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第25話:加速する惨劇02


「………………今日の朝食はカニ雑炊になります」


 ダイニングに集まった俺達を混沌さんがもてなしてくれた。


「胃に優しいメニューですね」


 下座に座って俺。


「………………皆様食欲がわかないだろうと思いまして。本来の朝食の仕込みは駄目になってしまいましたが……」


「うん。いい匂い。いただきまーす」


 と快活に一拍して俺はカニ雑炊に手をつけた。


「美味いですねぇ」


「………………恐縮です」


 慇懃に一礼する混沌さん。そんな俺と混沌さんのやりとりとは対称的に、


「「「「…………」」」」


 他の四人は黙ったままだ。混乱さんは顔を青ざめさせて突っ立っているし、無害、殺戮、蕪木制圧はカニ雑炊に目を落としたままピクリとも動かない。俺は俺と一緒に下座に座っている無害に言った。


「おい無害? 混沌さんの作ったカニ雑炊……美味いぞ?」


「そういう……問題じゃ……ないかも……」


「まぁ食ってみろって。なにも血肉を連想させるフリカッセを食えって言ってるんじゃないんだから……」


「う……うん……」


 おずおずとカニ雑炊を口にする無害。そして、


「あ……美味しい……」


 カニ雑炊の美味しさに顔をほころばせた。そんな無害を皮切りに殺戮や蕪木制圧もまたカニ雑炊を食べ始めた。俺は、


「混乱さん……」


 と混乱さんを呼んだ。


「あ! はい、何でしょう藤見様……」


 ボーっとしていた混乱さんが慌てながら俺の方に歩み寄る。


「冷水ください」


 と頼む俺に、


「はい。かしこまりました……!」


 とどこか覇気なく言ってキッチンへと消える混乱さん。そして冷水をグラスのコップに入れて戻ってくる。


「ありがとうございます」


「恐縮です」


「うーん。それにしても美味いなぁ。なぁ? 無害」


「うん……。美味しい……」


 俺が積極的に無害に話しかけ、無害がおずおずと答える。それ以外の人間は黙ったまま食事や仕事をする。そんな空間が続いて、俺が二杯目の……つまりおかわりを平らげた後、


「じゃ、無害。部屋に戻るか」


 そう無害に言った。しかして、


「待て。馬の骨」


 蕪木制圧がそれを止めた。その目には殺意に満ちていた。俺はその視線をあくまで平静を保って受け流す。


「何だよ、ボンボン」


「誰がボンボンだ!」


「じゃあ誰が馬の骨だ」


「不毛だな」


「ああ、不毛だ」


 俺と蕪木制圧は休戦協定を結んだ。


「それで……藤見とやら」


「なんでやしょ?」


「まだダイニングを出ることはまかりならぬ」


「なんでさ?」


「決まっておろう! この六人の中に殺人鬼が存在するのだぞ! 単独行動は控えてもらおう……」


「つまり誰が蕪木殲滅を殺したのかわからないから恐れているということだね?」


「不安にもなろう。人が死んだのだぞ……!」


「俺は死に恐怖を感じないからなぁ……」


「? どういう意味だ?」


「別に。意味なんてないさ。ともあれ言いたいことはわかった」


「然り」


「先にも言ったけど今回のケースは祟りだ。蕪木殲滅が主の逆鱗に触れたから起こった天誅だよ」


「そんなオカルト話を信じろというのか!」


「別に信じる必要はないが……」


「祟りだと! では殺人鬼はいないというのか!」


「そういうことじゃないがな」


「理解できん!」


「する必要はないさ。ただ無意味に怯えたって仕方ないだろって話。恐怖は人に暗示を刷り込む。それは時として暴発する。そうならないためにも冷静でいろってことさ」


「祟りだと……!」


「そ。祟り」


 戯言をのべて、


「ふわぁ……」


 と俺はあくびをして背を伸ばした。今度は金髪美人の殺戮が声を発した。


「ねえ藤見さん……」


「なんだ?」


「あなたには犯人の心当たりがあるの?」


「さてな。ここで下手なことを言って人間関係を悪化させる必要もないしな」


 そんな俺の言葉に、


「…………」


 沈黙する殺戮。


「あー、あー、あー……つまり、だ」


 俺は言った。


「要するにお前らは安心が欲しいんだろ? 誰にも殺されない状況。そういうものが欲しいんだろ?」


「当然だろう……!」


 と、これは蕪木制圧。


「なら一つ良い案があるんだがな」


「……聞くよ」


「……聞こう」


 殺戮と蕪木制圧がそう答えた。俺は言葉を続ける。


「つまり蕪木屋敷の全ての部屋に黄金の斧が飾られてあって、しかも執務室以外の部屋に鍵がついてないから今回のような悲劇が起きたんだろう?」


「まぁ……そうだね……」


 殺戮が頷く。


「であれば……この黄金の斧を管理できればこれ以降の殺人は起きないと思うんだが……いかに?」


「「「「「…………」」」」」


 五人がそれぞれ黙した。それから殺戮が率先して聞いた。


「つまり……どうすれば?」


「蕪木屋敷で唯一鍵のついている蕪木殺戮の執務室に全ての黄金の斧をおしこめればいいんでないの?」


「なるほど……」


 と感慨深げに頷く殺戮。


「たしかにそれなら一応のところ安全ですね。黄金の斧を持てない私に斧の管理を任せるわけですから」


「とりあえず俺と蕪木制圧と混沌さんが黄金の斧を持てるから……三十に及ぶ黄金の斧を執務室に運ぶということでいかが?」


 そんな俺の言に、


「我に雑事をしろというのか!」


 ガタッと立ち上がって激昂する蕪木制圧。


「なに? 自身が殺害対象に入っていいなら別に黄金の斧を運ぶ必要もないがな……」


「ちっ! わかった。運べばいいんだろう運べば!」


 そう呻く蕪木制圧に、


「理解のある人って好きよ」


 俺はそう皮肉った。


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