第10話:蕪木さん家の事情04
朝食が終わった後、俺はベッドに寝転んで『八つ墓村』を読む作業に戻った。無害はというとそんな俺の部屋のソファに座って静かに『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を読んでいた。
お互いろくに友達もおらず虐められ、迫害される身だっただけに読書というのは心の支えな部分がある。
そんなわけで俺達はいとも平然と言葉も交わさず静かに読書に没頭していた。それから昼食に招かれカオス姉妹の妹……混沌さんの料理に舌鼓をうち、また自分の部屋に戻って読書にふける。
おそらくゴールデンウィークの旅……この蕪木屋敷では他のことをすることもないだろうとたかをくくっていた。しかして昼食後、本を読んでいる途中で、
「ふえ……」
と呟いて無害が読んでいた本を閉じた。そして言う。
「藤見……」
「なんだ?」
俺はベッドに寝っころがって読書をしながら答える。
「一緒に……遊ばない……?」
「こんな何もないところで何をしようってんだ?」
「ちょっと……待ってて……」
無害は自身の部屋へと戻った。と言っても隣なのだが。それからパタパタと足音を鳴らしてまた俺の部屋に戻ってくる。その手にはトランプが握ってあった。
「トランプ……しない……?」
「そんなもん持ってきたのか」
「あう……駄目……?」
うるんだ瞳で無害。可愛いなコイツ。
「俺は別に構わんが……二人でやるのか?」
「そうだ……。殺戮ちゃんも……呼ぼうよ……」
「あー……」
俺は言葉を濁した。けれど、
「大丈夫……」
と無害は笑った。
「大丈夫……かねぇ?」
「大丈夫……。殺戮ちゃんだって……藤見に悪意がない事は……わかってるはずだよ……。それに……殺戮ちゃんは……優しいから……」
「まぁ無害がそう言うのなら俺は別に構わんが」
「じゃあ決まり……。執務室に行こう……? 多分……そこで……殺戮ちゃんは……業務を……行なってるはずだから……」
「あいあい」
二階の俺の部屋を出て、俺と無害は三階の殺戮の執務室へと足を運んだ。殺戮のいるであろう扉の前に立つと、
「納得いかん!」
大気を振るわせるほどの大声が執務室内から聞こえてきた。これは……うろ覚えだが蕪木制圧の声……か?
「納得される謂れもない。遺言書に変更はない」
こちらは殺戮の声だ。無害と話してる時のようなはしゃぎ様は無く淡々と言葉を羅列していた。こういう喋り方もできるのか……。
「我と殲滅と雌犬の子で貴様の遺産を三等分だと……! ふざけるのも大概にしろ!」
そんな室内からの蕪木制圧の声に、
「……っ!」
ビクリと無害が震える。蕪木制圧の言葉の刃が心臓に刺さったのだ。こいつの笑顔はもろく儚い。反面、怯えた表情は粘り強い。卑屈になることに長けているのだ。無理もないが……。
ともあれ俺は、
「大丈夫だぞ無害。俺がいる」
無害の頭部を抱きしめた。無害の耳に俺の心臓の鼓動を聞かせるために俺の胸に無害の頭部を押し付けた形だ。
「ふえ……藤見……ありがとう……」
「気にすることはないぞ。お前の笑顔は儚いけれど……だからこそ貴重でもある。故にお前が安心して笑ってくれるなら俺は何でもするつもりだ」
「うん……無害も……藤見が好き……」
「ありがとさん」
俺と無害とで微笑み合った後、俺は執務室の扉をノックした。
「もしもし?」
「鍵は開いている。入って構わないよ藤見さん」
そんな殺戮の許可に、
「失礼します」
と言って俺は殺戮の領域に入った。蕪木制圧の存在に怯えている無害は俺の背中に隠してある。無害を見ると、途端に殺戮は破顔した。
「無害ちゃん!」
「どうも……殺戮ちゃん……」
怯えながらも無害。




