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星と煌めきの空  作者: 香坂
選択と真実の物語
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 身体検査と称した実験は真夜中まで続いた。

 窓がない部屋にいたからどれだけ時間が経過しているのか分からず、ようやく解放されて部屋から出た時には辺りがすっかり暗くなっていることに心底驚いた。


 暗闇が世の中を覆いつくし、眼下に広がる灯りと天に散らばる星明かりが夜を告げている。



 スイはフラフラと長い廊下を進み、そういえばどこに帰ればいいんだろうかと思い至ったところで、ふと人影に気がつく。


 その人物は外の景色を眺めるように柵にもたれかかっていた。


 外と直接繋がっている廊下は解放的で、時々風が頬を撫で、フィーリスを象徴する翼が柔らかそうに靡いていた。



 少し緊張しながら近づいて行くと向こうもこちらに気づいたようで、翡翠の瞳と目が合った。



「おや、こんな時間に誰かと会うだなんて思わなかったよ。……見かけない顔だね? もしかして他所の人?」


 笑顔で手招きされ、彼の隣まで歩みを進める。


 綺麗な人だなと思った。

 フィーリスはみんな独特の雰囲気がある。人間離れした美しさは見る者の心を奪い、惹きつける。それは華やかさというよりは神々しさとも言うべきか。



「はい。スイといいます。ここからずっと遠くから来ました」


「へぇ、本当に他所から来たんだ。珍しいね。私はネリス。よろしく。そうか、遠くかぁ……それはどれくらい遠いのかな?」


「どれくらい……山と街をいくつも越えてきましたね」


「それはすごい。そんなに遠くまで行ったことないよ。よければ他の街の話を聞いてもいいかな?」


 ネリスは期待のこもった目をスイに向け、自身の背中にある翼を指差した。


「私はもうすぐ役目を終えるから、これから遠くの地へ行くことはもうないんだ。だから聞かせてもらえると嬉しいのだけれど」


 彼の翼は他のフィーリスに比べると随分と小さかった。いや、比べるまでもないほどに、それは小さく弱々しかった。


 ここへ来てからいろんなフィーリスの翼を見てきたが、個人差はあれどここまで小さなものは初めてだった。およそ空を飛べるとは思えない。これじゃまるで雛の翼だ。


 自分よりも一回り背が高いネリスの体格とまったく釣り合いが取れていないので思わず凝視してしまう。



「どうかしたのかい?」

「あっ、いえ、何でもないです。街の話でしたよね? もちろんいいですよ。俺もあまり詳しくはないんですが、お話できる限りのことでよければ」


 慌てて視線を戻したが、ネリスは特に気にしていないようでスイは心の中で安堵のため息をつく。

 翼を不躾に見てしまったけど気分を害していないようで良かった。



 気を取り直して道中に立ち寄った街の様子を話し始めると、とても楽しそうに相槌を打ったり質問してきたりした。中でも食べ物の話はかなり興味津々で、フォーヴの街はネリスも行ったことがあるらしく美味しいお店を教えてもらえた。今度行ってみよう。


 ネリスと話しているとスイもまた他の街へ行ってみたいという気持ちが湧き上がってきた。

 世界が広いことを実感したのはここ最近で、他にも行ったことのない場所はたくさんあるだろう。今抱えている自身の問題———ラオザーム関係のことに目処が付いたら、どこか旅に出るのもいいかもしれない。生まれ育った村に戻りたいのは山々だが、今さら急いで戻る必要もないだろう。


 もし叶うならば、またルトアとカルラの三人であちこち見て回りたい。


 村の場所を探しながら、寄り道をたくさんして、いつか村に帰れたら———。



 そんなことを思いながらスイとネリスは空の闇が淡く変わり始める時間まで各地の話に花を咲かせた。











「やっと見つけた。何してんだよこんなところで」


 ネリスと別れてから再びフラフラとあてもなく彷徨い続けていたところに会いたかった人から声がかかる。


「カルラ! それにルトアも! よかったぁ……二人の部屋がどこなのかわからなくてずっと探してたんだ」


 ホッとした途端にドッと疲れが襲いかかる。そういえば一睡もしていない。


 壁にもたれかかるスイを見てルトアが心配そうに駆け寄る。


「シグリからは夜中には検査が終わったと聞いたのですが、まさか一晩中迷子だったんですか?」


「お恥ずかしながら……」


「ていうか迷子ならアレ使えばよかったんじゃね? 前に怪しい女から買ってたやつ、森の中でも使ってただろ。あの後オレのポーチに戻さないで自分のポケットに入れてただろうに」


