弁当屋の朝は忙しい
弁当屋の朝は忙しい。
チェーン店はほとんどの店がまだ開いていないので、こういうところで差別化を計ろうとしている。
もちろん、朝ごはんとして買って行く人のことも考えているし、昼ご飯用に買う人もいる。
だから、朝はおにぎり弁当みたいに朝食用と昼用の人気のメニューをいくつか作って、すぐ買ってすぐ学校や会社に行けるように準備をしているのだ。
朝から油淋鶏、生姜焼き、豚の味噌野菜炒め、のり弁、日替わりなど最低でも10種類の弁当を準備している。
住宅街が近いお店なので、朝と夜が忙しい。
今日も朝5時に起きてたくさんの料理を作った。
小さい時からの日課で、いつから店を手伝っていたのかを覚えていない程だ。
そして、今日は8時前にあの2人が来る。
いつもより気合を入れておかずの種類を増やしてしまった。
「おはようございまーす」
「まーす」
小田さんと、妹の紋楓ちゃんだ。
「おはようございます」
できるだけ、どきどきを悟られないように平静を装ってあいさつした。
「あら、おはよう!こっち来て!厨房のほう!」
母さんが、2人を招き入れる。
「厨房だから、入る時は手を洗ってねぇ」
「あ、はい」
「はーい」
「じゃ、ここら辺に置いてあるやつはどれでも詰めていいから。あ、遠慮だけはしたらダメよ?」
「ははは。ありがとうございます」
すっかり母さんと小田さんの会話になってしまっていて、僕の出番がない。
母さんは、昔、娘も欲しかったと言っていたし、変なスイッチが入っているのかもしれない。
「すごい!山田くん!煮魚もある!」
「あ、それ、僕の自信作。まさか煮魚を選ぶとは」
「家では煮魚作る時間がなくて・・・」
「お弁当だと煮魚はたれが混ざっちゃうから、夕ご飯で持って行ってもいいよ?」
「ありがとうございます。でも、たれが混ざっちゃうのも楽しいかも」
「あ、それはあるね」
小田さんは、楽しそうにおかずとご飯をお弁当箱に詰めていた。
「あの・・・本当にいいんですか?あの・・・お金・・・」
「いーの、いーの、子供はそんなこと気にしなくて!それよりも、健太郎をよろしくね!」
「え、あ、はい」
なに?よろしくされるってなに?
とにかく慌ただしく、それでも楽しく朝の準備が出来、学校に行くことになった。
一緒に家を出た手前、別々に行くのも変だ。
紋楓ちゃんの保育園に行って、紋楓ちゃんを預けてから学校に向かう。
お母さんは朝早く仕事に出てしまうそうだ。
小田さんは、昔からずっとこうやって妹の面倒を見て来たんだ。
甘える相手もいなくて、小さな身体で妹の面倒も見て、不安なこともたくさんあるだろう。
すごい頑張り屋だと思ったら、なんか僕の中の何かが、そのままにしておけなかった。
小田さんともっと仲良くなりたい。
そんなことを考えながら、小田さんと一緒に登校してしまった。
保育園の後は、僕のすぐ後ろを歩いて着いてくる感じ。
ただ、僕のブレザーの裾を少し掴んでる。
なんか変な感じだ。
どうせなら、横を歩いてほしいのだが・・・
そのままの感じで教室に着いたら、また坂本と大和が寄ってきた。
それと同時に小田さんは僕から離れて自分の席に行ってしまった。
「だ、大丈夫なのか?」
「ついに、小田一凛の舎弟に!?」
「違うから!ちょうど朝一緒になったからだから!」
そういう感じじゃなくて、もっと色気のある感じで言われたかった・・・
朝6時と夕方18時更新です。
よろしくお願いします。