1話 物語は潮風とともに
ここは、海に囲まれた美しい島、セントアトラ島、旅人たちが1度は訪れることで有名で、
別名、旅人の島と呼ばれている。
歌声にリュートの音色は絶えることなく、旅人たちは島の住民に不思議な物語を語る。
それはまるでおとぎ話のように、
「そうさ、カリナ。この海の向こうには、妖精の島があって、彼女らは不思議な魔法が使えるのさ。」
「それ本当?!私もそこに行きたい!」
旅人の話を熱心に聞いている夢見る少女はカリナという。
「ははっ、嬢ちゃんがもう少し大きくなったら旅してみるといい。」
「そうする!ねえ、次は海の秘宝のお話を聞かせて!」
「ああ、もちろんそうしたいのは山々なんだが、そろそろ出航の時間なんだ。
続きは次この島に立ち寄った時にしてあげよう。」
「そういって、みんな結局、二度と戻ってこない!」
「ああ、カリナ、君はまだ10年も生きていないだろう?
旅人っていうのはな、10年、20年かけて世界を周るのさ。
君が、立派なレディになった頃にまた私は、そして君の友人の旅人たちは
戻ってくるさ。」
「本当に?必ずよ。」
「もちろんさ、カリナ。俺は約束は守る男さ。
じゃあ、もう行くよ。
おい、ペンタに奥さん!美味い料理に酒をありがとな、もういくよ。」
「ああ、もう行くのかい、ジャック。もう少しいたらいいのに。」
「そうよ、主人の言う通りもう少しここにいたらいいのに、、。」
「いや、俺は旅人だからな旅しないとな。
でも、この島は結構気に入ったし、またふらっと立ち寄らせてもらうよ。」
「そうかい、それじゃまた来てくれよ、次はもっと料理の腕をあげておくよ。」
「ははっ、それは楽しみだ。おっと、そろそろ本当に行かないと。
ペンタに奥さん、短い間だったけどお世話になったよ。」
「ああ、こちらこそカリナと遊んでくれてありがたかったよ。」
「こっちが遊んでもらったみたいなもんだよ。
それじゃ、カリナまたな。」
「うん、またお話いっぱい聞かせてね!バイバイ!」
数週間だけこの島に滞在して幼い私にたくさんの物語を聞かせてくれた旅人は、
ほとんど使ったところを見たことがないお飾りのリュートを持って
次の冒険へ行ってしまった。
「たしか、リュートと歌は旅人の必需品だっけ。
でもジャックはどっちも下手だったよね。」
店のバルコニーから見える海を見ながら、つぶやいた。
今日の海はいつも通り穏やかだ。
海が見える素敵なバルコニーがあるのは、ここ、レストランテトラペンタ。
私の両親、テトラとペンタが営んでいるレストランでご近所さんに、
たまに来る旅人たちに愛される自慢のレストランだ。
ちなみに私はテトラペンタ夫妻の養子として働いているけど、
二人ともすごく優しい。
「ねえ、カリナ片付けの手が止まってるわよ。」
ちなみに今隣にいる、しっかり者の可憐な少女は私の親友であり、夫妻の姪で、
マリンという。
「ねえ、旅人ってどのくらいで戻ってくると思う?」
「100年後じゃない?彼ら戻ってくるっていって、戻ってきたためしがないって
近所のおばさんが言ってたわよ。というか、無駄口叩いてないで早く片付けて。」
「たしか、悪い旅人に騙されたんだっけ?結婚詐欺みたいな、恋愛は怖いね。」
「そう?恋愛自体はそうでもないと思うけど。」
「なにそれ、経験談?」
「ちょっとニヤニヤしないでくれる?
というか、本当に早く片付け終えたいのよ。」
「なんでそんなに焦ってるのさ、もしかしてデートでもあるんですかー?」
「ええ、そうよ。」
「へー、デート?!誰と?!」
「ルーカスよ。」
「え、ルーカス?!」
「そうよ、悪い?」
マリンが珍しく頬を赤らめた。
「いや、なにも悪くないけど、でも、マリンってルーカスのこと好きだったんだ。
全く知らなかった。」
「そりゃ、そんな素振り見せなかったし、あんたは鈍感だしね。」
なんか少し悪口を言われた気がしないでもないけど、
でもデート前は時間がかかるらしいし、早く片付けてあげよう。
というか、ルーカスってば、意外とやるね、あの美人で有名なマリンを落とすとか!