 カルラの言葉に一瞬思考が停止し、震える手でポケットを探ると手触りのいい薄い布地が確かにそこにあった。


 あまりの衝撃にスイは膝から崩れ落ちる。


 そういえばそうだ……! 使い終わった後カルラのポーチに戻したつもりでいた。というより、存在すらすっかり忘れてた!



 絶望に打ちひしがれるその姿にカルラは呆れ顔で肩をすくめる。


「その様子だと忘れてたみたいだな」


「まぁまぁ、そういうこともありますよ」


 ルトアに慰められながら何とか立ち上がると、検査結果が出たことを知らされる。


「結果についてとラオザームについて話があるそうなので、昨日行った長官室に呼ばれているんです。体のほうが大丈夫であればこのまま向かいますが……」


「俺は大丈夫。ちょっと眠いけど結果が出たなら早く知りたい」


「わかりました。それでは行きましょう」



 ルトアに促されて後を追った。

 階段を登る途中で何人かのフィーリスとすれ違い、背中に翼のないスイを物珍しそうに見る。スイは少しだけ居心地の悪さを感じながら、前を行く双子の陰に隠れるように目的地を目指した。



 長官室で待っていたのはマルセルとシグリだった。二人とも大きめのソファーに座っていて、スイ達も向かいのソファーに腰掛ける。

 柔らかい生地にゆっくりと体が沈んでいく感覚は何とも言い難い体験だった。


 全員が着席したことを確認すると、マルセルが切り出す。


「それじゃあ早速だけどスイちゃんについて説明するわね。まず昨日の身体検査の結果わかったのは、わたくし達フィーリスと同じ神力を持っているということ。だからできることはフィーリスと同じということになるわ」


 ただし、と言葉を区切ると真剣な面持ちでスイを見た。


「スイちゃんは外から神力の元となるものを取り込んでいるの。その行使の仕方はプネウマと似ていると言えるわね。だけどプネウマほどの力はないからプネウマと同じことはできない。つまり、フィーリスと同じ神力を持ちながら、プネウマのような力の使い方をしている未知の生物……ということよ」


 未知の生物。確か昨日も言われた気がする。でも昨日と違うのは、未知は未知でもある程度の分類ができた上での未知ということ。フィーリスでもプネウマでもないことは身体検査でハッキリしたのだ。

 いろんな機械に繋がれたあの時間は無駄じゃなかったらしい。


 でもそれと同時に、じゃあ結局俺は何なんだ? という疑問は解決されずに残ってしまっている。



「やっぱり俺はラオザームなんですか?」


 意を決して尋ねると意外な言葉が返ってきた。


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。正直スイちゃんがラオザームかどうか依然に、ラオザームそのものがどういう生き物なのかすらわからなかったのよ。昨日からいろいろと調べてはいるんだけど、わたくしが知っている情報以上のものは何も見つからなかったの」


「そう、ですか……。でももしフィーリスに破滅をもたらすと言われているラオザームなのだとしたら、俺はどうしたらいいんでしょうか? フィーリスがいない土地でなら今まで通り暮らしていけるんでしょうか?」


「それもわからないわ。だからスイちゃん、申し訳ないけどもう少しだけ身体を調べさせてもらえないかしら? どれくらいの期間になるかまだわからないけど、しばらくの間様子を見させてもらいたいの。もちろん、衣食住は保証するわ」


 あれだけ検査を受けてまだ検査をするのかと若干驚いたが、この申し出を断る理由もない。彼らにとってみれば危険な存在かもしれない俺を野放しにはできない状況で、それを断ることはすなわち敵対を意味すると言っても過言ではないのだ。


 ルトアとカルラには世話になった恩もある。敵対だなんて俺もごめんだ。



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