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「ラオザーム? 何だそりゃ」
カルラがそう言うとルトアも首を傾げる。どうやら二人とも知らないようだ。
だけど破滅という不穏な文言にスイは息が詰まるのを感じていた。額面通りに受け取れば俺は二人の敵、ということになるのだ。
双子の反応にプネウマはさらに機嫌を良くしたようで、口角を醜く吊り上げた。
『得心が行った。何故貴様らとラオザームが共にいるのか。紐解けば只の無知であったとは滑稽だな』
当事者でなくとも不快感を催すその言い草は、わざとであるからこそ余計に気分が悪い。
「はあ⁉︎ もったいぶってねぇでラオザームが何なのか早く教えろ!」
カルラが噛み付くように言うと、プネウマはまた高笑いをし始める。捕縛されている身とは思えない態度だ。
その様子に意を介さずルトアが前に出る。
「無知を無知と笑うだけの者は底が知れますね」
指の先まで洗練された美しい所作でプネウマの目の前にしゃがみ込む。
「私はあなたがそのような浅はかな優越感で満足する方だとは思っていませんでしたよ」
真っ直ぐに、プネウマの白い両眼を射抜くように見つめた。
『貴様……』
「おや、どうされましたか? 己の愚かさに気づいたのであればすぐにでも改めることをお勧めします。今ならまだ私の勘違いだったということで済みますから」
その微笑みは冷酷さを秘めた威圧感があり、周囲の温度が下がった気さえする。
スイは背中にじわりと汗をかくのを感じた。
ルトアを敵に回してはいけない。
そう本能が言っている。
するとプネウマは気分を害したのか、口角を落として目元を細めた。どこを見ているのかわからない濁った眼が鋭くなる。
『下手な挑発だ。乗ってやるほど余は暇ではない』
「奇遇ですね。私たちも暇ではないので、お互い時間は大切に使いましょうか」
バチバチと青白い火花が二人の間に走った。
一触即発な雰囲気にたじろぐスイとは対照的にカルラが大きなため息をついた。持っていた槍を無造作に地面に突き立てると、この場の空気を変えるようなキンと澄んだ音が響く。
「で、どうなんだよ? 破滅ってどういうことだ。ラオザームについて話すのか話さねぇのか、ハッキリしろ」
腕を組み仁王立ちのカルラ。いつもの不躾な言動がなんだか今は頼もしい。
『……言葉通りの意味だ。ラオザームは貴様らにとって破滅の象徴。精々寝首をかかれぬよう用心することだ、憐れな鳥共よ』
「だからそれがどういう……」
カルラの声は突風によって掻き消された。
プネウマの足元から突如として発生した風はプネウマの体を一気に宙へ舞い上がらせ、今度はスイ達が見下ろされる側となる。
カルラとルトアは拘束までもが外れた状態のプネウマを確認すると、手元の槍を見て小さくため息をついた。
「チッ! あのババァ手ぇ抜きやがったな⁉︎」
カルラに至ってはため息を通り越して舌打ちだった。
晴れて自由の身となったプネウマは空中の何もないところに腰掛けるように座る。足を組むと長い緑の髪がその足に絡みついていった。まるで髪の毛が生きているようだ。
『いつまでも大人しく捕まっている訳が無かろう。用向きが済んだのであれば帰れ』
「うわっ!」
身構える間もなく三人の体は入って来た横穴に吹き飛ばされていた。そして来た時と同じように、右へ左へと体を方向転換させられ、やはり乱暴に地面に落とされたのだ。
もっとマシな運び方はないものかと思いつつ打ち身の体を起こすと、すぐ近くに双子の姿があった。二人とも仲良く地面に転がっている。
飛ばされている間に翼を閉じたのか背中には何もなかった。あの美しい翼が縦横無尽に空を駆け巡る光景を思い出し、二人が飛ぶところをまた見れたらいいなと密かに思う。
スイは上着の裾を叩きながら立ち上がり、二人のそばへと向かった。
ここがどこなのかわからないが、体感的には来る時とさほど変わらない移動時間だったから、元の場所に戻っただけだと思いたい。周りにある鉱石はどれも似たような見た目で、場所の特定には役に立ちそうもなかった。
もぞもぞとカルラの体が動き出す。
「くっそ、まだ話の途中だったってのによー」
文句を言いながらその場に胡座をかき、憎々しげに拳を地面に叩きつけるカルラに手を差し伸べる。
「一応、俺がラオザームとかいうのだってわかったから一歩前進、かな?」
「お前、破滅をもたらすとか言われてたのに呑気だなー」
少し赤くなった手でスイの手を取り立ち上がる。
「これでも混乱はしてるんだけどね。もしかしたら俺は二人の敵ということになるわけだし……。でも今の俺はわからないことだらけだから少しでも進展してよかったと思うことにしようかなと」
「変なところで前向きなのな」
スイが苦笑いすると、カルラはニヤリと笑った。
「あ、ルトアも気がついたみたいだな」
そうこうしているうちにルトアがゆっくりと上体を起こした。キョロキョロと辺りを見回してスイとカルラに気づくと、ホッとしたように顔を緩ませる。
「俺達もさっき気がついたところなんだ。立てるか?」
ルトアは差し出されたスイの手を掴み、頷いた。
「ありがとうございます。お二人とも無事でよかったです」
いつも通りのルトアの笑顔で少し安堵する。さっきの身も凍るような威圧感はできればもう二度と体験したくない。普段優しいからこその温度差をものすごく感じてしまう。
「あれ? スイ、もしかして光ってるの治ったんじゃないですか?」
「えっ?」
言われて見てみると確かに体の発光がなくなり元に戻っている。
カルラがスイの肩を掴みグルリと一周させた。
「……戻ってんな。お前ほんと何なんだよ」
それは俺も知りたいです。




