金髪のクラスメイトが隣の席になった
席替えで隣の席が金髪の女子になった。
物語などでは、金髪少女と言えば明るくクラスの人気者が定石だ。
ただ、うちのクラスの金髪、小田さんは非常に評判が悪い。
遅刻・早退が明らかに多い。
そして、生活指導があっても金髪をやめない。
入学当初は、体育教師・花岡に生活指導室へ連れていかれていた。
この花岡は、髪を染めてきた男子生徒の髪をバリカンで坊主したことがあるほど横暴だ。
ザ・昭和という感じの教師。
小田さんは、この花岡+生徒指導室という最悪パターンからも、何事もなく生還した。
金髪もそのままで。
それどころか、翌日から花岡が1週間学校に来なかった。
小田さんがシメたという噂が学校中を駆け巡った。
それ以降、生徒も教師すらも彼女の髪について何も言わなくなった。
それどころか、遅刻や早退についても何も言わない。
つまり、彼女はこの学校で最強の位置にいる。
ヒエラルキートップなのだと上級生も含め、全生徒が感じていた。
既に、クラスでも誰も彼女に声をかけられない。
クラスはいつもどこか緊張していて、ピンと張りつめた空気が流れている。
そして、その小田さんが僕の席の隣になった。
窓際の一番後ろ、僕はその右隣という一番被害を受けそうな場所になってしまったのだ。
これは、あることをきっかけに、彼女の笑顔を見てしまい、一発で恋に落ちてしまった僕の物語だ。
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席替えはくじ引きだった。
席に着いた小田さんは、僕が隣に座ったときに少しこちらを見ていた(気がする)。
僕は出来るだけ目を合わせないようにしていた。
校則が厳しいとまでは言わないが、やや茶髪くらいの人がいるだけで割と目立つ中、一人金髪なのだ。
気合は入りまくっている。
僕とは違う人種なのだろう。
そこで、僕は自分の世界に閉じこもることにした。
授業中、昨日届いたスマホの部品を取り出した。
液晶が割れて約1カ月。
注文していた部品がやっと届いたのだ。
修理に出すと2万円と言われてしまったが、部品だけなら5000円。
しかも、1個買ったらもう1個無料キャンペーン中。
スマホの部品なんか、もう1個あっても良いことないんだから、その分安くするキャンペーンに切り替えてほしいものだ。
そんなことを考えつつ、自分のスマホの割れた液晶を取り外していた。
本当はドライヤーで表面を温めてから外したい。
その方が、シール部材が柔らかくなって取れやすいのだ。
ただ、今は授業中。
そんなものは無い。
液晶を取り外し、フレキケーブルを切らないように基板から取り外す。
ここまでは、昨日の夜、動画を見て予習した通りだ。
新しいものと交換して、新しい液晶を張り付ける。
あとは、電源オン・・・と。
電源ボタン長押しで、ワンテンポ遅れてロゴが表示された。
「(良し!)」
授業中なので、声を殺してガッツポーズした。
もう液晶を割らないように、ガラス保護フィルムも買っておいた。
こちらも1枚買ったらもう1枚無料キャンペーンだった。
台湾とかこの売り方の方が売れるらしい。
液晶の発送元も台湾だからかな。
もう2年使っているスマホだけど、割と愛着が湧いているのと、初期設定が面倒だという理由で、修理して続投だ。
自分で修理したことで、更に愛着が湧いてしまった。
3限目は移動教室だった。
移動教室までに部品交換を終えたかったので、予定通りに終わってよかった。
元々のクラスに戻ってきたとき、小田さんは机の横に鞄をかけようとして手を滑らせた。
―ゴツッ
何か重たいものが当たった音だった。
アルミの弁当箱とかだったら凹んでるかも。
授業中、小田さんはスマホを取り出して、止まっていた。
スマホを持ってくること自体は禁止ではないけれど、授業中に取り出すのは禁止だ。
小田さんはゴーイングマイウェイ。
スマホをじっと見ている。
どんな顔をしているのかと思って、顔に視線を移すと・・・
かなり深刻な顔をしていた。
悲しそうな顔。
『絶望』と顔に書かれているような、すごく落ち込んだ顔をしていた。
うっすら涙も浮かんでいる。
見れば、スマホの画面には蜘蛛の巣状のヒビ。
さっき落とした時にヒビが入ったのかもしれないな。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、小田さんの持っているスマホの機種が、僕の物と同じであることに気が付いた。
そして、目の前に交換部品があり、工具もある・・・
はー、神が『交換してもいいじゃよ』と言っている・・・
授業中に『電源は入れないからお昼までスマホを貸して』と書いたメモと交換部品の液晶を見せた。
スマホとメモ、交換部品、僕の顔と何度か見まわして、おずおずとスマホを渡してくれた。
今日、しかもついさっき1個交換したからね。
交換の方法は熟知している。
1回目よりも早くきれいに作業は進めることが出来た。
あれ、これって新品?
発売は2年前なのに・・・
少し気にはなったが、液晶交換はすんなり終わった。
電源を入れて確認はしたいところだが、『電源は入れない』と約束したので、ガラスフィルムも貼ってから小田さんに返した。
小田さんは無言で頷いてお礼を伝えてきた。
僕も無言で右手を少しだけ上げて答えた。
昼休みになり、小田さんがスマホの電源を入れた。
僕も何となく横から見つめる。
電源ボタン長押しで、ワンテンポ遅れてロゴが表示された。
「よし」
今度は小さい声で言った。
ガッツポーズも小さくした。
小田さんは、スマホを目線の高さまで持ってきて角度を変えたり、裏返したりして確認していた。
そして、キラキラした目でこちらを見た。
「あ、あり・・・」
語尾に行くほど声は小さくなったが、唇の動きは「ありがとう」と言っていた。
「どういたしまして」
部品を交換しただけなのに、何となくすごいことをしたような錯覚を起こす。
その時の、小田さんの顔は笑っていて、桜色に染まった頬と照れたような笑いの彼女の笑顔は間違いなくかわいかった。
「ズキューン」か「ドキッ」か「キュン」かは分からないけれど、確実に僕が恋に落ちた音が聞こえた。
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