屋上の扉の前で
昼休み、僕は小田さんに屋上の扉の前に呼び出されていた。
「山田くん!あなたは、どんな人なんですか!?」
小田さんが真剣な面持ちで聞いてきた。
両手は指を開いてわなわなしている。
「どんな人って・・・ごく普通のあまり目立たない・・・」
「そんなわけありません!」
ちょっと食い気味だった。
何だか小田さんは興奮気味だ。
「どいうことか、順を追って話してもらえる?」
できるだけ、興奮させないように穏やかに伝えた。
「私は、今まで妹の面倒を見てきました!」
「そうだね。偉いと思うよ」
「学校の行事にも出られなくて!」
「そうなるだろうね」
「朝ごはんの準備と、夕ご飯も作って!」
「うん」
「友達も一人もできなくて!」
「うん・・・」
「だから、お母さんがスマホ買ってくれて!」
「よかったね」
「でも、3日目で壊しちゃって!」
「ああ、あれか・・・」
「でも、山田くんは簡単に直しちゃって!」
「たまたま部品があったしね」
「友達も・・・スマホの登録ゼロだったのに、もう、4人にもなっちゃって・・・」
「さっき、坂本たちと星崎さんともアカウント交換してたしね」
「紋楓にも、おいしいものをいっぱい食べさせたかったのに・・・すぐに出来ちゃって・・・」
「・・・」
「紋楓にもすぐに懐かれて・・・」
「・・・」
「良いお母さんがいて・・・」
「・・・」
「友達もいっぱいで・・・」
「・・・」
「お料理もいっぱいできて・・・」
「・・・」
「私、半年も教室で一言も話せなかったのに、いきなりみんなで一緒にお弁当食べたり・・・」
小田さんの目には涙がいっぱいたまっていた。
「一人で大変だったね」
僕は、自然と小田さんの頭を撫でていた。
「友達がいて、一緒にお弁当食べて、おしゃべりして・・・そんな生き方知らない・・・」
これまで、よほど辛かったのだろう。
小田さんは僕の胸で泣き始めてしまった。
でも、僕は抱きしめてしまっていいものか手は空中を彷徨っていた。
しばらく泣いていた小田さんも落ち着いて、階段に座った。
「ごめんなさい・・・こんなつもりじゃ・・・」
僕もすぐ横に腰かけた。
小田さんは膝を抱えるようにして、下を向いている。
「あんなの経験したら、もう・・・戻れない・・・」
『あんなの』とは、みんなで弁当を食べたことだろうか。
「私・・・山田くんみたいに生きたい」
「それは光栄だけど、僕は・・・普通だから大したことないよ?」
「そんなことない!そんなはずない!」
小田さんはこっちを向いて真剣なまなざしで言った。
「どうすれば、私、山田くんになれる!?」
いや、僕になられても・・・
「一番近くで山田くんを見ていたいの」
小田さんがすごく近い。
言葉だけ聞いたら金髪美少女に何だか口説かれているみたいで、ドキドキしてきた(汗)
誤解しちゃうよ?僕。
「私なんでもするよ?」
目の前で面と向かってそんなことを言うのだから、僕は違うことしか想像できない。
「私、山田くんが一緒ならこの先大丈夫だと思うの」
目をキラキラさせながらそんなことを言う小田さん。
「お料理も勉強して、お弁当屋さんをすることもできると思うの」
「しょ、将来設計ができてよかったね・・・」
完全に押され気味な僕。
「私、あのお母さんと一緒にお弁当屋さんをしたいわ!」
あれ?僕って今、プロポーズされてる!?
「い、一応言っておくと、僕はあのお店を継ぐつもりないからね・・・」
「ど、どういうこと!?」
「僕は、自営業には向いてないと思ってて・・・正社員か、公務員になろうかと・・・」
「・・・いいわ」
小田さんがすっくと立ちあがった。
外からの明かりが入る屋上の方を向いた。
「私が山田くんを食べさせていきます!」
「ええ!?」
「たとえ、山田くんが毎日ギャンブル三昧で、おうちにお金を入れてくれなくても、私がお弁当屋さんで養っていきます!」
「それだと、僕完全にプロポーズされているみたいなんだけど・・・。しかも、僕、相当ダメな旦那になってるけど・・・」
自分が言っている意味を理解したのか、急に真っ赤になる小田さん。
『ボフッ』という擬音が聞こえてきそうだった。
「とっ、とにかく、私、あのお店を手伝います!」
「あ、はい・・・」
何だか勢いに押されて押し切られてしまった。
僕の恋心の着地点はまだ見えない・・・
朝6時と夕方18時更新です。
よろしくお願いします。