14話 四角い幼なじみ
わたしの名前は若鳥ちさとと言います。
言いたくないですがチビです。
苦手なものは大きい人です。
家族はわたし以外みんなでかいです。くそぅ。
「久しぶりに漆原さんに会ったよ」
「漆原さん?」
「覚えていないか? 近くに住んでいた子のことを。ほら、よく遊んでいたじゃないか。その親御さんだよ」
「もしかしてさねくん?」
「そうそう。ちさとと同じ学校へ転校してくるそうなんだ」
「懐かしいねぇ。良くちさとの後ろをついて歩いてかわいかったわねぇ」
晩ご飯の話題に振られたのは、昔良く遊んでいた子の話でした。
近所に住んでいたちっちゃくてふわふわころころの男の子。
わたしの方が二ヶ月早く産まれたからお姉さんぶって、さねくんが、ちさちゃんちさちゃんってとことこ追いかけてきて、とってもかわいかったのです。
「親父さんだけ仕事の関係でこっとへ先に来ているらしくてさ。コンビニでばったりと出会ったときはびっくりしたよ」
「はへぇ」
ぽけっと口を開きながら昔のことを思い出していました。
もしかしたら学校で会えるかもなんて、淡い期待と共に、ちょっと、胸がどきどきとしてしまいました――。
お父さんから話を聞いてから一週間が経ちました。
そんな折に小学校からの友達の美恵ちゃんが得意げな顔でやって来ました。
「転校生が来るんだって」
「もしかして漆原くんかも」
「あれ、知ってるの?」
「ううん。でも、お父さんが漆原くんのお父さんに会ったんだって」
「誰だっけ?」
「ほら、同じ班になったし、遊んだこともあるよ。ちょっと泣き虫な漆原実篤くん」
「――ああっ、あのちょっと古風な名前とは真逆でふわふわして弱そうな漆原君か!」
「そういえば美恵ちゃんは戦国武将みたいな名前だって言って、紙で出来た剣とか兜とか着せて武装させてたっけ」
「若気の至りってやつね」
「まだ若いのですよ……」
わたしは呆れ交じりにため息を吐きました。
その転校生は隣のクラスにやってくるらしく、珍しい出来事に、周りがざわざわしていました。本当に漆原くんだったらどうしましょう。
そんなわたしのドキドキ心とは裏腹に、答え合わせが直ぐやってきたのでした。
「もしかして小学校の時一緒だった漆原君?」
「はい」
「いやー変わったねぇ」
「そうですか?」
廊下に美恵ちゃんが男の子と絡んでいました。
「美恵ちゃん。誰とお話ししているの?」
「ほらっ、ちさの言うとおり漆原君だったよ」
美恵ちゃんの後ろからぬっと出てきた男の子は。
男の子は……。
巨人でした。
「久しぶりです」
小さくて、ふわふわで、ころころの――――ではまったくなく。
背が高くて、しゅっとして、精悍な顔つきの。
「久しぶ、り……?」
とても大きな身体に、がっしりとした体格で。
なんだかとっても角張っているのでした。
あの頃のさねちゃんとはまったく違っていて。
会えた喜びと、変わってしまったことの戸惑いと。
わたしはいろいろな感情がほとばしってしまって。
「し、し、四角いよぉぉぉぉぉ」
泣いてしまいました。
わたしの家族はみんなでかいです。
親戚もみんなでかくて無遠慮で、集まりがあったときに無数のでかい人たちに囲まれて見下ろされてとても怖かった記憶があります。今でも軽いトラウマです。
再開出来たことは嬉しかったのですが、恐怖の方が勝ってしまったのです。
あれから、彼とすれ違うときは軽く会釈するだけになってしまいました。
それではいけません!!
彼に謝ろうと思います。
廊下を歩いていた漆原くんを見つけてさっそくアタックしました。
「話があります」
「…………はい」
そのときの表情は、見ていた美恵ちゃんの話によると、まるで決闘でもするかのような、険しい顔だったそうです。そんなばかな。
ちょっと人目の少ない場所へ移動すると、早速わたしは頭を下げたのでした。
「ごめんなさい」
「こちらも驚かせてしまったようで」
「ちさ……さんはあまり変わっていないみたいですね」
「そ、それはちびって言いたいんですか!? わ、わたしのほうがお姉さんなんですよ!?」
ちょっと昔に戻ったみたいです。
彼はどうでしょうか? あのころのふわふわころころでわたしの後ろを付いてきた男の子はもういなくなってしまったのでしょうか?
それは分かりません。
漆原くんは怖いけど、ちょっとだけ怖くない。
でっかいけど、穏やかな青年に成長していました。
「お帰りなさい。さねくん」
「ただいま。ちさちゃん」
その日の帰り道のことです。
「落としましたよ」
「ありがとうございます」
鞄に付けていたイルカのキャラクターのキーホルダーが落ちてしまいました。
キーホルダーを渡してくれた人は、わたしの顔をじっとみて、にやりと不適に笑いました。
「その制服、天ノ川西高校のですねぇ。そうだボクと遊びませんかぁ?」
ひぃ。
ぎろり、と効果音がなった気がしました。
その人のじろじろと見る目つきがとても怖かったのです。
まるで人を殺したことがありそうなほどの迫力で、わたしを睨め上げるよう見る顔が恐ろしいのです。
わざわざわたしの顔を下から覗き込むように前傾姿勢で、ちょっと斜めに顔を傾けて、目かっと見開かれ、あまりの恐怖に身体がこわばってしまいました。
どうしようもなくなっていると、上から声が降ってきました。
「俺と約束があるので」
すっと漆原くんがわたしの手を取りました。
そのまま引っ張っ立ち去りたそうにしていたのですが、どんくさいわたしはまごまごとその場に留まっています。わたしが転ばないようにしてくれているようで、強く引っ張らないでくれていたために、ただ手を繋いでいるだけになってしまいました。
「ああ、なんですかあんたは」
「彼女の友人です」
「……ジャマして悪かったな」
そう言い残して去って行きました。
そういえば、昔もこんなことがあった気がします。
さねくんがいじめっ子に立ち向かったときとか。
優しくて、わたしを傷つけないようにしてくれているところとか。
変わったこともあるけど、変わらないものもあるのだと気づきました。
「ありがとう。さねくん」
わたしは彼に笑いかけたのでした。