16話 壊れた自転車
俺こと安竹凜太は自転車通学だ。
高校から家までだいたい40分ほど掛かる。
しかし、今は自転車を降りて立ち止まっている。疲れたとかそういうことじゃなくて、今だけこの自転車は壊れている。ということにしておきたいんだ。
遠くから芳ヶ迫みらいが歩いてくるのが見える。
彼女は家から学校まで近くて、徒歩通学をしているそうだ。
俺が、どうしようかなーって感じで自転車のペダルとか手で回したり、ブレーキをしきりに押してみたりとしていると。
「どうしたの?」
と声が掛けられる。
待ってましたとばかりに俺はあくまで平静に答えた。
「いや、自転車の調子が悪くてさ。壊れたのかなー」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。なあ、えっと、ちょっと途中まで歩かないか」
「いいよ」
その後はどこが壊れたのーとか質問されたのだけれども、言葉を濁す。
調子が悪いんだーって誤魔化したけれども、芳ヶ迫と一緒に帰っていた明郷さんに用があるとかで先に帰ってしまったため、話し相手が欲しそうにしていた。
「まだ家まで距離があるんでしょ。どうするの?」
「え、あ、えーと、そう、迎えが来ることになっているんだ」
「来てくれるんだね」
「そうそう。待ち合わせ場所がこの先のコンビニでさ」
「そうなんだ」
からからと自転車を引く。
今日の授業のこととか、最近出来たショッピングモールのアスレチックが気になるとか、そんなことを話した。俺はふょうどそのアスレチックの割引券を持っている。そこが出しているアプリを事前登録すると、5人まで割り引いてくれるのだ。
俺はこのタイミングだと切り出す。
「なあ、その、今度どっか遊びに行かない」
「え~もしかしてふたりでぇ?」
なんということを言うんだ。
そこまでの覚悟は出来ていない。
「ばっ、違うってっ、その、内藤とか呼んでさ」
「いいよー。どこ行こっか?」
「ほら、さっき言ってたアスレチックとかどうよ。ジャイアントウォールとか巨大トランポリンとか置いてあるって。芳ヶ迫は運動が得意だべ」
「得意ってほどじゃないけど、身体を動かすのは好きかな」
「ならさ、何人かで障害物競走も出来るみたいだし、ちょっと勝負しようぜ」
「いいよ。じゃあ、楽しみにしているね」
俺は心の中でガッツポーズを取った。
「じゃ、じゃあ、俺はあそこのコンビニで待ち合わせだから!」
「ばいばい」
「またな」
彼女が手を振るのに対して、俺は軽く手を挙げた。
そのままだーってコンビニの駐車場まで全力で走った。本気で走った。
はやる気持ちが抑えられない。
「ふぅ」
いったん落ち着こうと水筒のお茶を飲む。
それから帰ろうと自転車にまたがってこぎ出そうとしたとき。
「そうだ、言い忘れたことがあって……」
「あっ」
「いつにしようかって……」
颯爽と飛び出そうとしたとき、彼女と目が合ったのだ。
それから芳ヶ迫はイタズラっぽい顔つきになると、俺に向かってからかうように言った。
「あれえ、壊れてたんじゃなかったのかな~?」
「う、そのぉ、い、一緒に歩きたくて……」
俺は素直に白状する。
「わたしも安竹くんと歩けて楽しかったよ」
俺の顔は鏡で見なくても分かるくらい赤くなっているだろう。