20話 勉強の集まり
「ぜんぜんわからん!」
ここは生協の休憩スペース。
もう一つ、少し歩いたところに有名なデパートが入っている建物もあるけど、そっちは人がたくさん居るイメージで、こっちは、食材を買うお客さんは多いけど、休憩スペースを利用する人が少ないために、集まるには良い穴場なのだ。
飲食店も2つくらいしかなくて、他は専門店になる。
そんな場所であっても迷惑な奇声を発するのはわたし、橘みどりなのであった。
「三次方程式って何!? 二次元じゃだめなの!?」
「それは別の意味にも聞こえるなぁ」
「駄目だ。俺も分からん。二次元じゃだめなのか」
「出原おまえもか……」
困ったように答えるのは木戸隆敏くん。
このテスト前の勉強会だって、彼が参加すると言うから来たのだ。じゃなければ、基本ぱっぱらぱーな脳みそのわたしが率先して勉強するわけがあるだろうか。いや、ない。
ちゃっかりと、彼の隣の席をキープしていて、ドキドキでそれどころではないと言える。
それに、基本一夜漬けで済ませているわたしには、すでに消費カロリーが高すぎてくらくらしてきた。
「駄目だ。気分を変えて別の教科にしよう。えっと、近松門左衛門の世話物を二つ答えよ……。もうおしまいだ。次のテストは終わった……」
机の上に突っ伏した。
隣の席では鈴木くんに海帆が勉強を教わっている。
あの二人は独特の空間が出来上がっていて、なんというか、クールだけどちょっと抜けている鈴木くんと、最初から抜けている海帆を見るのは面白い。うらやま。
「少し休憩しようか」
「ちょっとお腹減ったかも」
「じゃあ、わたしたちは食べるもの買ってくるね」
「俺は、トイレ行ってくる」
「橘と隆敏は荷物番していてくれー」
「うん」
「分かった」
図らずも二人きりになった。
やばい、緊張してきた。でも、これはチャンスでもある。
といいつつも、疲れと眠気から、頭がかくっと……。
「ごめん。ちょっと疲れたかも」
「がんばってたからね」
木戸くんがいるのだから、気合いも入るというもの。
疲れからか、段々と思考が鈍くなってくる。普段では考えられないような、大胆なことだって出来る。
「ねぇ、ちょっと肩を貸して」
「ん」
わたしはすとんと、彼の肩に頭を預けた。
なんだか不思議な気分。知ってた、わたしあなたのこと好きなんだよ。
「好きだよ」
「えっ?」
あれっ、わたし口に出していた。
眠気がすべて吹っ飛んだ。
横目でちらりと見ると、きょとんとした木戸くんの顔があった。
それから彼と何を話したのかぜんぜん覚えていなかった。
みんなが戻ってくると。
「あれ、おまえ達なんか変じゃない?」
「そんなことないよ」
「気のせいじゃない?」
みんなには見えないように、わたしたちは机の下で小指と小指を繋いでいたのだった。
24~25話くらいで終了の予定