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プロローグ



 世界セブンアーク。


 その世界には各地にモンスターが生息していた。


 モンスターと人間との生存はほぼ不可能。


 強力な力を持つモンスターのせいで、セブンアークに住む人々は生活を脅かされていた。


 それだけならまだしも、モンスターを率いる魔王という存在がやっかいだった。


 魔王は人類を絶滅させようと企み、モンスターを統率して、人間の村や町を襲っていたからだ。


 そんな現状を嘆いたとある国の王様が、若者たち達に魔王の討伐を頼んだ。


 魔王の討伐を頼まれた者達の名前は、セブン、アンナ、ニーナ、サーズ、フォウ、ゴロ。


 彼等は全員王と王妃の子供だった。


 国王と王妃は世界のためと思い、泣く泣く子供達を魔王討伐に送り出す。


「お前達にしか頼めるものがいない。酷い親で済まないが、魔王を倒してほしい」


 子供達はみな、実力者だった。


 戦う力を備えた者達で、世界の中でも上から数えた方が早い強者だ。


 そのため、確実に魔王を倒すなら、彼等に頼むのが最善だった。


 王家の血が絶える可能性があったが、世界の未来のためと思い、王は決断する。


「私に戦う力があれば良かったのだが……」


 子供達と比べて王には戦う力がなかったため、王は悄然としていた。


 国王は白い髪の赤い目をした40代の男性だ。


 そんな王の肩に手を置くのは王妃。


 王妃は黒い髪に青い目をした40代の女性だ。


「あなた、私達の子供なんですからきっと大丈夫ですよ」


 国王は、険しい表情の中に悲しみの感情を滲ませる。


 王妃は、心配げな表情をしながら安心させるように王へ微笑んでいる。


 両親に見送られた子供達はやがて、自分達が生きて育った国を旅立つ。


 その国はワンダー大国。


 七色の大樹に囲まれた国だ。


 彼等が育った都は、王都ワンダーアクト。


 巨大な枯れ木の内部に作られた都市。


 王子や王女達が大通りを通って、旅立つ日。


 国民達は心配そうな表情で見送った。


 少数の護衛の兵士が子供達を囲んでいたが、彼等は再びこの都市に帰ってくる事はなかった。


 王子や王女達は笑顔で国民たちに手を振りながら、都を出ていく。

 



