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星と煌めきの空  作者: 香坂
始まりの物語
4/61

3


 春の穏やかな日差しの中、ピィーという甲高い鳴き声に目を覚ました。


 聞き慣れたその鳴き声の持ち主がリズミカルに布団の上を跳ね回る。まだ覚醒しきらない頭でもわかるくらい、それはいつもと同じ光景だった。


「おはよう。クアン」


 クアンと呼ばれた美しい鳥は、返事をするように短く鳴くと、スイの上からベッドの縁へと跳ねて移動する。


 スイはクアンが飛ぶところを見たことがない。あの日森の中で拾ってから随分と長い時が経ったが、一度もその翼が空を舞うことはなかった。狭い家の中が原因かと思い、こっそりと夜中に外へ連れ出したこともあったが飛ぼうとする気配はなかった。



 スイは十七歳になっていた。


 去年一足先に成人したナッドとの友情は変わらず続いており、今日も一緒に森へ行くんだろうな、と思いながらベッドから降りた。


 飛ばないクアンのために、その脚元へ左腕を差し出すと軽い動作でピョンと乗ってきた。そのまま部屋を出てリビングに行くとクアン用の止まり木に腕を寄せ、器用に乗り移る姿を眺める。

 星を散りばめた羽を携え、悠然とこちらを見た。


 これも、いつもと同じ光景。



「今、朝ご飯用意するからな」


 朝ご飯と言ってもクアンは何も食べない。何故かはわからないが、あの日死んだように動かなかったクアンを起こしてから、ナッドとともにあれこれと世話を焼いたが食べ物は一切口にしてくれなかった。唯一口にしたのは井戸水だけで、最初は心配したもののその後も特に体調を崩すことはなかったので、そういう生き物なのだ、と結論づけた。


 実際クアンは普通の鳥ではない気がする。

 ひどく美しい見た目もそうだが、こちらの言葉を完全に理解しているようなのだ。言語が異なるだけで、簡単な意思疎通であれば何の問題もなく会話が成立する。


 ナッドからは、それはスイだけだと言われ、理由を考えてみればクアンに魔力を送ったからかもしれないと思い至りナッドも同じことをしてみようと提案してみたが、あの日のように暴れられたら敵わない、と苦笑混じりに断られてしまった。



 止まり木にくくりつけた容器に井戸水を入れると、クアンは早速飲み始めた。

 それを見届けることなくスイは自室に戻り、着替え始める。





「スイー、起きてるかー?」


 ちょうど着替え終わったタイミングでナッドの呼び声が聞こえた。まだ水を飲んでいるクアンの横を通り過ぎ、玄関の扉を開けると弓と矢筒を背負ったナッドがいた。


「よっ。行けるか?」

「おはよう、ナッド。今日の獲物は?」

「苔ウサギだ。昨日父さんから聞いたんだけど、もう活動し始めてるらしい」

「苔ウサギかぁ。久々に食べれると思うと嬉しいな。ちょっと待ってて、準備してくる」

「おう」


 苔ウサギは食べる部分は少ないけれど肉が柔らかく美味しい。苔を背負ったような毛皮はあまり人気がなく売れないため、もっぱら食用だ。


 スイはナッドを家の中に招き入れると、狩猟用の武器や釣り道具を置いてある場所から弓を手に取った。

「罠は? 持っていく?」

「いや、ソクさんが昨日いくつか仕掛けたらしい。かかってるやつを見つけたら回収してこいって頼まれてるんだ」

「わかった。じゃあ少し大きめの布袋が必要だな」


 話しながら、ナッドは椅子に座った。腰につけた短剣を鞘から抜き、刃こぼれがないか確認する。


 成人の祝いに、村では親から短剣を贈られるのが習わしだ。去年贈られたそれは毎日のように使っているため今では手にしっかりと馴染んでいる。

 スイの腰にもそれとよく似た装飾の短剣がぶら下がっているのは、亡くなったスイの親代わりにナッドの親が用意したからだ。はたから見れば二人は兄弟のように見えるだろう。



「よぉ、クアン。元気か?」

 止まり木の上でじっとしているクアンに話しかけるも、青空色の瞳は隅の方でせっせと狩りの準備をしているスイしか映さない。


「おまえは相変わらずスイに首ったけだな」


 ナッドは愉快そうに笑い、短剣を鞘に収めた。

 


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