ああああ

　地面に叩きつけられる感覚は、想像よりも現実的だった。もっと凄惨に、肉塊でも飛び散るような、痛みを痛みとも思えないくらいの、強い衝撃なんだと思っていた。だから、大人に殴られたときに似た、経験のある苦みだったことにびっくりしたし、それと同時に多くのことを思い出して泣いてしまった。でも、涙が出たことはこの上なく嬉しかった。いつまでも、泣こうと思っても泣けずに、溜まっていくだけだった不安を、ほんの少しだけでも吐き出すことができたような気がしたから。きっと世の中で生きている過半数の人たちが、そんなことで、って思うだろうけれど、私にとってそれは、エリートたちの講釈よりも、根拠のない褒め言葉よりも、ずっとずっと私を救ってくれた。それだけで満たされていった。でも本当は、初めから私を助けてくれる人を待っていたのだと思う。その人は、私が苦しい思いをすればするほど、私を優先して助けに来てくれると信じて、できる限り自然に、安らかな死へと向かっていった。だけど、私に救世主はいなかった。どんなに苦しい思いをしても、誰も見向きもしてはくれなかった。才能を与えられた偉人たちの一方通行な言葉も、私には届かなかった。いや、きっと受け取ろうとしていなかったのだと思う。ドッヂボールでも、いつも逃げ回っている私だから。それでも、私の全てを理解して、冷えきった心を温めてくれる人がいるんじゃないかって、辛いことにだけ能動的に向かっていった。幼稚で舐めたことを言っているのは分かっているつもりだった。私も他人が同じことを言っていたら、馬鹿にして心底軽蔑しきっていたと思う。ただ、それに縋るしかなかった。奇跡なんて信じる人間じゃないのに、小さな矛盾には気づかないふりをして、全力で夢を見ていた。でも、そんな願いも飛び降りたことで分からされた。私の人生に救世主は存在しない。いくら苦しみを味わっても、私は独りのままだった。いつも通りだったら、そのまま苦しみが加速するだけだったと思う。でも、そのときだけは何故か、このままじゃ駄目だって思った。不幸であることをアイデンティティにしてはいけないと思った。意味なんて無いのに、ただ、生きたいって思った。居場所も理解者もいなくて、あるのは途方もない苦しみだけだったのに、何故か、そう思った。怪我が治る半年後には、そんな思いはすっかり消えていたし、死にたいって、今でもときどき思うことがあるけれど、当時のことを思い出すと、昨日と同じ今日が、今日と同じ明日が、少しは輝いて見えるようになった。そんな小さな、触れればすぐに壊れてしまうような頼りない希望を信じて思い込んで、生きていてもいいんじゃないかって、思えるようになった。