 そして子供達は、様々な冒険を経て、力を付け、武器を手に入れ、艱難辛苦の冒険の後、魔王の元へたどり着く。


 だが、ほとんどの子供達は戦いの途中で倒れてしまった。


 魔王との戦いで最後まで立っていたのは、ゴロだけだ。


 闇色の炎がめらめらと燃える中、二つの人影が動く。


 二本の剣を持った人影は、圧倒的な剣技と攻撃の速さで相手を翻弄し、絶えず動き続けた。


 巨大な二本の角が生えた人影は、あまり動かず、黒い色の炎を操って、相手と戦う。


 最後に立つ二人のその戦いは、丸一日続いた。


 そして、ちょうど、魔王討伐の旅が始まってから一年が経過した時、魔王は死亡する。


 闇色の炎の中、二本の角が生えた人影が倒れる。


 その事実は、すぐに王様と王妃に知らされた。


 安全なところに避難していた鳩が、日本の剣を持った人影へ近づいていく。


 その鳩は旅に連れて行った伝書鳩だ。


 それからしばらく後、伝書鳩を受け取ったワンダー大国の人間が、王様と王妃に魔王討伐成功の事実を知らせ、2人は微笑み、涙をこぼしながら抱擁を交わした。


 魔王が倒れたという知らせはすぐに各地へ伝わる。


 その日、世界中が魔王討伐を祝福した。




 魔王討伐の旅が始まってから一年後。


 それは、魔王を倒した直後だ。


 とある荒れた大地の上に数人の男女がいた。


 その大地の名前は、七色の大地と呼ばれていた。


 数日前までは、七色の花や草が咲き乱れる場所だったのだが、今は見る影もなくなってしまっている。


 英雄ゴロは、ボロボロになった大地の上に立っていた。


 地面はいたるところがえぐれ、焼け焦げている。

 ゴロ自身もボロボロだった。


 ゴロは20代の男だ。

 金色の髪に、金色の瞳である。

 ゴロの身長は成人男性ほどで、体つきも一般的。

 しかし、ゴロが持っているシルバーの剣とゴールドの剣、2本とも重かったため、それらを使いこなすだけの筋力はあった。


 ゴロがゆっくりとした動作で、両手に持っている剣を放り投げると、地面から土埃が立つ。

 その後ゴロは、息を吐いて、その場に座り込んだ。


 そんなゴロに駆け寄る人影がいくつかある。

 最初に駆け寄ってきたのは、セブンという女性。

 兄弟たちの長女だ。


「よくやったわね。あなたは私の自慢の弟子よ」


 彼女は、ゴロの師匠である魔法使いだった。

 ゴロは現在剣士であるが、剣士になる前に魔法を修行していた事があったため、セブンはその当時の師匠である。


 そんなセブンは、三十代の女だ。

 赤い髪に橙色の瞳。

 王や王妃とも似ていないが、それは先祖の特徴が出ているだけだった。

 身長は高く、筋肉質で体格は平均よりがっちりしている。


 セブンはゴロを労うように、誇らしげな笑みを浮かべて、頭を撫でた。


 次にその場にやって来たのは、双子の女性だ。


 ゴロと同じ二十代のその女性は、左右からゴロの顔を覗き込む。


 どちらも釣り目、くせ毛であり、よく似た顔をしている。


 一方は、アンナという名前で、白い髪に赤い瞳だ。

 二番目の子供である。


「末っ子のくせになかなかやるじゃない」


 もう一方はニーナという名前で、黒い髪に青い瞳である。

 彼女は三番目の子供だ。


「疲れたでしょう? お疲れ様」


 彼女達は、左右からゴロの肩に手を置いて、ゴロを労った。


 アンナはゴロの頬をからかうように引っ張り、ニーナはハンカチを取り出して、ゴロの額から流れる汗をぬぐう。


 最後にその場にやってきたのは、二十代の男性の双子。


 彼等はゴロの剣を拾って、ゴロの前に回りこむ。


 どちらも垂れ目で、男性としては珍しい背丈ほどの長髪であり、尚且つよく似た顔をしている。


 一方はサーズという名前で、もう一方はフォウという名前である。


 サーズはゴロの剣を担いで、疲労困憊のゴロを見つめながら肩をすくめる。

 彼は四番目の子供である。


「お前は俺ほどの実力者じゃないが、どこに紹介しても恥ずかしくない弟になったな」


 フォウはゴロの剣の汚れをとりはらいながら、ゴロの前に剣を丁寧に置いた。

 そして、フォウは五番目の子供であった。


「昔の事を考えれば、お前がこんなに強く育ってくれたのは、兄として鼻が高いよ」


 ゴロは、その場に集う者達に笑いかけ、空を見上げる。


 空には、雲一つない青空がどこまでも広がっていた。




 場面は移り変わり、瓦礫に覆われた町の中、巨大な馬車がゆっくりと走る。


 ボロボロになった大通りの真ん中を、六台の馬車と、何十台もの護衛の兵士を乗せた馬車が進んでいた。


 馬車は宝石や彫刻などで装飾されていて、豪華だ。


 先頭の馬車の上に立っているのはゴロで、その後にセブン、アンナ、ニーナ、サーズ、フォウが乗る馬車が続いていく。


 馬車が通る大通りには、多くの人達がいる。


 人々は満面の笑みを浮かべながら、馬車の上に乗っている者達に、拍手を送り、感謝の声を伝えていた。


「パパ、ママ! あれが魔王をやっつけた英雄さんなんだね。すごーい」

「魔王の恐怖から解放されたのは本当だったんだな」

「こうして英雄達の姿を見ると、強く実感するわね。本当にありがたいわ」


 馬車はやがて、ボロボロになった城の前にたどり着く。


 ゴロ達は、傷んだ赤いカーペットの上を歩きながら、城の中へ入った。


