表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

9話 クールな彼氏

わたしの恋人、鈴木惣一郎すずきそういちろうはクールな男だ。

 なんていうと、ちょっと誤解を生んでしまうかもしれない。

 物静かで、何事にも動じず、ちょっと油断できない男。そんな人物なのだ。

 なのでわたしこと田嶋海帆たじまみほは、ちょっぴり驚かせてみようと思う。


 彼の待つ下駄箱。

 ふたりで帰ろうって呼び出したのだ。

 昇降口の前でじっと待っている彼。今日は雨が降っているから、少しの足音くらいなら聞こえないだろう。まさに驚かすならうってつけの日だ。


 そろりそろりと背中から。


「わっ」


 って声を出した。

 すると惣一郎くんは。


「……びっくりした」


 なんて、表情を変えずに言うものだから、なんだかわたしは申し訳ない気持ちになった。

 もっとこう、びくってするのかと思った。なんか、ごめんね。


「ごめん。ちょっと驚いた反応が見たくて」

「俺、すっごい驚いてるよ」

「ええーっぜんぜんそう見えないよ」

「そうかな?」


 イタズラのことを謝罪して、わたしたちは帰路につく。

 それにしてもすっごい強い雨だ。

 ざざざざって感じて、べちゃちゃちゃって歩いている。

 あんまりにもあんまりなものだから、もう、足下もぐっちゃぐちゃになりそう。

 こうなったら、ちょっと、雨が弱まるまでパフェでも食べに行かないかと提案したとき、無遠慮な車がやって来て、ちょうど、惣一郎くんが車道側で。


 ――ざっぱーん。


 水たまりを踏み抜き、びしょびしょになる彼。

 ほんとうにばしゃーんって、津波が来たかと思ったくらい。

 下から順繰りにずぶ濡れになって、唯一、傘を差していた頭頂部だけは無事だった。

 そんな状態にもかかわらず、彼は顔色一つ変えず。


「ごめん。パフェは食べに行けそうもないよ」


 惣一郎くんは申し訳なさそうに謝った。


「いいよそんなのこと。それよりも早く帰ったほうが良いよ。風邪引いちゃうって」

「そうする」


 わたしはというと、彼が壁になってくれたおかげで、靴下と服の一部が濡れるくらいで済んだ。革靴の中はぐちゅぐちゅとして気持ち悪いけど。

 わたしたちはそのまま別れると早々帰宅した。


 お風呂上がり。

 スマホがぴかぴかと光っている。

 彼からメッセージが送られていたようだ。


『今日はごめんね。なにか食べに行こうって言っていたのに』

『そんなのまたでいいよ! それよりも大丈夫だった?』

『すぐお風呂入ったから、調子も悪くないよ』

『よかった~~』

『でも……』

『でも?』


 わたしが安心してベッドにダイブしようとしたとき。


「あれ、電話だ」


 突然着信音が鳴り響いた。

 彼だ。

 今までメッセージでやり取りしていたのにどうしたんだろう。


「海帆に早く会いたい」

「っ~~~~~~~!」


 クールだと思っていたけど、甘えた声で突然そんなこと言ってくるのだから、まったく油断できない――。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