔法の威力やコントロールはセブンのものにも劣らないレベルになっていた。
その言葉を受けとったシャックスは、胸の中が誇らしい気持ちで満たされた。
それはシャックスがシャックスとして生きてきた人生の中、初めて抱いた感情だった。
弟子として恥ずかしくないように強くなりたい。
シャックスはそう思った。
シャックスは、強者との戦い方を身に着けていった。
セブンと共に過ごすうちにシャックスは、笑う事が多くなった。
修行が進んだ時、シャックスはセブンにある事を告白した。
それは、自分には前世があるだろうという事だ。
それは雪の降る寒さの厳しい日の事だった。
大雪が降るため、外出できない日が続いていた。
始まりは、暖炉に火をつけて温まっていたセブンに、シャックスから話しかけたのだ。
「どうかしたの? そんなに緊張した顔をして」
カラスを撫でてまどろんでいたセブンは、シャックスの緊張を和らげるように微笑んだ。
シャックスは前世の事を話し始める。
おぼろげにしか覚えていないが、英雄ゴロとして生きてきたシャックスは、一度倒したはずの魔王と戦った後に死亡した。
しかしなぜか、記憶を保持したまま転生し、シャックスとして生まれたと言う。
セブンには恩があるし、家族のように思っていたため、隠し事はしたくなかったのだ。
それを聞いたセブンは、静かにシャックスを抱きしめた。
そして「打ち明けてくれてありがとう」と言った。
セブンは続けて言う。
「レーナ達には話してないの?」
シャックスは首を縦に振った。
「そう。やっぱり。話していたら、手紙に書いてあったはずだもの」
セブンは、今までその秘密を誰にも打ち明けられなかったシャックスに同情していたのだった。
シャックスは家族にも打ち明けたかったと後悔した。
シャックスが眠った深夜の時間。
セブンは、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
シャックスを助けたときは、これほど長い付き合いになると彼女は思っていなかった。
レーナという知人の頼みを聞いて、ほんの少し手助けをするだけのつもりだったのだ。
その頃は、レーナや他の子供達も生きていると考えていたため、彼女達が静かに暮らせる地域をいくつか調べなければならないと思っていたぐらいだった。
しかし、その努力はあっけなく終わった。
生き残ったシャックスには、これからも乗り越えなければならない壁がいくつもあるだろう。
そう思ったセブンは、弟子の将来が明るいものであることを願った。
シャックスの眠っているベッドに向かうと、静かに寝息を立てている少年の姿が見える。
拾ってきた頃は、たまにうなされていたが今はそんな事はなくなった。
セブンはそんなシャックスの様子を見て、ほっとしながら数日前の出来事を思い出した。
小さな町に出かけたとき、彼女はジョウンとマルコという男性に出会った。
彼らは教会に付属している医療施設で働いており、身分を隠しているようだった。
それらは、シャックスを拾った森に定期的にカラスを派遣して周辺を見守っていたために、分かった情報だ。
逃げる彼らを追跡し、彼らがいきついた先を監視して、害がないことが判明したのはセブンやシャックスにとって喜ばしい事であった。
シャックスからの情報が少なすぎるために警戒をしていたが、それは徒労に終わったのだった。
できればジョウンとマルコに、シャックスが無事であることを伝えたいが、、それは当分先になりそうだなと、セブンは思った。
ちなみにいつも飼育しているカラスは家の中で眠っている。
他にも手なずけているカラスがいるが、自分が住んでいるエリアを離れたがらない個体もいるため、各土地の情報を収集させているのだ。
月日は流れていく。
数年が経過し、シャックスは十五歳になっていた。
修行メニューを全てこなした後、力がきちんと身についているかどうかのテストがあった。
シャックスはセブンから、荒野にいる巨大モンスターを倒せと言われた。
そのモンスターはかなり防御に長けたモンスターだった。
分厚い皮膚を持った恐竜型モンスターだ。
エレメントレックスと呼ばれ、魔法攻撃に強い耐性を持っていた。
シャックスの得意分野はあまり効かなかった。
しかし、シャックスはこれを難なく倒す。
魔法の力を付与した剣でエレメントレックスを切り裂いた。
シャックスは魔法の力を無機物に宿す事ができるようになった。
シャックスは魔法の天才だが、前世の影響とセブンの教えによって、護身術を習得。
そこそこ使えるようになっていた。
その後は、炎の魔法でモンスターを丸焼きにしたのだった。
その日の夕食は、お肉三昧の料理になった。
セブンはお祝いに、高級なお酒をふるまったが、酔っぱらって先に潰れてしまった。
シャックスは苦笑しながらセブンを彼女のベットに運び、布団をかけてやった。
シャックスは眠っているセブンに向けて口を開く。
何かを言おうと喉を動かしたが、音は紡がれなかった。
喋れないと分かったシャックスは目を閉じて何かの魔法を使おうとした。
しかし、それもできなかったため、残念そうな表情になって、セブンの寝室から去る。
一方クロニカ家は今まで通りに歴史を紡いでいた。
ワンドは変わらず王から重宝され、重要な任務で成果を上げていた。
アンナとサーズも順調に強くなり、大人たちからの期待が増えていた。
アカデミーを卒業し、勉強をした彼らは、それぞれの道に進む事になっている。
貴族の子供はみな、数年間アカデミーで様々な知識を学ぶ事になっている。
だから、二人も学び舎で研鑽を積んだのだ。
アンナはクロニカ家の当主として君臨し、サーズは国の兵士として名前を上げるという道を歩み始める。
そんな中、ワンド達は、国の要人とあっていた。
社交パーティーで他の貴族たちと交流する。
その社交パーティーを催したのはワンドの知り合いの一人だ。
ワンドは対して気に留めていない存在だったが、資金力がある面と顔が広い面は評価していた。
参加者たちは、ワンドの前で時折家族について言及する。
話をする者達はみな、沈痛そうな面持ちだが、本気で喋っている者はいなかった。
いなくなった家族は、事故死扱いされていたが、双子にまつわるこの世界の事情を知ってるため、裏で処分されたと思っているからだ。
幼い子供の死は悲しいことだが、仕方のないことだと言う認識が彼らの中にあった。
アンナもサーズも堂々とした態度で社交をこなし、人々から好意的に受け入れられていた。
彼女達の頭の中には、亡くなった家族に関する思いはなかった。
「シャックス達の事は残念でしたわ。とても悲しかったです」
「生きていてくれたらと思う日もありますが、いつまでもクヨクヨしてられませんから」
人々から話題に出されても、あたりさわりのない言葉を口にするだけだった。
要人の一人と会話をするワンドは、国が探索隊のメンバーを募集していると聞く。
未開の大陸が発見されたので、その土地に探索隊を派遣したのだが、帰ってこなかったという。
だから第二陣を送り込む事が予測されていた。
ワンドはその探索隊にサーズを入れようと考えていた。