 城の廊下にはたくさんの兵士たちが並んでいる。


 廊下はところどころ、傷がついていたり、壊れていた。


 負傷している者達が多くいたが、彼らの表情は明るかった。


 廊下を歩いたゴロ達は、大座の間にたどり着く。


 広い王座の間は他の場所とは違い、ボロボロではなかったが、装飾はなかった。


 以前は装飾があったが、魔王討伐の旅が始まってからの1年の間に取り払われていた。


 王座の間にある赤い大きな椅子には、王様が座っていた。


 子供達の父親でもあり、国を導く存在でもある王様が。


 王様は、赤いマントと金色の王冠をかぶって出迎えた。


 王様の傍には何人かの人間が控えていて、誇らしげな笑みを浮かべている。


 王様はゴロ達にいくつかの言葉をかけた。


「よくぞ魔王を倒してくれた。私は父親としても、王としても誇らしい」


 魔王討伐への労いの言葉。


「大変な旅だっただろう。すぐに終わらせるから、体を休めなさい」


 旅を終えた事への労いの言葉。


「この世界の未来を、この国の国民の未来を守てくれた事、感謝する」


 世界と国民の未来を守ってくれた事への労いの言葉が続く。


 その後、王様の傍にいた者達が勲章を渡す。


 受け取ったゴロ達は、王様に向けて深く礼をした。




 ゴロ達はその後、平和に余生を過ごした。


 ゴロは自分の剣技を活かし、モンスターの討伐だけでなく、資材や木材の伐採などをしながら、人々の生活の助けをして過ごした。


 セブンは王になり、魔法でモンスターを退治して過ごした。


 アンナとニーナは、前の王様と新しい王様の傍に立ち、ならず者たちから王様を守って過ごした。


 サーズとフォウは、荒れた土地を探検し、人々の生活の糧となるような新しい食べ物やモンスターを探した。


 そうして彼らはゆっくりと年を取っていき、寿命を迎える。


 命の灯火が消える寸前、ゴロはとある人物と対峙していた。


 それはとある森の中だ。


 薄暗い森の中は、昔ゴロが倒れていた場所であった。


 目撃情報を頼りにゴロが森へ向かうと、魔王は光る石のかけらを盛って静かにたたずんでいた。


 その姿は正真正銘の魔王であった。


 ゴロが戦って倒したはずの相手、モンスターを率いて人々を襲っていた魔王だったのだ。


 ゴロは魔王と戦う。


 邪悪な闇の魔法を操る魔王と、金の剣と銀の剣で。


 しかし、ゴロは魔王に負けて、命を落としてしまった。


 魔王は勇者に向けて「呪ってやる」と言った。


 最後に、その場に駆けつけた仲間達が魔王を討伐するが、ゴロの命を助ける事はできなかった。


 ゴロは知らない事だが、魔王はその後自分の魔力を暴走させて、自殺したのだった。




 命を落としたゴロは、その寸前に走馬灯を見る。


 ゴロは王家の血を引いた人間ではなかった。


 ゴロは桜の国という、世界の東の方にある国の出身だった。


 魔王が操ったモンスターに国を滅ぼされ、モンスターから逃げる時に、船で海に出た。


 ゴロが住んでいた村は海辺の近くにあったから、離れるためには船に乗るのが最適だったからだ。


 しかし、ゴロには船を操る能力はなかったため、漂流してしまう。


 その後、様々な国をわたって、ワンダー大国にたどり着くが、そこで力尽きてしまう。


 そんなゴロを助けたのは、レーナだった。


 レーナは子供達と共に旅行中だった。


 景色の良い観光地を回っている途中で、整備された森の中を護衛達と共に歩いていた。


 そんな彼女は、倒れているゴロを見つけて保護したのだ。


「大丈夫? しっかりして! 大変、手当をしなくちゃ!」


 つい最近、病人を発見して、保護していたレーナは、医薬品を持ち歩いていた。


 レーナはゴロの手当てをしている内に、境遇を不幸に思って、ゴロを養子にする事にした。


 ゴロはそれから、レーナの子供としてすくすくと育った。


 他の兄弟とも仲は悪くなく、護衛や使用人たちも親切だった。


 しかし、使用人の一人がゴロの悪口を言っていた所を偶然見てしまう。


「どこの子供か知らないのに、あんなのが王族として当たり前の様に生活しているなんて」


 その使用人はゴロが懐いている相手だった。


 その事にショックを受けたゴロは、声が出せなくなってしまう。


 周囲からさらに同情されたゴロが、素性の知れなさで虐げられたり、悪口を言われる事はなかったが、親しい人間の裏の顔を見た事実はずっと胸の中に残っていた。


 だからゴロは、皆に認めてもらうために剣士として頑張る事を決めた。


 自分の力で多くの人を助ければ、全てが解決すると思い……。


 そうして魔王を討伐する程の力をつけたゴロだったが、その後復興する最中ゴロの悪口を言っていた使用人は最後まで、心変わりをする事がなかった。


「王家の血を引いていないのに、いつまで王族のような顔をしているのかしら」


 復興作業中に王宮の瓦礫を片づけている最中、偶然聞いた使用人のその悪口は、再びゴロの心を大きく傷つけたのだった。


 親しい人に敵意を向けられる事が恐ろしい。


 強くそう思ったゴロの感情は、魔王に付け入られる隙を産む事になった。




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