19話 いっしょの帰り道
「えーゆみっち今日一緒に帰れないの」
学校の昇降口。
ピロンっとメッセージが届く。その内容は今日は一緒に帰れないということだ。
わたしこと橘このみは悲しい気持ちになった。
いつも駅まで一緒に帰る友達に急な用事が出来てしまった。仕方がないとはいえ一人で帰らないといけない。寂しい。
「えー羽田用事があるって?」
隣には同じクラスの少し気になっている加藤直輝くんがわたしとおんなじようにスマホを見ていた。どうやら彼の友達にも急な用事が出来たらしい。
わたしが『めっちゃさびしい・・・。また明日ね!』って返すと、隣が気になって顔を向ける。
――神妙な面持ちの二人の視線が合った。
ちょっと気まずさを感じないわけではない。なんか、お互い軽く会釈して、妙な雰囲気。
すると加藤くんが一度考える仕草をしたあと、こう切り出してきた。
「ねぇ。良かったら一緒に帰らない?」
「うん。いいよ」
一人で帰るのが寂しかったし、加藤くんだったからオーケーした。
「わたし駅だけど加藤くんは?」
「俺も似たような方向かな」
そう言って一緒に歩き出す。
なんか、一緒に帰る人が変わると新鮮な気分。
「今日なにしてた?」
「体育の授業でさ。すっげー走らされてさ。すっげー走った」
「歩くのしんどくない?」
「ぜんぜん。俺足の速さは普通くらいだけど、体力だけは自信があるんだよね」
「部活ハンドボール部だったよね」
「俺も部もあんまり強くないけどね。休みもそこそこあるしさ」
「そうなんだ」
なんてことのない会話だけど、なんだかちょっとくすぐったい。
加藤くんもこんなにしゃべるとは思っていなかった。
空はよく晴れていて、もうじき夕焼け空に変わって行きそうで。
もう少しだけこの時間が続けば良いのになんて思っていたけれども、駅に着いてしまう。
「ありがとう。加藤くんと話せて楽しかったよ」
「俺も楽しかった」
「ばいばい」
「またな」
そういってお互いの帰り道へ向かう。
そして翌日のこと。
朝から昨日急用が出来たゆみっちが謝りに来た。
「昨日はごめんねー。急用が出来ちゃってさ」
「ううん。大丈夫。加藤くんと帰りが同じだったから」
「ふぅん。もしかして今日も急用が出来た方が良い?」
「ちょ、からかわないでよ」
「あれ、でも加藤くんって……」
そのとき丁度加藤くんが登校してきた。
「おはよう」
「おはよ」
「ねえ、昨日このみと一緒に帰ったんだってー?」
「ぐ、からかうなよぉ」
「だって、加藤くんの家って駅とは違う方向じゃん」
「え、そうだったの」
わたしが驚いていると加藤くんが顔を伏せる。
口をもごもごさせながら答えた。
「う、うるさいな。橘と一緒に帰りたかったんだよ!」
そう言ったのだ。
わたしは、胸の中になんだかくすぐったいような、妙な感覚になった。