21話
「それで、どうして記憶を呼び戻したの?」
私とルシアンは向かい合って紅茶を啜る。
ルシアンが用意してくれた紅茶は変わらずに美味しい。
「最後に君に会いたいと思って。」
「最後?」
「うん。」
最後に会いたいと言う言葉に困惑する。
「最後ってどういうこと?というか、そもそも貴方はどうして私の記憶をなくしたの?」
「順を追って話すよ。」
ルシアンは一息ついてからまた口を開く。
「僕が君たちと会った日のことは覚えてるね?」
「もちろん、あの日は悪魔に襲われたわね。とても怖かったのを覚えているわ。」
「あの時はとても焦ったよ。だって、まさか君がこの店にたどり着くなんて思いもしなかったらから。」
「あら?でも貴方は私にこの店に来てほしかったのでしょう?」
「それはそうなんだけど、魔力を持たない人間がこの場所を一人で見つけることは難しいはずなんだ。」
「だから驚いたってこと?」
「そう。」
「ふふっ、魔法使いを驚かせることができたなんて!」
「何を嬉しそうにしているのさ。」
「気のせいよ、ふふっ。」
「とにかく、話を戻すけど、あの日は君たちの言う異世界に行ってたんだ。」
「異世界に行ってた?それはどうして?」
「君たちのことについて載っている歴史書を探してたんだよ。」
「ねえ、前から思ってたのだけれどどうして私たちが歴史書に載っているの?
私にとって今は今だし、過去のことなんかじゃないわ。
でも、貴方の世界ではきっと私は過去の人物なんでしょう?」
「それを説明をするのは難しいけれど、簡単に言うと、、。
君の役目は2つの世界を結ぶポータルを探すことだよね?
そのポータルによって勇者が送り込まれるんだけれど、その時に時空がゆがんで勇者は過去に
飛ばされたんだよ。
だから、君たちのことも過去の話になったわけ。」
「ええっと、つまり、今を生きている勇者が過去の人間になったってこと?」
「そういうこと。」
「それなら、もう一つ疑問なのだけれど、どうして勇者は私のことを話すの?
ポータルを見つけるときに私は勇者と会うのかしら?」
「、、、それは僕も分からないんだ。
どこの歴史書、古い本、すべてを漁ってもポータルの見つけ方とか誰が見つけたのかとかは
書いてないんだ。
さっき言った通り、ポータルを見つけた人、つまり君がいたことを書いてある歴史書はあるけど、
君の詳細な情報が書かれている本は今のところ見つかっていないんだよ。」
「そうなのね、、。
もしかしたら、貴方が書くことになるのかもしれないわね。」
「僕が本を書く?」
「ええ、私のことはとってもいいように書いてくれることを信じているわ。」
「それはどうだろう。」
「あら、酷い。」
ルシアンとカリナはしばらく軽口をたたきあって話し込んだ。
「ねえ、そういえば最後ってどういうこと?」
そう聞くとルシアンの動きが止まった。
「ねえ、これでお別れってことなの?
私、テラスにも会いたいわ。それに、リアムとも貴方は随分長いこと会ってないでしょう?」
「そうだね、できるなら会いたいし、会わせたいよ。」
「どういうこと?」
「詳しいことは君には話せないんだ。」
「それはどうして?」
「僕たちの世界は君の偶然によって救われたって言うことは話したよね?」
「それは何度も聞いたわ。でも、貴方はそれが変わったとか言ってなかったかしら?」
「ああ、あの時はルートが違ったよ、でもそれを正規ルートに戻せたんだ。」
「つまり?」
「僕たちの世界がもう君に干渉する必要がなくなったということ。」
「だからお別れ?」
「、、うん。」
「なにそれ。私、何も知らされてないんだけど。」
「そうだね、ごめん。」
「ねえ、貴方が私と関わったら何かよくない方に事が進んでしまうの?」
「それは、わからない。でも、別世界の者たちが親密になることは禁忌とされているんだ。」
「禁忌?それならどうして貴方は私と関わったの?」
「それは、緊急事態だったから。
カプラの始祖から正式に声を聞いてその命令の元に僕は君と接触したんだ。」
「、、、。」
「本来なら僕たちは会うことはなかったし、君は君が課せられた使命を一生知らずに
生きるはずだった。」
「それも何度も聞いたわ。」
「未来はもう定まったんだ、だから僕の任務は終ったし、これ以上君と関わってはいけないんだ。
今日も、無理やり君をここへ呼んだんだ。」
「、、酷いわ。」
「ごめん。」
「私は貴方たちと関わらないはずで、それでいつも通りの生活を送るはずだった。
でも、貴方たちの都合で私は異世界のことを知らなくてはいけなくなったし、それによって
変な輩に襲われることにもなった。」
「そうだね、ごめん。」
「私たちは本来会うはずもなければ、別れる必要もなかった。
酷いわ、私たちせっかく友達になったのに、その記憶すらなくされて、気づいたらもう会えないって。
酷い、わ。」
目から涙が溢れるのがわかる。
ルシアンは私の涙を見て慌てる。
「ごめん、君を泣かしたいわけじゃなかったんだ。でも、きちんとお別れをしたくて。
