1 とりあえず殴る、話はそれからだ
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「ここ、どこだ……?」
一面……いや、全てが真っ白の空間。立っているのか座っているのか、はたまた寝そべっているのかも分からない曖昧な感覚。
「済まぬ少年よ……お主は儂の不手際で死んでしまったのじゃ……」
しわがれた、それでいて耳障りではない落ち着いた老父の声が背後から聞こえ、振り向くという意識だけで背後へと振り返る。
そこには予想通り、声から想像できる通りの好々爺然とした、頭髪も髭も長く白い老人が立っており、深く刻まれた顔の皴を更にくしゃらせ項垂れていた。
「ぬおっ!? いきなり神を殴るとは何事じゃ!?」
自分の不手際で俺を殺したと宣いながら、それ相応の行動をされると逆ギレするとか、このジジイさては老害か?
俺は振り抜いた拳の勢いそのままに、左右の腕を振り回して大袈裟に逃げ惑う老人を追い回し続けた。
「待て待て、待たんか! まずは話を聞かぬか!」
「話ならとりあえず殴ってから聞くから、黙って一発殴らせろ」
生前、特に何の思い入れもないしやり残した事も無いが、突然死なされたとあれば当然怒りは湧く。なので一発くらいは殴らせてもらっても当たり前だ。
だというのにこのジジイは不敬だの蛮族かだの喚き散らして俺の拳を受け入れる気が無い。
幾ら動いても疲れはしないが、いい加減当たる気配すら無いので一旦話を聞いてみる事にしてみる。
「ふぅ…… こんな奴は初めてじゃわい。まぁよい、今から儂の話をよく聞くのじゃぞ、天野 拳正よ」
「名前まで知ってるとかキモイな」
俺の悪態に一瞬だけ目元をヒク付かせたが、もう俺の言動は無視する姿勢に切り替えたようで、細かい事には触れずに話を続ける。
「お主は儂の不手際で不幸な事故に遭ってしまったのじゃが、安心せい。これからお主の望む形で第二の人生を送らせてやるぞ」
尚も偉そうに言い続ける老人の顔、顎か鼻かこめかみか、どこに右ストレートを打ち込んでやろうかと迷っていたが、最後の話に一度考えを中断する。
「第二の人生? それってどういうの?」
「おお、興味が湧いたか! うむ、聞いて驚け! 加護を持ち異世界への転生・転移も、記憶を保持しまま新たな日本人として生まれ変わる事も、なんなら儂のプライベート空間で永劫贅沢三昧の酒池肉林を堪能することも可能じゃぞい!」
やべ、話長すぎて後半あんまり聞いてなかった。
とりあえず理解している部分の異世界がどうとかいう部分だけは分かるので、それにして貰おう。
「じゃあ、異世界に行ってみようかな」
選んだ俺の言葉を受けて、くそジジイが髭を撫でつけながら抑揚に頷くのを腹立たし気に見ていると、突然体が金色の光に包まれた。
「おお、それでは拳正よ、今ある中で最もお主に相応しい加護を授けたぞ。その力を思いのままに振るい、第二の生を満喫するがよい」
一切強い光が放たれた後、俺の体には力というものが満ち満ちて溢れていた。
どうやらこのジジイの言っている加護というのは本物らしい。何度か両手を開閉して具合を確かめると、未だに偉そうに何事かを喋る続けるジジイの元へと跳躍した。
「つまりその剣と魔法の世界ではお主の力は異端に見えるであろうが、構う事は無かろう、思い切り楽しめばそれでよいの――ぶべっ!」
目を閉じ腕を組んで言い連ねるジジイのその汚ねぇ横っ面を、今貰ったばかりの加護とやらで力の限りぶん殴った。
全く予想出来ていなかったであろうジジイはそのままアホみたいな声を上げて、ギャグ漫画でしか見たことのない軌道を描いて見えなくなるまですっ飛んでいった。
「あースッキリした」
異常にまで強化された肉体で、今最も殴りたい相手を渾身の力でぶっ飛ばした達成感に、その場で小躍りしたいほどだ。
今までとは全く違う感触に、先程までの感覚を反芻していると、いつの間にか戻ってきていたジジイがなんともなさ気な顔で頬を擦っていた。
「酷い奴じゃな…… このままじゃとお主、片っ端から人を殴って周りそうじゃのう……」
「失礼だな。別に誰彼構わず殴ったりしねぇよ」
今回はいきなり殺されたとかふざけた事を言うから殴っただけだ。俺だってそんな通り魔みたいな事はしない。
俺の言葉は無視して、ジジイが暫く思案顔で長い髭を撫でつけながら悩む素振りを見せた後、聞いたことが無い単語を呟くと、どこからともなく小く真っ白な狐が現れた。
「ルナグースよ」
「……グー」
どうやらその単語はこの狐の名前だったらしく、呼ばれると何故か「コンコン」ではなく、「グー」と鳴いた。
「この子をお主に付けるでな、何でもできる賢い子じゃ、きっと助けになってくれるじゃろうて」
そう言うとジジイが紹介した狐、ルナグースがジジイの肩から身軽に飛び上がり、俺の肩へと移動した。
「さて、やるべきことは全て終わったでな、このままお主を異世界へと転移させるぞい」
そう言うと、俺の方へとその皴で弛んだ手の平を向けて、一瞬の静寂の後またしても光を放ち始めた。
薄く光り始めたその腕が一定以上の光量へと達すると、まるで火が揺られて別の物に燃え移るように、俺とルナグースの体に光が移動する。
暫くすると目の前が見えないほどまで光量が増加し、やがて意識も吸い込まれるように真っ白に消えていく。
「天野 拳正よ。最後に一つ忠告しておこう、お主がこれから行く世界の生き物は皆――」
話の途中で、ジジイの声が遠ざかっていき最後まで言い切る前に完全に途切れてしまった。
少し気になる事を言っていた気もするが、自分で送り込むくせに、どのタイミングで意識が途絶えるのかは分かっていなかったジジイに内心で溜め息が漏れる。
最後の最後まで適当なジジイだったなと思った所で、俺の意識は完全に暗転した。
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