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スイが不安気にダルトンとアスマの顔を見ると、アスマが勢いよく立ち上がった。
「ちょっとちょっと少年! まさかプネウマと会話したの⁉︎」
「会話、というか一方的に話しかけられただけですが」
「それだけでも十分すごいことだよ!」
興奮するアスマが倒した椅子をダルトンが拾い上げて座るように促す。アスマは軽く謝罪し椅子に腰掛けると、わざとらしく咳払いをして再びスイに問いかけた。
「ここの警備をしている僕たちですらプネウマが喋ってるところなんて見たことないんだよ。奇声みたいなのとか怒ってるみたいな鳴き声は聞いたことあるけどね」
「そうなんですか⁉︎」
「そう。だからこれは一大事なんだよ。今現在、少年はプネウマと意思疎通ができた唯一の人間ってことになるんだから」
意思疎通できたとは言い難いやり取りだったけど、言語は理解できたからその気になれば会話できるかもしれない。向こうにその気があればの話だけど。
「つまりだ、坊主がプネウマと意思疎通できたからっていうのが原因なのか?」
ダルトンがそう切り込むと、興奮冷めやらぬアスマでさえグッと口をつぐむ。この場にいる誰一人として、スイの体に何が起こったのか知る者はいないし、これまでの会話の中で有益な情報はただの一つも出ていないのだ。
スイは何かヒントはないかと、プネウマと会った時のことをもう一度思い出そうと思案する。
もしかしたら見落としがあるかもしれない。
そういえば頭に直接聞こえてきていた声の正体はプネウマだった。声は森の中でも聞こえていた。
初めて聞いた時はカルラとルトアもいたけど、やっぱり俺にしか聞こえなかったんだったな……。
あの場所はここからかなり離れているはずだけど、まさかこの洞穴の中から俺に話しかけていた? ありえない、というのはプネウマには通用しない常識かもしれない。
プネウマの持つ不思議な力はこの身を持って体験した。何でもありと思うべきなのか?
プネウマから語りかけられた内容を思い出そうと目をつぶる。
そうだ、最初は聞こえるかと問われたはずだ。それにこっちだと誘導するようなことも言われたような気がする。
それに———。
「竜の揺籠」
スイがポツリと呟くと、ダルトンとアスマがほぼ同時にこちらを見た。
「竜の揺籠……アイツが、プネウマが俺にそう言ったんです。部外者が知ってちゃいけない言葉なんですよね? これってどういう意味なんですか?」
「そうか、なるほどなぁ」
ダルトンは頭の上についた耳の後ろを軽く掻く。
「俺たちはプネウマの言葉はわからないが、向こうはちゃんと俺たちの会話を聞いて理解してるってことか」
ダルトンの言葉に頷きつつ、アスマは肩をすくめた。
「今度からは全部聞かれてると思って話さなくちゃですね。うわぁ、窮屈……」
納得したように苦笑いをする二人にスイが怪訝そうな顔をすると、すまんすまんと言いながらダルトンが説明し始める。
「竜の揺籠ってのはな、ここのことなんだよ。もっと限定して言うとプネウマがいた場所のことを指す。そしてこの呼び名はプネウマの初代警備だった奴らがつけたんだ」
「名前の由来を聞いても?」
「ああ、ここは元々竜の巣穴だったらしい。竜が子育てをするために使ってたそうだ。だから竜の揺籠。安直ではあるが竜とプネウマが結びつくような奇特な奴はそうそういないからな、それをここの呼び名にしてさらには合言葉にしているってわけだ」
「そうか、だから俺が竜の揺籠と言った時にあんなに警戒されたんですね」
俺は部外者なわけだから、知ってたらおかしいし警備されて当たり前だったのだ。
「でも……」
そうなるとちょっと気になる事実も浮かび上がる。
「アイツはダルトンさんたち警備の人達の会話を聞いていて、それで自分のいる場所が竜の揺籠と呼ばれていることも、それが重要な情報となっていることも知っていたってことになりますよね?」
「ああ、そうだと思うが……どうかしたのか坊主?」
眉間にシワを寄せるスイに、ダルトンが困惑したように首を傾げる。両側の双子も何だ何だとスイの顔を覗き込んだ。
スイは少しの間俯いていたが、パッと顔を上げた。
