8話 めんどくさい後輩
「先輩。今日は部長会議があるの忘れてませんか?」
「えっ、あ、しまった。早く行かないと!!」
「しっかりしてくださいよ。先輩なんですから」
わたしこと片桐小春にお小言を並べ立てているのは、後輩でり、唯一の毎日やってくる部員である宮野聖哉くんだ。
そのうち「ほんと、僕がいないと駄目なんですから」なんて、わたしの部長としての尊厳とか、威厳とかその他諸々が消え去ってしまいそうで怖い。
年上だよ! 部長なんだよ!
ああ、時間が時間が。
わたしは、筆記用具をひっつかむと、早足で会議室に向かう。
文芸部の活動。
三ヶ月に一回くらいの間隔で部誌を出している。
小春君は綺麗な文章を書く。
あの生意気な感じからは考えられないほど、シャーベットにハチミツを一滴垂らしたような、甘くて素敵な物語を書くの。部誌で出すと、なかなか人気も高い。
わたしはというと、小難しい文章を書いているくせにまとまりが無く、別にそこまでひねくっている訳でもない。よくその表現は必要ですかなんて、他の部員から言われることがある。ぎゃふん。
でも、小春君だけは「僕は部長の文章嫌いではありません」って言ってくれる。
その後、すっごく誤字脱字の訂正とか、おかしな表現に赤ペンを入れてくるのだけれども。
だけれども!
ととと、とても悔しい!
いつか小春君にもぎゃふんと言わせてやりたい。
そしてチャンスがやって来た。
お父さんが趣味の懸賞で水族館のペアチケットを当てたのだ。
「それ、わたしにちょうだい!!」
「ああ、別に構わないけど……」
いつもは役に立ちそうで役に立たない物ばっかりだったけど、今回はサイコーだよ!
次の部誌では水をテーマにした作品を描いてみようと思ってたのだ。
丁度良い。
小春君も連れて行こう。
そして、わたしのものすっごくすごい文章で部長サイコーって言わせてやる。
「ねぇ、小春君」
「何ですか変な顔をして。何か企んでませんか?」
「変とは何だ変とは。今度水族館行かない?」
「――――ああ、部活のみんなとですか。今度の部誌は水をテーマにでもするんですか?」
「えっ、違うけど」
「じゃあどういうことなんですか。まさか僕を誘いたかったっだけですか」
「そうだけど」
「っ~~~な、なにを言っているんですか」
あれ、なんか思っていた反応と違うな。『良いですけど、僕の方が良い作品を書きますからね』みたいな感じで返してくると思ったのに。
「ま、まあ先輩が良いなら、僕は良いですけど!」
「あれ、もしかして行きたくなかった? じゃあ別の人に――」
「僕が、先輩と、行くんです!」
と、小春君はわたしの手を力強く握ってきたのだった。