お礼参り
翌日、僕はピンチだった。
中休みに小田さんに呼び出された。
正確には、『ちょっと来て』と言われて、僕は小田さんの後をついて歩いている状態だ。
どこに行くのか、何の用事なのか・・・昨日のスマホが良くなかったのか・・・
色々と悪いことが思いつく。
小田さんは階段をのぼり、屋上への扉の前まで来たところで振り返った。
漫画みたいに屋上の扉は開いていない。
鍵がかかっているのだから、ここが行き止まりだろう。
つまり、ここを目指して歩いてきたということ。
人目につかないここで・・・僕は何をされるのだろう(汗)
小田さんは持っていた巾着袋から、透明な袋にラッピングしてあるクッキーを取り出し、僕に差し出した。
「え?」
小田さんの顔を見ると、真っ赤な顔をしていった。
「スマホありがとう。ちゃんと直ってた」
よかった。
ちゃんと使えたみたいだ。
そして、これはお礼みたいだ。
「ありがとう」
お礼を言って受け取る。
「開けてもいいかな?」
僕が聞くと、ちょっと驚いた表情をした後、コクリと肯いた。
クッキーはざっと見て10個くらい入っていたので、1個だけ取り出し食べた。
(ボリボリ)
「うん、おいしい」
チョコ味だし、誰でも好きな味だった。
「お母さんが買ってくれたスマホだったから・・・壊してしまって、申し訳ないと思ってたけど、山田くんが直してくれたからよかった・・・」
僕の名前は憶えてくれていたんだ。
「そう言えば、新品だった?」
(こくり)無言で頷いた。
「・・・要らないって言ったけど、友達ができる様にって、お母さんが・・・」
小田さんは独特な雰囲気があるから、教室で話しかける人はいない。
僕もこんなに小田さんの声を聴いたのは初めてだった。
「登録したんですか?」
「・・・(ふるふる)」
無言で首を振って否定した。
「あの・・・良かったら僕とアカウント交換してくれませんか?」
小田さんは目を丸くして驚いていた。
今までできるだけ避けて来たけど、近くで見ると、小田さんの目はすごくきれいだった。
「い、いいの?」
「もちろん、今まで話かけることが出来なかったけど・・・良かったら友達になって・・・ほしい・・・です」
女の子にこんなことを言ったことがなかったので、言っている傍から赤くなっているだろう。
「私・・・教室の雰囲気が苦手で・・・」
「ああ・・・」
小田さんも苦手なんだ・・・
「教室ではあんまりしゃべれないかもだけど、メッセージなら大丈夫・・・かも」
小田さんは慣れていないのか、アカウント交換をわたわたしながらやった。
こういうのって、相手が慌てれば慌てるほどこちらは冷静になっていくもの。
あんなに怖いと思っていた小田さんがかわいく見えた。
実際横に並んでみると、身長は僕よりも頭一つ分くらい小さい。
声もかわいいし、金髪は目にとまる。
目も大きいし、笑顔はかわいい。
ただ、普段はすごいしかめっ面なので、全然気づかなかった。
「でき・・・た」
アカウント交換もできた。
「これから、よろしく。小田さん」
「うん」
小田さんは小走りで教室に帰ってしまった。
同じ速さで帰ると何だか恥ずかしいと思ったので、僕は歩いて帰った。
教室に戻ると、坂本と大和が駆け寄ってきた。
「「だ、大丈夫か!?」」
「え?どういうこと?」
「『小田一凛』に連れて行かれたんだろ!?小田さんだけ先に帰ってきたから死んでるんじゃないかと・・」
「ははは、大丈夫だよ」
実際はクッキーもらっただけだし。
坂本と大和はクラスの友達だ。
僕のことを心配してくれたらしい。
「そう言うのじゃないから大丈夫だよ」
「そ、そうなのか?」
「骨折れてないか?」
「折れないから」
僕の顔を見て大丈夫と分かったみたいで、段々冗談を混ぜてきた。
こういうなんでもない会話が楽しいんだよね。
それにしても、小田さん話してみるとかわいい感じだった。
声もかわいかった。
良い子じゃないのかな?
あの笑顔と、小田さんがかわいいことを知っているのは自分だけという優越感みたいなものが自分の中にあることに気づいた。
しかし、翌日、早速裏切られることになった。
どんどん投稿していきます!
とりあえず、朝6時と夕方18時にしてみます。
よろしくお願いします。