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4 旅の始まり

 

「ウゴアァァ!」


 魔王城とかいう湿った陰気な場所から抜け出した俺たちだったが、外に出ても魔者の襲撃は止むどころか増える一方だった。


 面倒なのでミミーミアを背負ったまま、適当に腕を振るって襲ってきた豚頭の怪物の頭を殴って消し飛ばし、歩みを止めずに真っ直ぐ進む。ちなみにグースには俺の頭の上に一時避難して貰っている。


 案内として先頭は勇者でもあるライアが担当してくれているが、先程から戦う素振りすら見せず魔者が出ると俺をチラ見してくるのが気になるところ。


「ごめん、全ての魔者の対処を任せてしまって……」


 しかし俺は気にしない。これでいっそ()()()()()()という顔をされていたら怒っただろうが、彼は本当に申し訳なさそうにしている。

 そしてここまで来ると先程まで俺に敵意を向けていた連中もその鳴りを潜めて、今はもう諦めたように何も言わなくなっていた。


「もう少し進めばセーフハウスがある。そこまで頑張ろう」

「おー」


 誰も何も言わない状況に対して士気が下がっていると思ったのか、ライアが全員を励ますように声を掛ける。

 といっても俺は全く疲れてはいないし、なんならこのまま一日中歩いても疲労感すら無さそうなのだが、他の面々は激しい戦いの後というのもあってそうもいかないみたいだ。


 暫くは魔者の襲撃を受ける事も無く、真っ直ぐに道を進む。


 城を出て直ぐの頃は、草木の一本すら見当たらない不毛の枯れ地が広がっていたが、この辺りになると大分緑も増えてきて、人間の領土に近付いているのが分かる。

 恐らく俺の出自を何となく察してきているだろう、この辺りの地形についてなどはその都度背負った神官少女が俺の耳に顔を寄せて耳打ちで教えてくれた。


 それから程なくして、空が暗くなり始めた頃に高い木々に覆われた森へと入った。

 暫く歩くと、不自然に一か所だけ開けている場所にポツンと佇む古い家屋が顔を見せる。


「まさかこんな直ぐにここに戻って来るなんてな……」

「そうだね、でもそれも生きてるから…… 助けてもらったからこそだよ」


 ここの仕組みを理解しているのか、何か特殊な文字が書かれた石板に触れてから、木製のドアの前で錆び付いた蝶番にもたついていると、背後から兄妹の会話が聞こえてくる。

 本人たちは聞こえていないつもりで話しているようだが、俺の耳は加護とやらで強化されているらしく、ハッキリと全て聞き取れる。


「だけどこんな奴と同じ屋根の下で眠るなんてあり得ないわ。どこか別の場所で寝てくれないかしら」

「ちょっとカリーナ! 恩人にそんなの失礼でしょ!」

「いや、そうとも言えないぞ。奴の力は正直俺たちがどうにかできる範囲を超えてる。心を開きすぎるのも問題だろう」


 いやー、勝手な事を言ってくれますね。

 とはいえ幾ら強化された肉体があるとはいえいきなりの野宿は正直避けたい。


 虫も大量にいるだろうし、何よりも虫がいる。更に虫が出てきて虫に近付かれるのは我慢ならない。


 どうしたものかと、独り考えに耽っていると、未だ背負っているミミーミアから大丈夫だと声を掛けられた。どうやら彼女も会話が聞こえていたらしい。


 うーむと唸っていると、疲労の抜けぬ体で何とかドアをこじ開けたライアに続いて、俺たちも小屋へと入っていく。


 内装は、まぁ…… 予想通りというかなんというか、ボロボロだった。

 埃は被っているし家具や調度品の類いは何もない。本当にただただボロいだけの小屋だった。


「私は前と同じ部屋で寝るから! 男共は絶対に近付かないでよねっ!」


 玄関を潜るや否や、カリーナがただでさえ少ない荷物を抱えて奥に二つある部屋の右側に立て籠ってしまった。

 それを見ても誰も何も言わず、ただ苦笑を浮かべるだけな辺りこれが突発的ではなくいつもの事なんだなと、数時間の付き合いでも何となく分かって来た。


 部屋割りは適当に決まった。

 残った女性陣はもう一つの部屋に二人で――ミミーミアとルピアで使う事となった。


 前回来た時に余った焚き木で暖炉に火をくべて、小屋全体を温める。

 その際に、ライノが手の平から直接火を付けていたように見えたが、どうやらあれが魔法らしい。グースが思念で教えてくれた。


 とかく、今日はもうここで休むだけだ。全員が慣れた様子で寝支度を整えるのを、現代っ子のキャンプ経験すら無い俺はただ無為に見ながらも、なんとか見よう見真似でそれに倣う。


「あー…… ったく、寝袋も無しに床に寝るんじゃねぇよ」


 何の装備も無いので、直に床で寝ようとした俺の元へ、巨漢のブロガードが苛立たし気に近付いて来た。

 だがその顔は本気でムカついているようには見えなくて、これが彼なりのコミュニケーションなのだと思う。


「そう言われてもな、俺は見ての通り着の身着のままだから、毛布も寝袋も持ってないんだ」


 その言葉に一瞬「何言ってんだこいつ」みたいな表情で顔をしかめたが、俺の腰回りをチラッと見ると、直ぐに大きな溜め息を吐いた。


「嘘だろ、お前魔袋も無しにどうやってここまで…… まぁいい。これを使え、床に直接寝るよりはマシになるだろう」


 なにか気になる単語が聞こえたが、それよりもこれはどういう心境の変化だろうか。

 ついさっきまでは俺の事を信用が出来ないだの手に余るだのと宣っていたのに、自分で用意した毛布をくれるとは。


 ライアの顔を見ても、こちらを柔らかな微笑で見つめるだけで何の情報も得られない。

 顔を再びブロガードに戻すと、それなりに厚手の毛布を片手にこちらをジッと見つめているだけ。


「なんだ、要らないのか? 使わんのなら俺が使うぞ?」


 その声は先程よりも幾分か優し気で、どこから取り出したのか分からない毛布を釈然としないながらも礼と共に受け取ることにした。


 確と受け取った事を確認すると、直ぐに先程寝支度を整えていた場所まで戻り、腰の辺りにある麻袋に手を突っ込んで新たな毛布を一枚取り出した。……ん?


「な、なぁ今、どこから毛布出したんだ?」

「あぁ? 何言ってんだよ、魔袋からに決まってんだろ」


 ……え、魔袋ってそういう……


 ファンタジー作品に明るくない俺でも分かる、これは魔法の袋…… つまり物を大量に入れられる、四次元ポケ〇トだ……!


 まさかの魔法の道具にテンションが右肩上がりになっていく中、ずっと静かに頭の上に居たグースがペチペチと左の頬を叩いて来た。肉球が気持ちいい。


 そうして「左側を見ろ」という思念に従って目線を移すと、部屋で簡素な服に着替えたのだろう武道家少女のルピアが、静かに佇み俺の事を見つめていた。


「……ケンセイ、今ちょっといい?」


 突然のルピアの行動に、俺やライア、兄であるブロガードも目を丸くしていた。

読んでいただきありがとうございます!

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