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星と煌めきの空  作者: 香坂
選択と真実の物語
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 扉の向こうから聞こえてくる足音が完全に聞こえなくなるとスイは長いため息をついた。

 まったくもって心臓に悪い。



 ズルズルと扉にもたれかかるように座ると、真っ暗だった部屋の中が少し見えるようになってきたことに気づく。目が慣れたんだろう。ぼんやりとだが近くのものは確認することができた。



 ここは倉庫のような場所なのかもしれない。

 そろりと立ち上がって手近なものに指を這わせてみる。どうやらいくつもの棚があるようだ。本や入れ物が所狭しとしまわれている。


 とても綺麗に整頓されているように見えるが、若干の埃っぽさはここがあまり使われていないからだろうか?



 あまり触りすぎて痕跡を残すのもよくないと思い、すぐさま好奇心を引っ込める。ここがどんな場所であろうとも今のスイにとってそれは重要なことではないのだ。


 誰にも見つからないこと。

 そしてルトアとカルラを探すこと。

 それが次なる目的だからだ。


 ここに長居するのは良くない。あの部屋から脱出したことが知られてしまうのも時間の問題だろう。とにかく早く二人に会いたい。



 そっと扉に耳を押し当てて外の様子に神経を集中させる。




 …………誰か来る。



 さっきの人とは逆の方向から聞こえてくる。しかも……たぶん複数。足音が一人分じゃない。


 またここでやり過ごすしかなさそうだなと軽く目を閉じて耳に神経を集中させていると、徐々に近づく足音が目の前でピタリと止まった。


 ドキンと大きく心臓が跳ね上がる。


 まさかとは思うが、ここへ入ってくるのか?

 慌てて扉から耳を離して足早に部屋の奥へと移動する。とにかく音を立てないように気を配りながら、一番奥の棚へと体を滑り込ませた。


 間一髪の差で扉が開いた音が聞こえ、思わず息を止める。



「こんなところにあるんですか?」


「こんなところだからこそあった、というべきかもね」



 聞いたことのある声だ! シグリさんとマルセルさん……のような気がする。


 顔を確かめたいけど出て行っても大丈夫なのかがわからない。もしかしたら二人は俺を監禁していたのかもしれないのだ。


 鼓動が速くなるのを感じて胸の辺りを強く手で抑える。森での狩りを思い出すように、ゆっくりと静かに呼吸を繰り返した。



「閉める前に持って来た明かりをつけてくれるかしら? ここ照明が壊れてて本当に真っ暗なのよ」


「壊れてるなら直してくださいよ」


「普段使わない倉庫だから後回しになっちゃってるのよねぇ。開かずの扉だなんて呼ばれてるくらいだから、みんな存在すら忘れてるのよ。わたくしもラオザームについて調べなければこんなところに用事なんてなかったわ」


 ある単語を耳にしてドキリと一際大きく心臓が鳴る。


 ラオザーム。

 確かにそう聞こえた。


 せっかく整えた呼吸が荒くなりかける。一層強く胸元を握り締め、必死に平静を取り戻そうと努めた。



 扉が閉まる音がして、二人分の足音が再び聞こえてくる。


「それで、どこにあるんですか?」


「突き当たりに書棚があるのだけれど……こっちよ」


 まずい。近づいてくる。

 でもまだ距離があるし、幸い手元の明かりのみで進んでいるみたいだからすぐには見つからないんじゃないか? いざとなったら光が届かない場所へ逃げれば何とかなるかもしれない。


 息を潜め、二人の動向に神経を張りつめる。



「確かここら辺に……ああ、あったわ」


 声がハッキリと聞こえるところまで距離が縮まり、彼らがあと一歩でも進んでいたら逃げる準備をする寸前だった。

 安堵のため息を我慢し、奥歯を噛み締める。


「随分と古い書物ですね」


「えぇ、記録に残っているのはこれだけだったわ。さすがは伝説と言われるだけのことはあるわね」


「それで、何と書いてあるのですか?」


「……ラオザームは破滅をもたらす者。言い伝えの通りよ。だけどここにはそう言われる理由が書いてあったの……ここ。ラオザームの起源が記されてる」



 二人の会話がピタリと止み、沈黙が流れる。


 どうしたんだろうか? ラオザーム、つまり俺のことについて一体何が書いてあるんだ?


 今すぐ出て行って自分もその内容を確かめたい気持ちを何とか堪える。もどかしい沈黙の時間を最初に破ったのはシグリだった。



「ラオザームはフィーリスを己の核として取り込み、神力を自在に操る術を有する種族である。すなわちラオザームの繁栄はフィーリスの犠牲の上に成り立つべし。……想像はしていましたが物騒なことが書いてありますね。ここから先は滲んでいて読めませんが……これが本当ならば、確かにラオザームは我々フィーリスの敵ということで間違いなさそうですね」


「そうね……フィーリスを核として力を行使しているのなら、あの子の検査結果にも納得できるでしょう? まったく、核だなんて……まるで魔物ね」



 敵。魔物。


 二つの言葉がスイの胸に重くのしかかる。


 もしかして敵対する存在なのかもしれないと思ったことはあった。だけどこうして明確にそうだと言われるとやはり鋭く突き刺さるものがある。しかも魔物だなんて……。


 心臓がギュウっと押し潰される感じがした。




「シーちゃんにお願いしたいのは、その滲んで読めない部分の解読なのよ。できるかしら?」


「かなり古い書物ですし完全には無理かもしれませんが、試してはみます。こちらしばらくお借りしても?」


「えぇ。でもあくまでも極秘でお願いね。すべてが明らかになる前に憶測で噂が飛び交うと厄介だから……」



 二人の声が段々と遠ざかり、ゆっくりと扉が閉まる音がした。



 頭がボーッとする。さっきの会話を反芻しながら胸元から手を離した。

 握り締めすぎてぐちゃぐちゃになった服を撫で、静かに深呼吸を繰り返す。


 ここにいても見つかるだけだ。見つかったらまたあの部屋に戻されるのは確実だし、監禁も継続するだろう。


 そして最悪は、危険な存在として殺されてしまうかもしれない。




 大きく息を吐き、決心する。

 ルトアとカルラに会いたかったが、二人を探している時間はあまり残されていないようだ。モタモタしている間に事態が好転するとも思えない。むしろ悪くなる可能性のほうが高い。


 スイは物音を立てないよう慎重に足を運びつつ部屋を後にした。




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