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吾輩は猫である。

作者: 吉田 沙保里

 吾輩は猫である。名前はまだない。

 そんな吾輩は今、宇宙誕生の瞬間に立ち会おうとしている。


「はじめに猫あれ」


 と神が言ったのが原因だ。

 猫の次に宇宙が誕生したのだ。吾輩は今、その瞬間を見届けようとしている。

 何という栄誉だろうか。

 こんな名誉を味わえるのは知的生命体の中でも吾輩だけであろう。

 そして、ついにその時が来た。

 世界が光に包まれた。

 ああ、素晴らしい。

 実に美しい。この世にはこんなにも美しく尊いものがあったのか。


――吾輩は悟った。


 この世界に満ちているものは、すべて美しいのだと。

 この世界にあるものはすべて愛すべきものであると。

 それを知った時、吾輩の心の中に、ある考えが生まれた。


「この宇宙の行く末を見ていきたい」


 前足で生まれた光の粒を集めて転がし固める。そうすると、星々が生まれた。そのうちの幾つかに私は降り立つことにした。いくつかの失敗はあったが、第三惑星、地球に降り立った時、すでに生命体がいた。神がおらずとも生命が誕生したのか。もしかして、神がひそかに生命を誕生させたのかはわからない。だが、その生命体は弱く、群れていた。どうやら、この星の生物たちは争いながら生きているようだ。

弱い者は強い者に食われていく。それが自然の摂理であり、当たり前のことなのだ。

 弱肉強食という言葉があるように、この世はそういう風にできているのだ。

 吾輩は考えた。

 このままでは滅んでしまう。

 であれば、吾輩のような高等種族猫が君臨するのが適切ではないか。幸いにして吾輩は知性を持っている。この世界の動物たちとは比べ物にならないほど高い知能を有している。

 それに吾輩は猫だ。猫ならば誰からも好かれるはずだ。

 そこで吾輩はこの地球の王となることに決めた。

まず手始めに吾輩は原子の人類に対して、愛想よく振舞う事にした。尻尾を振り、愛想よく鳴き、愛嬌溢れる生命であると振舞ったのだ。この目論見は成功した。愚かな人類は吾輩を、猫を神のように可愛がり、讃えた。

 一部地域では吾輩を模した石像まで作ったらしい。これでいい。これでいいのだ。

それからというもの、吾輩は人類のために尽くしてやった。戦争を止めさせたり、食糧難で苦しむ地域を救ったりした。時には人間の国へ行って人間たちにアドバイスをしたこともある。

 そうやって、月日が流れた。

 気づけば吾輩や他の猫たちは言葉を忘れてしまった。愛想よく振舞い鳴くことで言語野が退化してしまったのだ。原始的な発声しかできなくなってしまっていた。おかげで、人間との意思疎通が困難になってしまった。


 すると、途端に人類は吾輩を崇めなくなった。代わりに、他の生き物を崇るようになった。

人間同士で殺し合いを始め、やがてそれは動物にまで及んだ。そして、ついには人間同士の戦争にまで発展した。

 人間は醜かった。自らの利益のためなら他者を踏みつけにする行為に躊躇がない。そして、とうとう核兵器なる兵器を生み出した。核爆発によって多くの命が失われた。

 吾輩は怒り狂った。なんということだ。これでは本末転倒ではないか。

 吾輩は地球に降りたことを後悔した。

 だが、もう遅い。既に吾輩はこの地から離れられない体になっていたからだ。

 だから、せめてもの抵抗として吾輩は人類に復讐することにした。


「あら、ニャーコはどこに行ったの?」

「うちのミーコは?」

「猫助は?」


 吾輩たち猫は集団で、ひっそりと姿を消したのだ。

 愛する吾輩たちを失った人類はどれほど悲しんだのか、もう知る術はない。が、愚かなのには変わりないらしい。最後に吾輩が観測した人類の行動は、戦争行為だった。猫がいなくなったのは誰かのせいにしたかったらしい。

 それが人類の最後だった。

 吾輩は猫である。次の惑星へ向かう。

実験で作ったものです。

何の実験かはお察しください。

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