「片付け終了ね、それじゃ私、おめかししてくるから。」
「分かった、楽しんでねマリン!」
「ええ、もちろんよ!」
マリンはいつも何倍も綻んだ顔で部屋へ戻っていった。
「あんなに気分がよさそうなマリンは久しぶりに見たな。
恋愛ってすごい、、!
私もいつかは素敵な恋愛をするんだ~、初恋もまだだけど、、。」
マリンの乙女パワーにあてられたのか、つい恋愛の歌を口ずさむ。
モップを片手にまるでステージ歌手みたいにクルクル回る。
「カリナちゃん、背中に天使の羽がついているわよ。少し、落ち着きなさいな。」
後ろからお母さんの呆れたような声が聞こえる。
お母さんはよく私に天使の羽がつくって言っている。
「まあまあ、いいじゃないか、テトラ。
カリナが元気だと僕もうれしいよ。」
「私が元気だと、みんなもうれしいよね!」
「ああ、もちろんさ!カリナが幸せなら、みんな幸せさ!」
そういって私たちは腕を組みながらダンスをする。
「はあ、この二人は本当に、もう、、。」
呆れたような声をだすお母さんの声が聞こえるけど、私は知っている、
本当はお母さんは私たちのこんなやり取りが大好きなことを。
「あ、そういえば今日は丘に行くんだった!
お父さん、ダンスパーティーはお終い!私行くね!」
「え、もう行っちゃうのかい?気を付けていきなさいね。」
「はーい、お父さん!それじゃ、行ってきます!」
「カリナ、天使の羽はしまいなさいね!」
「はーい!!」
このレストランは島の中央より西側に位置していて、もっと西に行くと
私の友達が住む丘がある。
丘の上に住んでいる友達はアルベールといって、彼は灰色の髪に薄い青色の目をした美しい少年で、私よりも5個年下の男の子。
彼は貴族らしいんだけれど病気の療養でこの島に移住したらしい。
「貴族って、どんな世界に住んでるんだろう?」
それが気になって彼に聞くけど、あんまり教えてくれない。
ただ彼は決まって、つまらない世界と答える。
それ以降は何も話してくれないからそれ以上は何もわかんない。
あ、あそこにいるのはアルベールだ!
「やっほー!今日も来たよー!」
「相変わらず元気だねカリナ、というかいつにもまして元気そうだね。」
「まあね、ちょっとおもしろいことがあったの。」
「へえ、いったい何があったの?」
さざ波のように美しい音色で彼は聞く。
絶対にアルベールはすばらしい歌手になるわねと思いつつ、
今日あったことを話した。
「ふーん、つまり、美男美女で付き合ったってわけね、
当たり前すぎてつまんないや。
どうせすぐ別かれるでしょ。」
「なんてことうのよ、アルベール、絶対そんなことないし!
私は結婚まで行くと確信しているわ。
といいたいところなんだけど、そもそも二人が付き合っているのか
すら知らないのよね。」
「なにそれ。
ルーカス君だっけ?は恋愛に興味ある感じがしないし、
マリンの一方通行な気がするよ。」
アルベールはとても美しい容姿を持っているが、吐く言葉はかわいげの欠片もない。
もっと応援的なものはないのかしら!
「あなた様は、幼い癖に随分と冷静に物事を分析されますね。」
「おほめに授かり光栄でございますカリナ様。」
「もう、どうしていつもそうなのよ!」
そうしていつも通りの会話が続いた。
時間を忘れて話していると視界の端にたくさんの船が島の東岸へ向かってきている
のが写った。
「ねえ、アルベール、あれって海軍の船?」
「ああ、そういえば、新聞でもうすぐ来るとかいってたような。」
「海軍ってどんな方たちなのかな?仲良くできたらいいな。」
「君の親友のマリンならともかく、お子様なカリナとは
話が合わないんじゃない?」
「あなたの方が十分子供じゃん、アルベール。
悪いけど、私はあなたみたいに嫌味なんて言わない大人だから仲良くなって
見せるわ。」
「そういうところが、子供だと思うんだけど、、。
ねえ、鐘がなってるよ、そろそろ帰らなくていいの?」
「あ、本当だ!夕飯の準備をしなきゃ!。」
夕焼けを告げる鐘の音を聞き、アルベールにさよならの挨拶をした。
やっぱりこの時間は潮風のにおいが少し濃くなる。
「今日はマリンが好きなパエリアにしようかな?
エビはもちろんもったっぷりと入れて!」
今日の夕飯の献立を考えながら坂を駆ける。
今は天使よりも風になった気分かも。
目の前に広がる海は少し波が高くなっている。
そろそろみんなが家に帰る時間だ。