「プネウマは最初から俺を狙っていた、ということになるかもしれません」
スイが導き出した結論にカルラが一番に反応した。
「はぁ⁉︎ どういうことだよ?」
「たぶんアイツは俺に会うために、俺をここに呼んだんだと思う。そう考えると全部辻褄が合うんだ」
目標である俺が森に入ってすぐに接触をはかってきた。まずは自分の声が届くかどうか確かめたのだろう。
「そして頭の中に直接語りかけるという方法が成功した後は、誘導に切り替えた。あの妙に足の速いサウラは誘導役にさせられてたんだと思う」
サウラをよく知るダルトンさん曰く、サウラは足が遅い魔物なのだ。それがあの速度で走るだなんて、何か別の力が働いていたとしか思えない。特別な、プネウマの力が……。
「俺はここへ誘き出されたんだ。ここへ辿り着いた後も、ただの迷子として帰るところだったところに突然、竜の揺籠だなんて関係者しか知らないような言葉をわざと伝えてきて俺をここに留まらせたんだ」
それ以降は力任せに自分がいるところまで連れて行かれたわけだけど、ここへ来るまでにいろいろあった不思議な出来事は、俺を狙ってたと考えるとすべてが繋がる。
「でも問題は、なぜ俺なのかってことかな。それに結局アイツが何をしたかったのか、俺の体に何をしたのか、それはわからない」
「なぁんだよ、結局何もわからないままじゃねーか」
一気に脱力したカルラがスイの肩にもたれかかってくる。スイはそんなカルラの背中をあやすように軽く叩きながら笑顔で答えた。
「そんなことないよカルラ。最初から俺を狙ってたってことは、今のこの状況はどうにかできるはずなんだ。偶然起こったわけじゃないなら対処法はあるだろうし、きちんと目的があったのなら交渉の余地があるんじゃないかと思う」
カルラは体を起こすと呆れたようにため息をつく。
「お前なぁ……交渉なんてできんのかよプネウマ相手に」
「そうですよスイ。相手はあのプネウマなんですから、面倒なこと言われるに決まってます」
反対側からルトアが心配そうにスイの腕に手を添えてくる。
「やってみる、けど確かにできるかどうかは微妙かな」
あはは、と乾いた笑いでルトアの手をポンポンと叩く。大丈夫とは言い難いけど、気持ちとしては大丈夫だよ、ありがとうと添えられた手に心を込める。
……あれ?
そこでふとあることに気がついた。
「ルトア? もしかしてプネウマのこと知ってるのか?」
「ここにいるのがどのプネウマかはわかりませんが、プネウマ全般偏屈な生き物であることは知ってます」
まだ心配気な表情で、あるいは憂いを帯びた表情でこちらを見る。綺麗すぎる顔に哀愁が漂う感じは見る者を虜にするだろう。
だけど今はそれどころじゃない。
たとえアスマさんが頬を赤らめていようとも、今はもっと大事なことがある。
「ルトアもプネウマと会ったことがあるってこと?」
「昔二度ほどありますね」
「そうだったか?」
「カルラは忘れん坊さんですね」
首を捻るカルラに、クスクスと上品な笑いをこぼすルトア。
スイは驚きはしたものの、よく考えてみると二人はフィーリスなのだからプネウマと会ったことがあっても不思議はないのだと思い直す。
フィーリスもプネウマも、神が関係している。ならば繋がりがあるのは当然のことなのかもしれない。
だとしても……。
「会ったことあるならもう少し早く教えてくれたらよかったのに」
「ここにいるプネウマと面識があるかはわかりませんし、面識があったとしても彼らと有意義な会話ができる自信はないものですから」
ニッコリといつもの美しい微笑みを返される。
なんだか釈然としない気分で視線をズラすと、ダルトンさんとアスマさんが目を剥いていた。
そうか、この二人はルトアたちがフィーリスだということ知らないんだった。
それなら驚くのも無理はないか。プネウマ自体が一般人がそう易々と会える相手じゃないわけだし、何も知らない人からしたら今の会話は到底信じられるものじゃないだろう。
さて、どう説明したものか……。
いつも読んでくださってる方、新しく読みに来てくれた方、ありがとうございます!
年末年始が近づき何かとバタバタしているため、しばらくは毎週更新が叶わない時も出てきそうです。
ノロノロ更新となりすみませんが、どうぞよろしくお願いします。




