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夜空の星々を散りばめたような美しい羽。キラキラと輝く光は見る角度によってその様相を変える。
この世にこれほど美しいものがあるのかと思わず息を呑み、商人達の喉から手が出るほどに価値があり、コレクターと呼ばれる者達にとっては自己顕示欲の象徴となるだろう。
フィーリスは皆そういった羽を持ち、その希少性から普段は見えないようにしているが、ここアストロンにある庁舎内では背中に翼がないフィーリスはいない。どこを見ても、すれ違う人もすべてがフィーリスなのだと視認できるのだ。
その翼に生える羽の色や輝きに個体差はないようで、誰の翼も同じく美しい煌めきを放っている。違いがあるとすれば大きさくらいで、今目の前にいるマルセルの翼と双子の翼を比べて見てもまったく同じに見えるな、とスイは思った。
短い間とは言えここまでの旅路を共にしてきたルトアとカルラの翼と、今日出会ったばかりのフィーリスの翼の見分けがつかないのは少し寂しい気もしたが、考えてもみると彼らの翼を見る機会自体が滅多にないことだったのでそれも仕方がないか、と自己完結をする。
「あらやだ。そんなにジッと見つめられたら照れちゃうわ」
やだと言いながら嬉しそうなマルセルは、スイの肩を人差し指で軽く小突いた。
それを見ていたカルラがすかさず指摘を入れる。
「いや、お前じゃなくて明らかにあらぬ方向を見てただろ今。スイもどこ見てんのかわかんねぇ目線止めろ。普通に不気味だし怖ぇよ」
カルラは言葉通りに嫌そうな顔をする。彼は自分の気持ちに素直なのだ。それと基本的に遠慮がない。
「あぁ、ごめん。みんなの翼を見てたんだけど、それいつもはどうやって隠してるんだろうなぁって……」
素朴な疑問である。
何となく聞きそびれていたというか、あまり深く考えていなかったので改めて考えてみるとどういう仕組みなのかが気になったのだ。
以前カルラ達の背中に手をかざしてみたことがあるが、手応えは一切なかったので視覚的に見えなくしているだけじゃないことは知っている。だからと言って何もないところから出し入れしているとも思えないし、何か秘密があるのだろう。
「うーん、そうねぇ……わたくし達フィーリスにとっては当たり前のことすぎて、なんて説明したらいいのかしら……。ねぇ二人とも、何かいい案はない? どうやって手足を動かしてるのかって聞かれるのとほぼ同じって言えばわかってもらえそう?」
「あぁー……。フィーリスは特別なんだなって思っておきます」
マルセル含めフィーリス三人が困ったように眉間にシワを寄せて首を傾げるので、スイはこれ以上の追究はしないことにした。
本当にちょっと思いついた程度の疑問だったし、知らなくても何ら問題はないのだ。むしろ解明されていないことが多い方が神秘的と言えるのかもしれない。その方がフィーリスっぽいなと思えてしまう。
考えてもみれば聖者と呼ばれる彼らとずっと一緒にいたこれまでの方がおかしかったのだ。
普通に暮らしていたらフィーリスと関わることなんてまず無い。それは俺が村に住んでいたからというだけでなく、ダルトンさんやアスマさんも滅多に会わないのだと言っていたことからも、希少な存在なのだろうというのは想像に難くない。
ルトアとカルラは堂々と街中を歩いていたが、人々からの視線をフィーリスは数が少ないから好奇の目を向けられるのだと言っていた。
フィーリスは謎に包まれた種族。
そんな彼らと今こうしていることがあり得ないことであり、もっとあり得ないことに俺はフィーリスに破滅をもたらすラオザームなのかもしれないということだ。
「あの、俺はこの後どうしたら……」
「じゃあ早速、スイちゃんの体をちょこーっと調べさせてもらおうかしら。だぁーいじょうぶよ、ただの健康診断みたいなものだから心配しないでね」
「スイちゃん……」
そんな呼ばれ方されたことない。いや、子供の頃にあったか?
「ほら、ルトちゃんとカルちゃんは邪魔だから今回の外出結果を報告書にまとめる作業でもしてなさい」
シッシと手首を返しながら双子を追い出そうとするマルセル。二人は抗議をしつつもそのまま大人しく部屋を出て行った。
ルトちゃんとカルちゃん……。
どう反応していいものか悩んでいると、マルセルさんが机の上に置いてある小さなベルを数回鳴らした。
リンリンと小さく音が鳴り、しばらくすると誰かが扉を叩いた。
「どうぞ」
マルセルさんが答えると扉を開けて入って来たのは随分と背の高い女性だった。
「何かご用ですか? それに……こちらの方は?」
並んで立つとマルセルさんより大きい。この見上げなくちゃいけない感じ、ダルトンさんを思い出すなぁ。
「こちらはスイちゃん。ルトちゃんとカルちゃんが連れて来たんだけど、どうやら未知の生物らしいのよ。だから調べてもらえない?」
ちょっ! 未知の生物って……いや、合ってる、のか?
「未知ですか……。何でそんなものを連れて来たんですかあの二人は」
盛大なため息をつき腕を組むと、服の上からでもわかる豊満な胸部がより際立った。何となく目のやり場に困る。
「なんでもラオザーム疑惑あり、なのよね。貴女も知らないでしょう? ラオザームだなんて伝説の中の生き物だもの。だからこの子の身体検査をしないことには何にもわからないってわけ。ということでよろしくねぇ」
体をくねらせるマルセルに冷ややかな目線を送り、その流れで氷のような瞳をスイに向けた。
好意のかけらも感じないその瞳に思わず背筋が伸びる。
そして彼女はスイを上から下までじっくり眺めた後に、組んでいた腕を下ろして意外にも握手を求めてきた。
「私はシグリ。ここの補佐官よ。よろしく」
「よろしくお願いします。スイです」
短い挨拶を交わし、補佐官ってどういうことをする人なんだろう? と思いながらスイは彼女の案内に従って部屋を出た。




