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5話 残業のコーヒー


「今日は残業か……」


 わたしこと山田高子やまだたかこは呟いた。

 会議用の資料がなかなかまとまらない。

 明日には提出しないと間に合わないため頑張って作っている。

 これも、開発部がデータの提出をギリギリまでしなかった為であるが、向こうも忙しいのだと飲み込むことにしいた。


「先輩。コーヒー入れましょうか?」

「悪いよ。佐藤君も仕事が残っているんでしょ?」

「僕は大丈夫です。ちょうど休憩しようと思っていたんです」

「じゃあ、お願いしようかな」


 佐藤尋文さとうひろふみ君は新入社員の男の子。

 わたしの二個下で、この部署に来てから半年くらい経つ。


「仕事はもう慣れたの?」

「はい! 皆さん良くしてくれますし。それに……」

「ん?」

「な、なんでもないです! コーヒーですどうぞ!」

「ありがとう。わたしはもう少し残っていくけどあなたは?」

「あと少しなので、これを飲んだら帰ります」


 彼はわたしが残っていたり、うなっていたりするとこうやってコーヒーとかお茶を出してくれる。なんて優しい後輩なのだろうか。ありがとう。




 「今日も残業か……」


 今度は定例総会用の資料を作成している。

 売り上げの数値が前年度のままになっていたりして、合計とかがおかしなことになっていたために、急遽修正を余儀なくされているのだ。とある部の提出データの間違いで。

 正直、疲れた。気分も重くなる。


 わたしは目を皿のようにして表を見た。

 こことここを変えて、こことここのデータはマクロで集計して……。

 機能は素晴しい。でも、使う人間もこの表の意味をよく知っていなければならないというのが、ちょっと大変なのだけれども。


「先輩。お疲れ様です! コーヒー入れましょうか?」

「ありがとー佐藤君。わたしはもう疲れたよ……」

「僕も手伝えれば良いんですが……」

「同じデータは一緒に開けないからね。それよりも佐藤君の仕事は大丈夫なの?」

「はい。一段落したので、あとは確認するだけです。それでちょっと一服しようかと」

「わたしの分まで悪いねぇ」

「そんなことありませんよ。とっても楽しいです」


 何が楽しいのかは良く分からないけど、重荷になっていないなら良かった。


「佐藤君も、仕事が終わったら早く帰っていいからね」

「そうですね。僕も適当に切り上げますよ」


 なんて紙コップを口に付けたとき。


「あれ佐藤じゃん。さっき一緒にタイムカードきったのになにをやっているだ?」

「あっ、その、これは違って……」

「まあいいや。途中まで一緒に帰ろうぜー」

「わ、分かった。ちょっと外で待っててよ」


 佐藤君は妙に慌てながら同僚を見送ると、わたしの方を見て、まるで雨に濡れた子犬のような顔をしていた。


「せ、先輩……そ、その……」


 ああ、このときわたしはようやく理解したのだった。

 佐藤君はわざわざ残ってコーヒーを入れてくれていたのだ。

 顔を真っ赤にしてわたわたしている。

 そんな彼を見てわたしは、ああ、がんばろうって気合いを入れるのだった。

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