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星と煌めきの空  作者: 香坂
選択と真実の物語
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 控えめに鳴る鈴の音に顔を上げる。

 男は読んでいた本に栞を挟むと、読書を中断しなければならないことに小さくため息をつきながら名残惜しそうに本を閉じた。


 特にすることがないこの当番をいかに快適に過ごすか考えた結果、以前熱中していた本の続編が出たことを思い出して昨日買って来たのだが、読み進めるとやはり面白く、また続きを買う意欲に駆られ、意識が本の中に入り込んでいる最中の呼び鈴だった。


 つい一時間ほど前に持ち場にやって来た彼は、眠そうに欠伸を我慢する同僚と交代したばかりだ。他の同僚達の噂によるとここ二日ほどは呼び鈴が鳴ることはなかったと聞いている。だからこそ本を集中して読めそうだと踏んだのだが、どうやら目論見は外れたらしい。



 青い扉へと近づき、軽く叩いてみる。


 だがいくら待っても扉の向こうから返事はない。


 呼んでおきながら無反応とはどういうことだと首を傾げ、鈴の音が妙に小さかったことからもしかしたらたまたま鳴ってしまっただけだったのだろうかと、そばにある小窓を開けて中を覗いて見ることにした。


 配膳用の小窓だからか少し位置が低い。若干屈んで室内を観察すると、驚きの光景が目に飛び込んできた。



「なっ……⁉︎」


 倒れている。被験者が倒れているのだ。


 補佐官から丁重に扱うようにと指令が出ているというのに、自分が当番の時にやっかいごとはごめんだ。



 男は急いで持ち場に戻り、さっきまで読んでいた本を押し除けて机の上の小物入れをひっくり返した。


 カツンと鈍い音を立てて一本の鍵が転がる。

 それを勢いよく掴み取り、足がもつれそうになりながら青い扉の鍵穴に捩じ込んだ。



「おいっ! しっかりしろ!」



 駆け寄り近くで見ると苦悶の表情を浮かべているのがわかる。意識があるのかはわからないが、ひとまずは生きているみたいだ。


 少しだけ安堵しつつも、何故こんな状態になったのか、被験者は無事なのか、自分の監督責任になるのか、そういったことが頭の中を駆け巡る。


 ちくしょう、何でよりによって今日この時間なんだよ!


 被験者の体を心配する気持ちもあるが、面倒なことになったと毒づきたい気持ちのほうが上回ってしまう。結局は我が身可愛さなのだ。



 とりあえず体を抱き起こしてみようと、首の下に手を入れて力を入れようとしたその時だった。


 突然口元に何かを押し付けられた。

 倒れていると思ったその人物から、適当な大きさの布の塊みたいなもので鼻と口を塞がれ、驚きで思わず大きく息を吸い込んでしまう。


 何だ、何をされた⁉︎



 考えるよりも先に視界がぼやけていく。


 最後に見たのは、澄んだ青い空のような色をした瞳がこちらを見ているところだった。











「……うまくいった、みたいだな」



 男が静かに寝息を立て始めるのを確認し、スイはホッと胸を撫で下ろした。


 うまくいくか心配だったけど、さすがは魔物にも効く睡眠薬だ。あっという間に眠ってしまった。


 サウラの依頼を受けた時に準備しておいた睡眠薬がこんなところで役に立つとは思わなかったけど、双子のポーチへ預けずに懐にずっと忍ばせていたおかげで脱出の突破口を開くことに成功した。

 まずは第一関門を通過したのだ。



 床の上でスヤスヤと眠る男を引きずり、シーツを体に巻き付けてベッドの上へと引っ張り上げる。なかなかの重労働だがさほど時間をかけずに成すことができた。


 ここまでは順調。次は誰にも見つからずにルトアとカルラを探すこと。それは脱出するだけより難易度が遥かに跳ね上がる。


 だけど、やるしかない。



 監禁と言ってもいい状況に俺が置かれていることを二人は知らないのではないか? そう思えてならないのだ。


 短い間とは言え、ここまでずっと一緒だったんだ。他人にも関わらず親切にしてもらい、何も知らない俺を助け、あらゆることから守ってくれた。


 それなのに監禁だなんて、あの二人が首を縦に振るはずはない。この思いは俺の願望でしかないのかもしれないけど、それでも信じたい。



 例え俺が望まない結果が待っていたとしても、何も知らないよりはいい。そうすることを俺は選んだんだ。




 スイは眠らせた男が羽織っていた上着を拝借するとフードを頭からすっぽりと被った。


「すみません、少し借りますね」


 翼がないのはどうしようもないが、せめて目立たぬよう行動したい。この人には悪いけど、この上着は他のフィーリスも着ているみたいだから紛れ込むにはちょうどいいだろう。

 少し裾を引きずってしまうけど……仕方がない。借り物感満載だが、ないよりはマシだと思う。



 さて、準備もできたしさっさと脱出だ。


 足早に部屋を出て重い金属の扉を押し開ける。ズシリと重い扉は、ここに閉じ込められていたことを物語るかのようだった。


 なるべく足音を立てないように階段を慎重に駆け上がる。早く静かに階段を上がるというのは存外難しいものだなと、はやる気持ちを抑えつつ上を目指した。



 薄暗い階段を抜けると長い廊下が現れる。

 この建物はとにかく廊下が多くてしかも長い。何の部屋かわからない扉が等間隔に並んでいて、いつ誰が出てくるかわからない危険が潜んでいる。


 ここはさっさと駆け抜けてしまおう。ぐずぐずしてるとそれだけ危険度が高まってしまう。



 そう決心して駆け出した矢先、奥にある扉の一つが突然開いた。


 外開きの扉はちょうどスイの姿を隠してくれる状態で開いたので、扉を開けた人物には見つからずに済んだ。

 スイは鼓動が大きく跳ね上がるのを感じながら、すぐさま近くにある扉を開けて中へと滑り込む。


 あ、危なかった……間一髪と言ったところか……。


 静かに扉を閉めると、中は真っ暗でよく見えなかった。この暗さなら誰もいないだろうとホッと息を吐く。


 地下の部屋から抜け出して早々に捕まるだなんてごめんだ。少しの間ここでやり過ごしたほうがいいかもしれないな。



 扉に耳を押し当てると、さっき遭遇しそうになった人物のものと思われる足音が遠ざかって行くのが聞こえる。



 もう少し待って、大丈夫そうだったら出て行ってみよう。




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