でも、これも僕のエゴだし、それが君を悲しませてるよね、、。ごめん。」
涙でルシアンの表情はよく見えないけれど、悲しそうな顔をしているのは何となくわかった。
ルシアンも悲しんでくれてるんだ、、。
「ごめん、ルシアンも大変だったよね。魔法のない世界で私を見つけて、世界を救おうとしたんだもん。
大変だったね。」
そういうとルシアンは目を見開いて、目が潤んでいるように見えた。
私はルシアンを抱きしめた。
「ルシアン、未来はちゃんと平和になっているの?」
「ああ、平和だよ、とても。」
「そっか、よかった。ルシアンはもうこれ以上頑張らなくていいんだね。」
「そう、だね。でも、君とお別れをしなくちゃいけないのは悲しいよ、、。」
「私も悲しい、、。できるならまだ友達のままでいてほしい。」
「僕もできるならカリナ、リアム、テラスと昔みたいに話したいよ。」
「うん、、。」
「でも、違う世界の者たちが親密になると悪いものを寄せ付けてしまうんだ、お互いに。」
「悪魔とか?」
「それもあると思うけど、もっと恐ろしいものかもしれない。」
「そっか、それじゃあお別れしないといけないんだね。」
「ごめんね。」
「謝らないで、私は大丈夫。」
「ありがとう、、。」
「ねえ、私たちってお別れしたら記憶はなくなるの?」
「僕の記憶はなくならないけど、カリナの記憶はなくさなくちゃいけない。」
「それは異世界の未来のため?」
「それもあるけど、カリナの安全のため。」
「そっかあ。」
「ごめんね。」
「ううん、でもちょっと残念ね、ふふっ。私は貴方の記憶をなくしちゃうのね。」
「異世界に関する記憶は極力持たない方がいいから、。」
「そっか。悲しいけど、でも貴方の言う通りにするわ。」
「意外、もっと嫌がると思った。」
「そりゃあ嫌よ。でも、私ももうそこまで子供じゃないわ。」
「つい最近のことじゃないか。」
「長生きな貴方にとってはつい最近のことかもしれないけれど、私にとっては意外と前のことなのよ。
レディの成長スピードを舐めてもらったら困っちゃうわ。」
「そっか、君は人間だったもんね。」
「あら、今さらね、ふふっ。」
「ああ、そうだね、ははっ。おっと、そろそろ時間だ。」
「もう、時間切れ?早いわね。」
「これでも無理を言ったんだけどね、でも短いな。」
「、、。ねえ、写真を撮るのはダメかしら?」
「写真?」
「ええ、写真。顔は映ってなくてもいいわ。でも、お守りとして持っていたいの。」
「、、、分かった。それじゃあ、魔法で撮ろうか。」
「魔法って相変わらず便利ね。」
「そうだろう?それじゃあ、撮るよ。笑って。」
ルシアンは杖を振る。
カシャッとう音共に辺りが光る。
「、、ギリギリとれたみたいだな。」
「ねえ、とても光っているけれどこれは何?!」
「お別れの時間みたいだ、カリナ。この場所も消えてなくなってしまう。」
「そんな、、!」
「だから、このまま振り返らずに走るんだ。」
「でも、、!」
「安心して、カリナ。写真は必ず君のところへ届けるよ、時間がかかっても。
君なら大丈夫、だって君は光の魔法使いの友達だからね!」
「、、!ルシアン、私と友達になってくれてありがとう!また、いつか、会いましょう!!!!!」
「またね!カリナ!!!」
ルシアンの別れの言葉を聞いたのを最後に光はとても強くなった。
私は無我夢中でそこを走り抜け、急に現れた扉を開けて手を伸ばすとそこは暗闇だった。
暗闇は怖い、、。
そう思っていると、光を纏った蝶が不思議な力で私を浮かせてそのまま上に連れて行って、、。
ブーーー!!!
「わあ!!」
大きな音とで飛び起きた。
「あれ、、?」
私は自分の部屋にいた。
呆然としていると、風が私の髪を舞い上げる。
「窓が開いている、、。」
どうやら窓が開いていて、その先で鳴った汽笛の音が聞こえたみたいだ。
でも、何かおかしいような。
私は窓を開けっぱなしにして寝ることはないし、いつも窓を開けるときは外側に開いて開けるのに、
何故か内側に開いている。
「風で窓が開いちゃったのかな、、?」
少し不思議な気持ちでいると、誰かが階段をのぼってくる音が聞こえてきた。
バンッと音を立てながらお父さんが部屋に入ってくる。
「どうした?!」
お父さんはさっきの私の叫び声を聞いて焦ってきたみたいだ。
「なんでもないよ、お父さん。」
そういって、私は急に家に来た猫のことを思い出した。
「あ、ねえ、お父さん、猫はどうなったの?」
「猫?なんのことだい?」
「え?ほら、茶色に金色の目をしたさ、きれいな飼い猫がいたじゃん。」
「なんのことだ?うーん、さてはまだ寝ぼけているな?
もう朝食は作ったから顔を洗って下に降りてきなさい。」
お父さんは扉を閉めて下へ降りて行った。
「もしかして、夢、、?」
首輪をつけた猫で、名前がたしか、、なんだったかな?
「はあ、お父さんの言う通り寝ぼけてるのかも、早く顔を洗おう。」
開いている窓を閉めて、私は部屋の扉を開けて新しい一日を始める。
初夏が近づいてきているみたいだ。




