表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編、その他

イカスミパスタの悪魔

作者: 大野 錦

しいなここみ食堂主催『麺類短編料理企画』の参加料理です。

イカスミパスタの悪魔



 昨今の食品の値上がりのため、オレは手ごろな値段で手作り可能な料理のサイトを閲覧していた。


「イカスミパスタの悪魔?」


 題名に引かれたそれをオレは読んだ。

 簡単に記すとこんな内容だ。


「イカスミパスタの悪魔があなたの目の前に現れます。悪魔は問いを発します。その問いに正確に答えられない場合、悪魔に呪われます」


 何なんだ? 問いの内容も呪いの内容も詳しく書いてない。

 それよりも、イカスミパスタの作り方が詳しく書かれていたので、オレは近所のスーパーへ材料を買いに出かけた。


 まず、イカの切り身を用意し、玉ねぎとにんにくをスライス。

 フライパンにオリーブオイルとにんにくと唐辛子を入れて熱し、続いて玉ねぎを入れて炒める。

 カットトマト缶からトマトを少々、そしてイカを加える。


 あまったカットトマト缶は保存袋に入れ、冷蔵庫で保存できるよ!


 そして、一方のガスコンロでパスタを茹でる。


 メインのイカスミペーストを投入し、パスタの茹で汁を入れ、塩とコショウで整える。


 茹で上がったパスタをこのフライパンのイカスミのソースに入れて、よく絡ませる。


 出来上がったイカスミパスタは美味かった。

 自分で作ると「3割うまい」みたいな感じだ。



 その夜。オレは悪夢にうなされた。

 ひょっとしてこれがイカスミパスタの悪魔なのか!?


「ギャアァァァ~ン!」


 エレクトリックギターの轟音が鳴りだし、ストラトを構えた黒装束の男が現れた。

 何かYouTubeで見たことがある。男はイカスミパスタのような大量のひらひらの黒い紐が付いた、黒いジャケットを着ていた。


「リ、リッチー!?」


 不自然に固まったような黒い頭髪とりっぱな口髭の男は、オレを指差し何か言い始めた。

 例のイカスミパスタの問題か?


「オレの着ているこの衣装の正式名称を答えよ」


 悪魔はエドヴァルド・グリーグの「山の魔王の宮殿にて」を高速リフでかき鳴らし始めた。


 えっ? 当然オレは答えに窮する。


「……え、えっーと。イカスミパスタ衣装?」


「ノォウ! アウトー!」


 またも「ギャアァァァ~ン!」とギターの轟音を鳴らし、イカスミパスタの悪魔(?)は消えた。



 夢だったのか幻だったのか。

 朝起きると、机の上に出来上がったイカスミパスタがホカホカで出ていた。


「誰が作ったんだ?」


 それよりバイトの時間だ。朝食としてこの謎のイカスミパスタを食べ終わると、オレは外出した。


 夜遅く。帰宅すると、オレはまたも異様なものを発見した。

 そう、同じくイカスミパスタが机の上にホカホカで出ている。


 バイト中は昼におにぎり2つだけだったので、腹が空いていたオレはこのイカスミパスタを食べた。


「明日も朝から夜までのシフトだったな」


 そう独り言ちると、オレは風呂でシャワーを浴び、直ぐに寝た。


「げっ……」


 朝起きると、またもホカホカのイカスミパスタがある。

 だが、出かけないといけない。オレはイカスミパスタを急いで食べ終え、バイトへと向かった。



 夜遅く。帰宅すると、やっぱりイカスミパスタがある。

 オレは構わず食ったが、明日は休みなので、食べ終わった後に「イカスミパスタの悪魔」の小話と、イカスミパスタ衣装の正式名称を調べることにした。


 結論から言うと、「イカスミパスタの悪魔」に再び会いたい時は、「イカスミパスタ様、イカスミパスタ様。私の元にまた来て下さい」と口に出して願えば良い。

 バカみたいだが、実際に会ったのだから、オレはこの呪文を唱えた。

 そして、イカスミパスタ衣装の正式名称も調べた。


 その夜。

 イカスミパスタの悪魔は現れた。


「ギャアァァァ~ン!」


「ヘイ、オレの着ているこの衣装の正式名称を答えよ。次間違えたらお前を破壊して踏みつける!」


 それはあんたのギターパフォーマンスだけにしてくれ。


「え……、えっ~と。フリンジ付きジャケット?」


 ちょっと自信はない。しかしイカスミパスタの悪魔は、全身を震わせている。

 しかし、なぜか髪型だけは不自然にまでに微動だにしない。


「イグザクトリィ!」


 ファンファーレを悪魔はストラトではなく、アコースティックギターで奏でる。

 悪魔の黒装束はまるで中世の吟遊詩人のように変わった!


 音楽が流れる。

 ボブ・ディランの「The Times They Are A-Changin'」を中世風にアレンジした曲だ!


 朝。

 耳に残るイカスミパスタの悪魔の演奏の中でオレは起きた。

 もう、イカスミパスタはなかったが、あの黒いフリンジ付きジャケットと謎の頭髪が残っていた。



 あれ以来イカスミパスタは現れない。

 食費の節約になるから、三日に一度くらいは出てきて欲しいんだけど。


 さて、今日はバイトの給料日。

 銀行で明細を見たオレは愕然とする。


 それは今まで食べて来た、イカスミパスタの具材代、ガスや水道代、さらにフリンジ付きジャケットと謎の植毛代の金額が見事に引かれていた。


「ギタリストだけに『ひく』のはうまいヅラ」

 

 そんなしょーもない感想をオレは抱いた。


イカスミパスタの悪魔 了

この料理は以下の私の過去作のリライトです。


「春夏秋冬の公式企画のテーマを入れ替えて作品を作ってみた(2023年版)」(N0026IP)からの第2話目「ソーメンの悪魔」より。


これをシングルカットしようと思ったのですが、2000文字を超えていたのであきらめていました。


ところがある時、ユーチューブを見ていて、「これだ!」と思い、この「ソーメンの悪魔」を元にして2000文字にしました。


・きっかけとなったやつです

https://www.youtube.com/watch?v=eU6pTPn4Lp4


お食べいただきありがとうございました。



【読んで下さった方へ】

・レビュー、ブクマされると大変うれしいです。お星さまは一つでも、ないよりかはうれしいです(もちろん「いいね」も)。

・感想もどしどしお願いします(なるべく返信するよう努力はします)。

・誤字脱字や表現のおかしなところの指摘も歓迎です。

・下のリンクには今まで書いたものをシリーズとしてまとめていますので、お時間がある方はご一読よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■これらは発表済みの作品のリンクになります。お時間がありましたら、よろしくお願いいたします!

【短編、その他】

【春夏秋冬の公式企画集】

【大海の騎兵隊(本編と外伝)】

【江戸怪奇譚集】
― 新着の感想 ―
なるほど、イカスミパスタの悪魔ですね きっかけとなったYoutube見て納得しました イカスミパスタが食べたくなりました そして以前から感じておりましたが、言語といい、音楽といい守備範囲の広さに驚きで…
企画から来ました! イカスミパスタ……苦手でして。まさに『悪魔』って感じです。 オチが良かった。悪魔ケチだなぁ。 面白かったです!
[良い点] 最初のうちは「食事を作って提供してくれるのは有り難いし、そっとしておいても害はないかな」と思っていたイカスミパスタの悪魔でしたが、最後の最後に思わぬ形で主人公にダメージが入りましたね。 「…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