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星と煌めきの空  作者: 香坂
選択と真実の物語
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 戦いに見惚れることがあるだなんて初めて知った。



 槍を携えた双子のフィーリスは光り輝く翼で宙を舞い、プネウマが放つ鋭い風をギリギリ避けている。


 ルトアとカルラは攻撃する素振りは見せず、ひたすらにプネウマの猛攻を避けているだけなのだが、避けた軌道上に光の残像があり、空中が光で彩られていく。

 一方のプネウマも風を操る際に自身の周りにある光の粒を四方八方に散らすので、彼らの周囲一帯が眩い光で埋め尽くされていた。



 その光景は戦いとは思えないほどに美しく、スイは瞬きも忘れて見入ってしまう。

 当事者であるにも関わらず、なんだか夢を見ているような気持ちで三人を見ていた。


 プネウマはもちろんのこと、ルトアとカルラも人ではない。そんな者たちと知り合い、助けられ、そして戦っている。あまりにも現実味がない話だ。こうして目の前で起きていることだというのに、それでも不思議な感覚というか、この場に自分がいることの違和感がすごい。



 だけど、今ではそんな自分でさえも、人ではない彼ら側の存在だと認めざるを得ない状況だ。


 人間じゃない、と言葉で言われても今まであまり実感が湧かなかったが、こうして自身の体の変化を目の当たりにし、人間には成し得ない力を行使した事実がスイの心に重くのしかかる。



 俺はもう、人間じゃないんだ。


 あそこにいる彼ら側なのだ、と。



 頭で理解するのと体感するのでは訳が違う。文字通り、身をもって理解したのだ。


 そして、今の自分を本当の意味で受け入れなくてはならない。



 実を言うとどこか他人事というか楽観視していたところがあったのかもしれない。もしかしたら元に戻れるんじゃないかと、元の生活に戻れる時がくるんじゃないかと、心のどこかで思っていたのだ。


 でも、それももう終わりだ。


 観客で居続けられる時間は終わったのだ。













『避けるだけか』


「その言葉、当ててから言ってみろっつーの!」


 プネウマの挑発に挑発で返す。


 確かに避けることしかしていない。いや、避けることしかできないのだ。フィーリスは戦闘に向いていない。


 カルラは切り裂くような風を頬にかする寸前でかわし、体勢を立て直すついでにルトアの姿を探す。ルトアもカルラ同様、紙一重で攻撃をかわしたところだった。



 二対一とはいえ、プネウマは同時にいくつもの風を繰り出せる。それに引き換えカルラ達は避けるだけで精一杯で槍の射程範囲にすら近づけさせてもらえていなかった。


 次から次へと放たれる攻撃の連続に持久戦になることは明白で、どちらが先に力尽きるかと問われたならば間違いなく自分達だろうと答える。

 飛び回り続ける自分達と、その場から動かずに風を操るプネウマとでは誰がどう見てもこちらの分が悪い。


 どうにかして奴の懐に潜り込めないかと画策するもなかなか思い通りにいかない。隙がなさすぎる。



 この交戦が始まる前にルトアはすでに攻撃を受けている。不意打ちだったが、もっと警戒していれば避けられたかもしれない。

 今更悔やんでも仕方がないが、持久戦が続くのであれば体力の僅かな差が致命的となりかねない状況では思わず舌打ちがこぼれる。



 もう一度ルトアの方を見ると、少しだけ目が合った。


 どちらかと言えば劣勢だというのに、ルトアはいつも通りの柔らかい微笑みを向けてくる。


 あいつはいつもそうだ。

 つらいとか苦しいとか、そういうことは笑顔の下に静かに隠す。あの時もそうだった。あの時も———。




 懐かしい記憶の中の笑顔と、プネウマの攻撃を避けて旋回するルトアの笑顔が重なった時、突然二人の間を突風が吹き荒れた。


 背後からの突風に若干体勢を崩しつつ、驚いて振り返るとそこにはスイが立っていた。


 少し伸びた銀髪が風で揺れ、指を高く掲げている。青く澄んだ空のような瞳は一切の迷いがなく、真っ直ぐにプネウマを捕らえていた。



『小癪な』


 プネウマがそう言うのと同時に、スイは掲げた指を素早く二度鳴らす。再び突風がカルラとルトアの間を抜け、プネウマに襲いかかった。さっきよりも威力が強い。


 だがプネウマの周りの光は粒同士が結合してプネウマを守るように囲い、スイの攻撃を無効化してしまう。



『猿真似だな』


 表情は変わらないが、あからさまに見下すような物言いのプネウマに対し、スイはニッと笑った。


「じゃあこれはどうかな?」


 パチンと指を鳴らすと今度は鋭さが増した風の刃が斬りかかる。プネウマはこれも難なく防いだが、光の防御の一部がハラハラと霧散した。



「結構難しいね、これ。でもさっきから何度も見てるから真似しやすかったよ」


 防がれたことは特に気にしていないのか、スイは軽く肩をすくめるだけだ。

 そして狙いを定めるように指を構える。



「どこまでやれるか———勝負だ」



 スイとプネウマが指を鳴らしたのはほぼ同時で、お互いの風がぶつかり合い相殺された。


 力は互角。ルトアとカルラは予想外の事態に驚きを隠せなかった。



 いくらスイが神力を使えたとしても相手はプネウマなのだ。精霊というのはフィーリスよりも神に近い存在で、行使できる神力も遥かに大きい。

 どちらも神に創られた存在だが、根本的な役割が違うのだ。それ故に純粋な力の差はどうにもならない。



 それなのに、自称人間であるスイがプネウマと互角の力を持っていることが信じられなかった。


 どういうことなのか。スイは一体何者なのか。




「カルラ、私達はとんでもないものを拾ってしまったようですね……」


 ルトアの小さな呟きはカルラの耳には届かなかったが、その思いはカルラも一緒だった。

 面倒なことに巻き込まれたなという気持ちと、少なからず好奇心が刺激されている。



 精霊に匹敵する力を持つ得体の知れない生き物。

 そんなの、前代未聞だ。




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