3 あまりにも煩いと
「なんだ、貴様は……? 場違いにも程があろう!?」
あのくそジジイが転生の為とか言って目が悪くなりそうな光に包まれ、それが収まったと思ったら今度はなんか気持ち悪い奴に殴られた。
後ろには今にも死にそうな程ボロボロの女の子がうつ伏せに倒れてるし、ここが異世界って事になるんだよな?
目の前でまだ騒いでいる変なおじさんをスルーして、首だけで背後を向いて寝ている少女に現状を聞いてみる事にする。
「今ってどんな状況?」
「た、助けてください……!」
うーむ、どうやらこの子がこの変なのに襲われてて、危うく殺されるところだったって所か。
兎に角目の前の黒いおっさんよりも後ろに居る少女の方が話が出来そうだったので、一旦離れて貰おう。
「大体、貴様はどこから現れたのだ! この場には選ばれた者しか出入りできぬ結界があって――ぶべっ!」
いつまでも喧しいのでとりあえず腹を一発殴って黙らせておいた。
軽く殴って暫く静かにして貰うだけのつもりだったが、思ったよりも力が入っていて、腹に殴打を受けたまま壁を突き破ったおっさんはそのまま見えなくなるまで飛んで行った。さようなら~。
「それで、話っていうのは?」
唖然とする少女と、今気が付いたが歳の近い少年少女が俺の事をぽかんとした目で見つめていた。
「グー」
何故か肩に居るルナグースは溜め息を吐いて首を振っているが、構わず倒れている彼らを担ぎ上げて一番元気そうな少年の元まで集める。
全員が全員、何が起きたのか分からないといった風情で呆けていたが、それはこっちも同じだ。まずは説明を……とも思ったが先に自己紹介をしておこう。
「俺は天野 拳正だ、よろしく」
「アマノ……ケンセイ……? 貴族か? それに黒髪黒目なんて見たことが……」
一番元気そうな少年、が何か考え事をしながらぶつぶつと呟いている。
そこで急に頭に思念が届いた。どうやらルナグースかららしい。
こいつは見た目通り狐だが頭が異様に賢いらしい。だけど喋る事は出来ないみたいで、さっきから何度か頭に直接意思を流してくる。
そんなルナグース……もう面倒くさいしグースでいいか。が言うにはこの世界は苗字は貴族しか持っていないらしい。
一応貴族ではないと適当に誤魔化しておいたが、あまり得心の行かない顔で頷く少年。
その後時間を掛けて全員が自己紹介を終えた。
率先して話をしてくれる金髪の少年、ライア。彼はなんでも勇者らしい。ボロボロだけど。
そして警戒したように俺を睨みつけている黒髪の大男のブロガード。本来ならゴテゴテしい鎧を着込んでいるらしいけど今は残骸しか残っていない。
その横で長いポニーテールを結ったルピア。二人は兄妹らしい。
気の強そうな眼差しで、彼らとは違う理由で睨んで来る魔女っ子のカリーナ。戦いでなのか元々そういうデザインなのか魔女の帽子は穴だらけになって真っ赤な髪が見えているし、服もボロボロだ。目のやり場に困る。
そして最後に先程俺が助けたらしい、どこか神官のような雰囲気の服を着た大人しそうな金髪の少女、ミミーミア。ずっと目を伏せていて目が合わない。
「僕たちは二年間、さっきの魔王を討ち倒すために旅をしていたんだ」
説明の為に、ライアが語り始める。
どうでもいいけど話長くなりそうかな、あんまり長いと興味が失せるんだけど。
一通りの説明をしてくれたライアだったけど、どうにも長すぎて殆ど聞き流してしまった。
終わってからグースが分かりやすく要点をまとめた説明を頭に流し込んでくれたので、それを元に話を進める。グースについては適当にペットと言って誤魔化してある。
「つまりさっきのキモイのが魔王で、お前たちは勇者パーティーなのか」
どうやら俺の登場はかなりギリギリのタイミングだったらしく、あと一歩でも遅ければミミーミアが死んでいたらしい。よかったよかった。
とはいっても、魔王は俺が先程ぶん殴った。飛んで行く時に見た感じだと腹に大穴が空いていたし多分死んでると思う。
そう説明すると、直ぐに離れないと統率を失った魔者たちに襲われる危険があるという事で魔王城を出る事になった。
俺以外の全員がボロボロでまともに動けなかったので、安全な場所に移動するまでの魔者退治を任された。
多少面倒ではあるけど、これも乗り掛かった舟だ。それにどっちにしろ行く当ても無いし、暫くは彼らと行動を共にするのがいいだろう。
簡潔に今後の方針を固めながら長い廊下を歩く。壁には紫色の火の灯った蠟燭があるし、あまり趣味がいいとは言えない内装を進む。
そんな中でもどこから現れたのか、今もまた向かってくるデカい鬼のような魔者を殴って進路を確保する。
「す、凄いですね……防御力の高いオーガの上半身が一撃で吹き飛んでいます……」
俺に背負われているミミーミアが驚いた――ある種ドン引いた声を上げる。
最もダメージが深刻そうで、皆が自分一人でも手一杯な中唯一歩けない彼女を俺がおぶっているのだが、あまり失礼な事を言われると降ろしてやりたくなるな。
とはいえ彼女に悪意が無い事は分かっているので、一応我慢する。それよりも問題なのは……。
「なんであんな奴を連れて行くのよ! 得体が知れないどころじゃないわ!」
「それには俺も同感だ。魔王すら一撃で砕く存在など手に余り過ぎる」
「なんで!? ケンセイは命の恩人なんだよ!?」
後ろでひたすらに揉めているメンツだ。
ライアと武道家のルピアとかいう黒髪ポニテ少女は俺への敵意が殆どないが、ゴツイ体のブロガードと魔女っ子カリーナには全く信用されていない。
別に恩を売るために助けた訳ではない、というか助けたつもりも無い。
それでもいつまで経っても敵意満々に喚かれるのも迷惑だ。少し脅しておこうか。
「別に俺に対してどう思おうと勝手だけど、あんまりうるさいと殴るぞ、普通に」
まぁ、流石に本気で殴る気はない。こうでも言っておけば多少は静かになるだろうというだけの脅しだ。
「ほら見なさい! こんな蛮族みたいな輩と一緒に居たら私たちまで危ないわ!」
あーうるせぇ、このクソガキ魔女っ子だけでもしばいて行こうかな。
「そこまでにしてくれ。彼は命の恩人、僕たちが今こうして喧嘩できているのもケンセイのお陰なんだ。それ以上悪く言うようなら僕は君たちを許せなくなる」
見兼ねたライアがピシャリと言い切ると、反省したのかそれともこれ以上はリーダーの機嫌を本気で損ねると判断したのか、何も言う事は無くなった。
「本当にごめん、多分気が立っているだけなんだ。いつもはもっと気のいい人たちなんだけど……」
「いやいいよ、そこまで気にしてない」
申し訳なさそうな顔のまま寄って来たライアに、何でもないといった風に手を振って返す。こいつも苦労してるんだなぁ。
「だけどそうだな、いつまでも騒がれるとついつい殴ってたかもしれないから、お前の判断は正しかったかもな」
先程の言葉に安堵の表情を浮かべていたライアだったが、続く俺の言葉を聞くと顔を凍り付かせて固まった。
だってしょうがないじゃん、俺悪いことしてないのに悪者にされるとか意味わからんし。




