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星と煌めきの空  作者: 香坂
選択と真実の物語
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「魔法……? これが魔法なんですか?」


 恐る恐る炎に手を近づけると、急に炎の勢いが増したので慌てて手を引っ込める。


「幻でも何でもないよ。これは本物の炎さ。指を何本か失くしても構わないなら触ってみるといいよ」


 レイアルは意地悪な笑みを浮かべて腕をさらに伸ばす。距離の近くなった燃えたぎる炎にたじろぎながらスイは素早く首を振った。


「え、遠慮します。……それにしてもこんなの見たことないです。俺にもできますか?」


「資質の問題もあるが、お前さんの場合はそれ以前の問題だね。魔力を反発しちまってるからどう頑張っても魔法は使えないよ」


「魔法って魔力なんですか? あ、確か魔力と神力は相性が悪いって言ってたな……」


 シグリさんのところで身体検査をした時に教えてもらったことだ。


 魔力に触れるだけで激痛が走る。他のフィーリスたちはそこまでの痛みではないらしいけど、俺は何故かものすごく痛い。俺がフィーリスじゃないからかもしれないけど、詳しいことは説明してもらえなかった。実験もとい身体検査の結果も説明はなく、唯一教えてくれたのは魔力と神力の関係性だけ。

 検査じゃなくて実験だったな、あれは。



「俺、以前までは魔力が使えていたんです。でも今は神力しか使えないから、その魔法っていうのが魔力を使ってるんだとしたら……やっぱり無理そうですね」


 ちょっと使ってみたかったなという思いを隠しきれず、力無い笑顔になってしまう。


 だって魔力を使ってこんなことができるだなんて知らなかった。せいぜい腰痛や肩こりを和らげたり、ゴミを燃やしたりする程度。それに燃やすと言ってもこんなふうに自在に炎を出せるわけじゃないし、村の大人たちによると正確には燃やしてはいないそうだ。

 生活をちょっと便利にするだけの補助的な役割でしか使ったことがないし、そういう使い方しかないものだと思っていたのだ。



 スイの言葉にレイアルは「ふむ」と唇を曲げると手のひらの上の炎を握り潰すように消し去った。ジュッという音と共に少し焦げた匂いが漂う。


「フィーリスに助けられたのに逃げて来たとか、その格好も気になるところだけれど、神力が使えるだって? お前さんの話はどうも理解し難いねぇ。フィーリスでもないのにどうして神力が使えるのさ?」


「そうそれよ! 先生、どうしてこの子がフィーリスじゃないだなんて断言できるの?」


「あぁ、お前さんは知らないのか。フィーリスに子供はいないんだよ。みんな生まれた時から成体さ」


「ええ⁉︎」


 ハスナとスイの驚愕の声が重なる。



「初耳だわ! それってつまりどういうこと?」


「どうもこうもないよ。あいつらは最初から最後まであの見た目だよ。公言しているわけじゃないからあまり知られていないことだろうがね。だからスイがフィーリスなら史上初の個体ってことになる。どう見たって成熟した大人の身体になるにはまだ何年かかかるだろうよ」


「あの、俺はもう成人してるので子供じゃないんですが……」


「えっ、いくつなの?」


「十七……じゃなくて、えーと、たぶん十八になるかも」


 眠りについていた期間が長すぎて自分でもよくわかっていない。カルラたちの言葉を信じるなら自分の記憶から十ヶ月は確実に経っているわけで、もしかしたらちょうど誕生日を迎える頃かもしれない。

 一年のほとんどを寝て過ごしたことはいまだに実感が湧かないものだ。



 スイの返答にハスナは呆れたように肩をすくめる。


「何で曖昧なのよ。でもそれならまだ成人とは言えないわね。成人は十九歳からよ」


「俺のいた村では十七が成人だったんだけど……そうか、地域によって違うこともあるのか」


 だからと言って子供と言われるのは少々腑に落ちない。俺ってそんなに子供っぽく見えるのか?



「うっそ信じらんない。十七歳でもう成人扱いなの? 一体どんな田舎に住んでたのよ」


「十七だろうが十九だろうが似たようなもんだろう。子供には変わりないよ。年齢で威張りたきゃ百年生きてからにしな」


 ピシャリと二人を嗜めるとレイアルは大きなため息をついた。頬にかかった髪の毛を煩わしそうに払うと六杯目のお茶を注ぐようハスナに指示する。

 そんなに飲んでお腹は大丈夫なんだろうか……?



「年齢のことはどうでもいいが神力についてはそうはいかない。さ、説明してごらんよ。わかりやすく手短にだ」


 それが一番難しいんだけどな、と思いつつ出来る限り頭の中で言葉を取捨選択しながら口を開いた。


「俺は人間でした……たぶん。でもある日強盗に襲われて森に置き去りにされた後の記憶がなくて、その時にフィーリスに助けられたんです。そうしたら人間じゃないって言われて、自分が何者なのか確かめるためにここへ……アストロンへ来ました」



 大丈夫。うまく説明できてるはず。


 だけど問題はここからだ。ラオザームかもしれないってことを言わなくちゃいけない。レイアルさんはフィーリスに詳しいみたいだから俺がラオザームだと知ったら敵対してくるだろうか?

 ———いや、今は考えるだけ無駄だ。俺にはわからないことが多すぎる。考えたところで判断材料がないのだから意味はない。


 それにもしかしたらラオザームを知らない可能性だってあるんだ。今更嘘をついて取り繕うことも難しいし、ここは良い方向に行くと信じて打ち明けるしかない!



「神力はいつの間にか使えてました。それは俺が……ラオザームだからなのかも、しれません」



 しばらくの間、静寂が辺りを包み込む。



 誰も何も言わなかった。

 レイアルはスイを見つめ、ハスナはそのレイアルを見ている。


 スイは膝上の拳の中がじんわりと汗ばむのを感じた。



 どのくらいの時間が経ったかわからないが、レイアルの椅子が軋む音でハッとする。



「そうかい。ふぅん、お前さんがラオザームねぇ……。嘘か真か、それを調べる手立ては何もない。だけど一つ言えるのは」


 レイアルは深爪気味の人差し指でスイをゆっくりと指した。


「そんな嘘をつくような馬鹿はすぐに消されるし、もし本当だったとしてもいずれは消される。どっちにしろ儚い命だ。だからその命、私が有効活用してやろうじゃないか」


 悪魔のような微笑みにスイの背筋がゾワリと粟立つ。


 もしかして俺は選択を誤ったのだろうかという考えが頭を過ぎる。



「さて、それはそうとそろそろ飯の時間だね。ハスナ、一人分追加だ。三十分以内で頼むよ。スイ、お前さんはこっちに来な。まだ話は終わってないからね」


 レイアルはハスナの嘆きを無視して席を立つと扉の前で足を止め、ついて来いと顎で示す。

 そして待ってくれるわけでもなくそのまま扉の向こうへと行ってしまったので、スイは慌てて立ち上がり、テーブルにぶつかりながら彼女の後を追うことになった。



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