第26話:加速する惨劇03
で、
「これで終わりか」
俺は額の汗をぬぐいながら最後の黄金の斧を殺戮の執務室に据え置いた。蕪木制圧と混沌さんが黄金の斧の数を数えている。
「………………ちょうど三十丁あります。これで全てです」
「混沌さん……これは確認だが他に斧はないんだな?」
「………………はい。ありません」
「他に人を殺せそうな道具は?」
「庭園の鋏かキッチンの包丁はありますけど……」
「まぁそれなら許容範囲か……。じゃあ殺戮以外の人間は部屋を出るぞ」
「へ?」
と殺戮がキョトンとする。
「私は?」
「蕪木殺戮は部屋の鍵を持って施錠したまま執務室に引き籠れ。そうじゃないとせっかく斧を保管したことに意味が無くなるだろ? お前の目を盗んで鍵を奪う輩がいたらどうなるよ? ってなわけで大人しく執務室にいろ」
「食事やトイレやお風呂はどうするのさ?」
「その都度混乱さんか混沌さんを呼んで、それから俺と無害と蕪木制圧を引き連れて行動しろ。それなら安全だろ?」
「まぁ……そうだけど」
どこか不満げに殺戮。
「いやあ、よかったよかった。これで安心して眠れるってもんだ。じゃあ解散」
俺は殺戮を除く人間達といっしょに部屋を出た。執務室の施錠の音が聞こえた後、俺は無害を連れて自分の部屋へと戻った。
*
俺は広いベッドに寝っころがりながら俺は八つ墓村を読んでいた。そこに、
「ねえ……藤見……」
無害が俺に声をかけてきた。俺は読んでいた本に栞を挟んで閉じると、上体を起こして無害に答えた。
「どうした? 無害……」
「藤見は……この事件……どう思ってる……の……?」
「主語は明確に」
「殲滅様が……殺された……件について……だよ……」
「無害はどう思ってるんだ?」
「無害は……制圧様が犯人じゃないかと……思ってる……」
「ほう。なして?」
「部屋に置かれた……ってもう全部殺戮ちゃんの部屋にあるけど……ともあれ……黄金の斧を扱えるのは……藤見と……混沌さんと……制圧様だけ……。そして……事件が起きたのは……恐らく夜……。少なくとも……混乱さんが……殲滅様の部屋に……夕食を届けた時点では……殲滅様は……生きていた……」
「ふむ……」
「なら……殲滅様が殺されたのは……混乱さんが……昨日の夕食を届けて……それから朝に……殲滅様の遺体を見た間……ってことにならない……?」
「まぁそうだわな」
「その間……藤見は無害と……一緒にいた……。眠る間には……混沌さんも……いた……。つまり……二人にはアリバイがある……。そして……制圧様には……アリバイがない……。女の子である殺戮ちゃんと……それから混乱さんは……黄金の斧を扱えない……。なら……制圧様以外に容疑者はいない……」
「なるほどね」
俺は本を取って読書を再開した。活字を読みながら言葉を続ける。
「しかしてその理論には欠陥があるな」
「……?」
「無害……お前が言った俺と混沌さんのアリバイはあくまで俺と混沌さんが素直に眠っていたらの話だ。もしお前に気付かれないように俺か混沌さんが俺の部屋を抜け出して蕪木殲滅を殺して何食わぬ顔で戻ってきたならアリバイはなかったことになる。それともお前は俺や混沌さんの一挙手一投足までもを寝ている間に確認してたのか?」
「む……」
と言葉につまる無害。
「じゃあ……藤見や……混沌さんが……犯人である可能性もある……と……?」
「まぁそうだな」
「でも動機が無いよ?」
「俺についてはな」
「混沌さんにはあるってこと?」
「いや、あの人にも無いだろ」
「……?」
「なにも犯行と動機が同一人物である必要はないだろ」
「どういう……こと……?」
「混乱さんと混沌さんの主は誰だ?」
「殺戮ちゃん……」
「例えば蕪木殺戮が大事にしている無害が性的暴行をくわえようとした蕪木殲滅に対して義憤を覚えたってしょうがないだろう?」
「ええと……つまり……殺戮ちゃんが……混沌さんに……殲滅様の殺害を命令したって……こと……?」
「まぁありていに言えば」
「…………」
「それに俺だってそのことについては義憤を覚えているしな」
「藤見も……殲滅様を……殺そうと……思ったわけ……なの……?」
「思わないでもないが実行はしねえな。それでも俺だって容疑者に入るんだということが言いたいだけだから……」
「でも……一番動機があるのは……やっぱり……制圧様だよ……」
「まぁ殲滅を殺せば遺産の分配が二分の一になるからな」
「二分の一……かな……?」
「どういうことだ?」




