12話 差し入れ
「うぅ~誰か時計を戻して……」
このテンパっている体育祭実行委員の名前は川原恵美という。
もちろんわたしである。
ドタドタと慌ただしく、あっちこっちそっちどっち、体育祭も近くなってくると、自然にやることが増えてくる。わたしたちの仕事は主に設営とか設置とか、あとは競技の小物を作ったり概定の物を補修したりすることだけれども。
「こっちは終わった……」
この素っ気ないように見える生徒。
同じ実行委員である宗像広大くんだ。
正直ちょっと苦手。
あんまりしゃべらないし、笑わないし、背も高いしお顔も雰囲気もかくばっていてこわいんだもの。
「ありがとう。じゃあ、一緒にこの箱持って備品室に行こう」
「分かった」
たくさん作ったぼんぼんを持っていく。
他にも体育祭に必要な小物類を作っていた。細々とした作業は得意で、わたしに割り振られた仕事をこなす。出来はなかなかのものだと自負している。
「あれ、数が足りないよ」
備品室で待っていたのは、道具の数を数えたり、管理している生徒。
「え、ちゃんと30個作ったよ」
「作る数間違えたでしょう。50個必要だよ。あと20個がんばって」
「……はい」
ニコニコと笑っているけど、がんばっての後は当然『早く作れ』が続く。
もちろんみんな忙しいのは分かっているけど、あんなにつっけんどんと言わなくても良いじゃない。わたしが悪いんだけれども。
「うぅぅぅぅ失敗したぁ」
半泣きになりながら、ビニールテープに鋏を入れてざくざく切っていく。
あと20個も作らないといけない。
あれだけ一生懸命やったのにと思うと、段々落ち込んでくる。
がらりと、扉が開く。
大道具の製作とか、設営の準備とか、でかくて力が強いからそっちに駆り出されていた宗像くんが戻ってきた。手にはペットボトルを持っていて、わたしに向かってずいっと差し出した。
「差し入れ」
「ありがとう」
「俺も手伝う」
ぶっきらぼうに言うと、不器用な手つきでビニールテープをグルグル巻き付けていく。
かさりと作業の音だけが教室に響いた。
ちょっと気まずい雰囲気。
わたしは、彼が持ってきた差し入れを見た。
すると、紙みたいな物が輪ゴムでくくりつけてあった。
な、なんだろう、これ。
おっかなびっくりとそれを開くと、どうやらそれは手紙のような、メモのようなもののようだ。
『俺は川原さんが頑張っているの知っているから。ファイト』
と短い文章が書かれていた。
わたしが手紙を読んでいる間、彼は作業を続けていてこっちを決して見ないようにしていた。でも、ちょっとそわそわしているようで。
わたしはその姿に、ちょっとだけ心にぐっと来た。
来週は月、水、金更新予定。