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15話 素直じゃないエルフ

登場人物

クリストフ・クラウゼ

アルウェイグ・ヘイスルーン

 ふわりとした感触。

 酔眼すいがんじみてぼけた視界の中。

 そういえば幼き頃、母に抱かれたときの感覚にも似ているとクリストフ・クラウゼは思った。

 郷愁きょうしゅう懐郷かいきょう、得も言われぬ追憶ノスタルジーに身を浸す。今は帰れない、いや、帰ることの出来なくなってしまった故郷。

 漠然ぼんやりした夢の中に、父が居て、母が居て、兄弟が居て、友人がいて、みんなが居て、滅びたその町はもはや彼の思い出の中にしかない。


「アルウェイグ?」

「目覚めたのか。ばかニンゲン。こんなところで眠るとはマヌケめ」

「もしかして膝を貸してくれたのか?」

「ち、違う。おまえの弱点を探していたのだ!」


 彼女――アルウェイグ・ヘイスルーンはあきらかに狼狽していた。

 まさか寝顔を盗み見ていたなどとは口が裂けても言えない。

 最もそんな機微などクリストフは気づく由もないが。


 人間嫌いのエルフではあるが、クリストフに浅からぬ想念を抱いている。

 しかし、照れ隠しからか、あるいは人間への不信感が払拭しきれないためか、口を開けば罵詈雑言が飛び出してくる。


「じゃああの優しくて幸福な感覚はいったいなんだったのか」

「ん~~~!!??」


 バッタ並みの健脚を持ってして突然飛び上がるものだからクリストフが重力に愛されることになる。その鈍い頭は地面に吸い込まれるように落ちていった。ごつんとこれまた鈍い音が鳴る。


「ひどいじゃないか」

「ふん。す、隙だらけなのが悪いんだ」


 クリストフは頭をさすりながら起き上がる。


「どのような理由があったにしろありがとう。久しぶりに故郷の夢を見られたよ」

「あなたの故郷――いえ、良かったな」

「それにしても俺に何かしてないよな?」

「す、するわけないじゃないかっ。おまえのくせ毛の髪とかいじってないからな!」

「何か撫でられているような感覚があったけど、俺の髪をいじっていたからか」

「なでっ、なぜばれ――いや違う」


 アルウェイグは目を白黒とさせ言い訳とも表現できない言葉を呟く。「違う違う違う」と繰り返すだけで、そこらに落ちている小枝ほどの役にも立たないだろう。

 様子のおかしい彼女に、クリストフは心配そうに彼女へと近づいた。


「なんか顔が赤いようだけど。熱でもあるのか」


 すっと、クリストフが昔母親にやってもらっていたのと同じように額と額を合わせようと顔を近づけると。


「なななな、なにをしようとしているんだ」

「熱を測ろうと」

「ば、そういってわたしに何をするつもりだ。こここ、これだからニンゲンは野蛮なのだ」


 無理もないことだ。

 彼女は突然の接近に頭が混乱してしまったのだろう。

 罵声を浴びながら逃げ出してしまった。

 後に残ったのはぽかんと口を開けたクリストフだけである。


「少し気持ちが楽になった。ありがとう」


 その言葉は彼女に決して届かなかったけれども、ふっと、彼は優しい笑みを浮かべた。

こんにちは。

15話まで続きました。

続きを読んでみたいペアなどいますでしょうか?

お仕事が忙しいので来週は未定です。

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