3年R組改め3年リッチ組
「一体何なんだよ」
「私だってわからないわ」
29人の、35歳の男女。
その彼らの手にいきなりとんでもない幸運が訪れた。
例えばこの、佐藤由美と言う専業主婦。
サラリーマンの夫と五歳の息子を持ったごくごく普通の専業主婦。
その彼女が、なんとなく入った銀行で目を丸くして帰って来て通帳を五度見し、振り込まれた数を家で七度見した。
「心当たりは」
「全くないわ」
「でもなんかあるだろ」
「なんかって」
「いやお前、昨日」
「ただの同窓会よ」
「……だよなあ」
その一般庶民がとてもたどり着けないであろう額が振り込まれたのは、昨日午後三時。
ちょうど、高校時代を共に過ごした3年R組の同窓会に行っていた頃。
「と言うかあの山野って奴になんかされなかったのか」
「何もないから、相変わらず口はめちゃくちゃに悪かったけど。特に市川君にはもう」
3年R組30人の集まった同窓会の主催となった山野とか言う男。自分では人気者を気取っているがその実はあふれる行動力を間違った方向にばかり振りかざす迷惑な男であり、平たく言えばKYな上に自己顕示欲の塊のような存在だ。当然人気はなかったが、それでも人気店のディナーが市価の7割程度の値段で食べられるのと他の同級生と会えると言う事もあり由美は出席したのだ。
その中でも山野は相変わらずであり、特に市川にはやたらと絡んでいた。大学にも行かずに就職し、ずっと働いて来たはずの彼に—————。
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また、出席しなかった人間もである。
「あーあ、これで縁を切るしかなくなっちまったって訳ですかい…まあせいぜい二度と御縁のない事を願いますがね!」
市川と同じように高卒後大学進学せず、家賃四万円切りのアパートに住む男。
自称ギャンブラーの男のスマホから聞こえて来る、恨みがましい声。
「世の中そんなに悪いもんでもねえか」
一生寝て暮らせるような金が舞い込んで来た男。貸金業者と言うか闇金に借りていた金を全額返済しても余りに余る金をくれた誰かさんに感謝しながらも、男はにやつく。これを機にギャンブルから足を洗うか否かはわからないが、それでも感謝だけはするつもりでいた。
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そして、山野本人も。
「ったく、なぜまた俺にこんな金が降って湧いて来るのかねえ。まあ俺の人徳って奴かねえ?あのビンボー人の市川とは違うからな!」
そんな風に浮かれていた山野はスマホを滑らせニュースを目の当たりにし、そして動かなくなった。
「ま、まあ、な。まぐれ当たりってのもあるよな。うん、うん、そうだ。俺みたいな天性のキラキラ野郎にはかなわねえんだよ。フフ、ハハ、ハハハハハ……」
そのニュースを三度見し、シャットダウンする。
そのまま横になった山野は昨日、ファストファッション姿で現れた市川とスマホの中の人物が同一人物である事を認めないと言わんばかりに笑った。
同じ頃佐藤由美が同じニュースを目の当たりにして感心と言うか感動すると共に、それでもなお威張りくさらない市川と言う同級生に尊敬の念を抱いていたと言うのに—————。
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「しっかし20億か…なんでまた俺なんかに、まあ半分ほど母ちゃんと兄貴一家に渡すか…こんな親不孝もんでも少しは役に立てるって事を証明しなくちゃよ……」
20億円。
専業主婦も自称ギャンブラーも自称キラキラ男にも、市川と言う男を除く全員に等しく配布されたその金額。
いや正確にはやや上下はあるが、いずれにしても20億円に近しい金額。
そう、「3年R組の中で一番ビンボーなヤツ」の現在の総資産より1円だけ多くなるように、同級生全員に行き渡ったのである。




