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第22話:惨劇の足音09


 さて。問題はここからである。蕪木殲滅は無害に性的暴行をはたらこうとして混沌さんに返り討ちにあっている。今は一週間は立ちあがれない傷害を受けていると聞いたが蕪木制圧のこともあるし無害を一人にするわけにはいかない。


 というわけで……。


「こっち……見ないで……ね……?」


「安心しろ。人より性欲は少ない方だ」


「それはそれで……だけど……」


「何か言ったか?」


「何も……言って……ないよ……?」


「なんで疑問形?」


「何でも……ない……」


「じゃあとっとと着替えるぞ」


 俺は服を脱いで水着姿になった。無害もそれに続く。


「もういいか?」


「いい……よ……?」


 無害へと視線をやる。


「ほう。こりゃあ……」


 俺は感嘆の吐息を漏らした。


「あう……」


 無害は赤面して恥ずかしがる。無害は黒のビキニを着ていた。


「良く似合うな」


「ふえ……」


 褒める俺に恥じらう無害。しかして本当に似合うのだ。黒いロングヘアーに白い肌を持ったプロポーション抜群の無害の体を黒いビキニが引き締めていた。ちなみにここは蕪木屋敷の脱衣所だ。無害一人に風呂に入らせるわけにもいかず、そして先の混沌さんの言葉により、俺が一緒に入浴することになった。当然男女では隠すものは隠さねばならず、水着を着用しての入浴となる。まぁ何はともあれ、


「入浴するか」


「ふえ……そうだ……ね……」


 俺達はギクシャクしながらも風呂へと向かった。脱衣所から風呂場に入るとプールかと錯覚するような大きなヒノキ風呂が迎えてくれた。まぁこの入浴も三回目であるから気圧されることもなくなったのだが。


「さて、どうするか……」


 髪と体を洗わねばならないのだが、それには水着を脱がねばならない。


「とりあえず離れるか。お互い一番端っこのシャワーを使おう」


「ふえ……あのね藤見……」


「どうした?」


「藤見さえよければだけど……」


「はいはい」


「無害が……藤見の……髪と体を……洗っていい……?」


「…………」


 にわかに返事できなかった。


「いいのか?」


 絞り出した言葉はそれだけ。


「うん……いい……よ……?」


「じゃあお願いしようかな」


 俺はシャワーの前に座った。


「それじゃあ……」


 と無害はシャワーからお湯を出した。シャワーを手に取って俺の髪と体を濡らし、それから髪と体を洗う無害。途中「ふえ……」だの「あわ……」だのと気後れしながらも俺の髪と体を洗いきる無害。無論水着に隠された部分までもを、だ。何の羞恥プレイだ、とも思ったがそれは言わないでおく。


「さて……」


 と呟いて、清潔になった後、再度水着を着用してヒノキ風呂に入る俺。


「こっち……見ないでね……」


 と無害が言うのに、


「はいよ」


 と答えて俺は肩まで湯につかった。


「はふー。極楽極楽。値千金たぁこのことだぁな」


「藤見……おっさんくさい……」


「おっさんどころか老齢だけどな」


「え……?」


「なんでもない」


 そう誤魔化して俺はヒノキ風呂を満喫する。俺の背後ではシャワーの音がする。おそらく無害が全裸になって髪と体を洗っているのだろう。


「…………」


 ちょっとドキドキしたのはしょうがあるまい。神は全ての人間に色を与えたもうた。俺とてその範疇から外れてはいない。まぁだからといって振り返って無害の全裸を拝む勇気はないわけだが……。


「…………」


 悶々とする俺の背後でシャワーの音が止まるとビキニを着た無害が、


「失礼します……」


 遠慮がちにヒノキ風呂に入ってきた。


「いい湯だな」


「そうだ……ね……」


「嵐、止みそうにないな」


「そうだ……ね……」


 そんな当たり障りのない会話をする俺達。それから俺は会話の流れを変えた。


「ところで無害……」


「なに……?」


「無害は蕪木殺戮の遺産が欲しいのか?」


 気付けば俺はそんなことを聞いていた。


「ううん……。別に……執着はない……よ……?」


「そうなのか?」


「そう……」


 コクリと頷く無害。


「じゃあ何で蕪木制圧や蕪木殲滅のいる……この首切島に来たんだ? ボイコットすればよかったじゃないか」


「殺戮ちゃんのため……」


「蕪木殺戮……か……」


「うん……殺戮ちゃんがもう長くない……っていうのは……もう言ったよね……?」


「まぁな」


「それで……無害に……できることを考えたの……。それは……殺戮ちゃんを悔いなく逝かせるための……こと……」


「それが首切島に来た理由か?」


「うん……まぁ……」


 つまり殺戮に自身の顔を見せておきたかったのだろう。


「いい奴だな。お前……」


 俺は我知らずそう呟いていた。


「ふえ……そんなんじゃない……。ただ……殺戮ちゃんが可哀想ってだけで……」


「それをいい奴って言うんだよ」


「ふえ……」


 と無害は真っ赤になる。風呂にのぼせたのか照れているのかはわからなかったが。


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