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1話 入学式のフラワーシャワー

「ここはどこだろう…………」


 ぼそりと呟いたのはわたしこと吉井瞳よしいひとみ

 高校の入学式。

 校内にある気が立ち並んでいる場所に桜が咲いているのが見えた。

 せっかくだから式の前に見ておこうって思ったのがいけなかった。

 自分がどこにいるのか分からない。

 でも目の前にある桜は優しい雰囲気を漂わせていて。


 少し背が高い。

 白っぽい色をしていて。

 とてもきれいだった。


 それにしてもわたしはいったい何をしているのだろう。

 桜を見に行って迷うなんて、マヌケにもほどがある。

 ここが校舎の裏側のどこかだということは分かる。そしてこの学校が思った以上に広いことも理解した。でも帰り道は分からない。


 このまま歩き続ければいつかは林から出られるんじゃないかと考え、進もうとしたとき、人を見つけたのだ。それも地面を這うようにして、じっと見ている人を。


 声を掛けようか迷ったけれども、なんだか話しかけられる雰囲気ではない。

 なんだか怖いし、ちょっと近寄りがたくて。

 助けに船だと飛びつこうとしたけれど、ちょっとはばかられる。この学校の制服を着ているので生徒なのは間違いないだろうけど。

 わたしはそっと、気づかれないように立ち去ろうとしたら。


「新入生? こんなところでなにをしているの」


 見つかってしまった。

 わたしはちょっと緊張しながらおんなじことを聞き返す。


「そちらこそなにをしているんですか?」

「桜を――」

「桜を?」

「見ていたんだ」


 わたしとおんなじことを考えている人がいるだなんて。驚きと共にちょっと感動もするけど、やっていることは変な人の類いなので、わたしも彼も変な人の括りになるのだろう。

 それよりも彼ならば帰り道を知っているかも。


「あの、一年の昇降口ってどこにあるのか知ってますか?」

「ううん。俺も迷っているんだ」


 屈託のない笑顔を浮かべている。

 ふわふわとしてつかみ所の無いちょっと変わった男の子。

 良く見たら胸に新入生に贈られる花が付けられていた。


 迷子が二人になっただけかとちょっと肩を落とした。

 ぐるりと回って行けばいつか辿り着くのだろうけど、入学式には間に合わないかもしれない。

 それにしてもさっきから何かを集めているようだけどどうしたんだろう。


「さっきからなにをしているの」

「この桜。大島桜っていうんだけど。その花びらを集めているんだ」

「へぇ?」

「あ、今引いたでしょ」

「引いたわけじゃなけど、不思議なことをしているなあとは思った。なんでそんなことをしているのかな」

「ほら、漫画とかドラマとかの入学式で花をぱーってやるシーンがあるじゃない。それがやりたくて汚れていない綺麗な花を集めているんだ」

「そうなんだ」


 確かに入学式か卒業式にそんなことをしているイメージがある。

 わたしはちょっと興味がわいて、彼の集めた花を覗き込んでみた。

 真新しい制服に綺麗な花を集めていた。その数は結構な量で、確かに結婚式で見たフラワーシャワーが出来そうなくらいだった。


「ねえ、イヤじゃなければいいんだけど。一緒にこう桜をぱーってやって見ない?」


 わたしはちょっと考えて。


「……うん。いいよ」


 彼から少しだけ花を分けてもらった。


「ほら、じゃあ、せーの!」


 かけ声と共にぱーって空に向かって投げた。

 花の塊がそのそのまま落ちていくだけだったらイヤだなって思っていたけれども、わたしたちが放り投げた桜の花びらは、思ったよりも緩やかに、ぱーって広がっていった。まるで桜並木の中にいるみたい。ほんとうに桜が舞い散っているみたい。

 彼は花びらが舞い落ちる中、わたしに向かってこういったのだった。


「入学おめでとう」

「こちらこそ入学おめでとう」

「頭に花がついているよ」

「そっちなんて桜まみれになっているよ」

「これからよろしくね」


 ちょっと不思議な男の子との変な出会いだったけれども、これよりもうちょっとだけ学校生活が楽しくなりそうな気がしたのだった。

男の子の名前は藤島大樹ふじしまたいじゅです。

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