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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
2章 迷ったら背負い投げしとこうか
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2章の3 生徒総会始まる

 1年生の後期も役員を務めたオロネとカニは経験があるが、生徒総会のような長時間のイベント、しかも各役員が絶え間なく働くようなイベントは、スシだけでなくマヤも初めてだった。

「クロハ会長(中身マヤ)ですが、生徒総会は長丁場で、しかも予定からさらに延びることも想定されます。そのため化身維持の体力面などを考慮して、総会中に化身の担当を交代させます。条件が厳しいので、どの役員の穴をどの役員がカバーするかは、事前にはっきりさせておきます。役員の重複が起こらないよう管理する都合から、プログラムの進行に応じてひまを見て各自が徐々に交代していくのではなく、開始からの経過時間によって一斉に次の化身担当に移行する、というようにしたいと思います」

「カニ書記長(中身スシ)だけど、開始からどのくらい時間がたったら交代するの?」

「そうね、作戦を覚えやすくするのも大事だと思うから、かっきり1時間で交代ということにしましょうか。午後1時半開始だから、2時半に交代。といっても4人全員が衆人環視しゅうじんかんしの中で行動しているので、いかに一般生徒の注目を外して化身の時間を確保するかが問われます」

「ねえクロハ会長(中身マヤ)。総会の細かいスケジュールはわからないけど、クロハ会長(中身誰か)だけは、化身交代のとき体育館のステージ上にいる公算が大きいでしょ? 交代時刻をかっきり決めても、ステージ上でどうやって交代するの? 時間を多少ずらしてでも、ステージから降りる機会を作る方がいいんじゃないかなあ?」

「スシくん、校内に秘密化身室が6カ所あるという話を聞いたでしょ?」

「うん」

「そのうちの1カ所は、体育館のステージ下の空洞を改造して作ってあるの。周囲からは見えないのね。会長と入れ替わる役員は、そこであらかじめ会長に化身して待機するわけ」

「へえ、ステージ下にそんな大掛かりな設備があるの。でも、ステージの会長と、化身した次の担当が交代しようにも、会長には生徒からの視線が集まっている。そこでどうする?」

「まずステージ上の演台の前にいるクロハ会長(中身オロネ)が、生徒総会の資料冊子をうっかり床に落とす。それを拾うために、かがんで演台に身を隠す。演台下の床と地下の秘密化身室を結ぶ隠し扉を開けてステージ下へ。演台が生徒の視界をさえぎるので、この様子は生徒には気付かれない。入れ替わりに下で待機していたクロハ会長(中身マヤ)が演台に立つ。これでどうかしら。自然に見せながら数秒で入れ替わり可能」

「交代する2人が、ぴったりタイミングを合わせないと命取りだね」

「そうねえ。じゃあ、これから、そこのところだけリハーサルしてみよっか」


 クロハ会長(中身マヤ)、マヤ副会長(中身オロネ)、オロネ書記次長(中身カニ)、カニ書記長(中身スシ)は体育館に行った。

 この日の体育館では、割り当てにより女子バレーボール部と男子バスケットボール部が練習していたが、ステージを使う部活はなかった。クロハ会長(中身マヤ)は練習している生徒の目もある中、ステージで生徒総会の登壇とスピーチの練習のふりを始めた。

 マヤ副会長(中身オロネ)は、ステージのそでのカーテンをそっとくぐり、秘密通路を通ってステージ下の秘密化身室に入り、6分ほどでクロハ会長(中身オロネ)へと化身を完了させた。

 カニ書記長(中身スシ)とオロネ書記次長(中身カニ)が見守る中、ステージ上のクロハ会長(中身マヤ)が資料冊子に見立てた紙を落とし、演台の内側へと身を隠した。すぐさまクロハ会長(中身オロネ)が入れ替わって登場。カニ書記長(中身スシ)の目には、あたかも同一人物が資料を落として拾い、また立ったというようにしか見えなかった。

(あ、ほんとだ。生徒に全然気づかれずに入れ替われるんだな)

 このリハーサルでは、クロハ会長(中身マヤ)からクロハ会長(中身オロネ)へ交代した。生徒総会当日の予定とは化身担当の順序が前後逆であるが、カニ書記長(中身スシ)は2人の上手な交代ぶりを見て安心した。

 化身がクロハ会長(中身オロネ)と重ならないよう化身解除したマヤが、秘密通路を通って戻ってきた。ステージ上のクロハ会長(中身オロネ)は、スピーチ練習(のふり)を最後まではやらずに、ステージから降りた。

 リハーサルを終え、メンバーは生徒会室に戻った。マヤを除く3人は別区画秘密化身室に入って化身を解除し、カニ、オロネ、スシとなって出てきた。

 スシが見たところ、本来ニーハイを穿くはずのオロネなのに、クロハ会長(中身オロネ)化身の時の白ソックスのままだ。オロネ書記次長(中身カニ)化身だったカニと、ソックスを交換するのを省略したのか。ということは、カニが男子制服のスラックスの下にニーハイを穿いているわけか。そこは変に交換を省略しない方がいいんじゃないかな、とスシは思った。

 その後、マヤも別区画に入り、クロハ会長(中身マヤ)に化身して出てきた。

 ミーティングは再開された。

「クロハ会長(中身マヤ)だけど、会長の交代さえちゃんとやれば、あとはそんなに大変じゃないでしょ。交代後のシフトはクロハ会長(中身マヤ)、マヤ副会長(中身オロネ)、オロネ書記次長(中身カニ)、カニ書記長(中身スシ)。生徒総会では化身の時間があまり取れないから、制服を脱ぎ着する男女間の入れ替えは難しい。それで、マヤとオロネちゃんは女子同士で交代するけど、男子ふたりは通しで務めてほしい。カニくんは初めから終わりまでオロネ書記次長(中身カニ)で頑張って。スシくんは通しでカニ書記長(中身スシ)で頑張って。書記の手間は大きいけど、発言機会はないから精神的負担は少ないでしょ?」

 スシは生徒総会でどんな化身をやらされるかとびびっていたら、すでに今日経験できたカニ書記長(中身スシ)だけでいいというので、少し安心した。

 自分を除く3人は化身のエキスパートなのかもしれないが、スシはこの日初めて化身をして、化身のレパートリーは同性のカニだけ。人手がない中でも、クロハ会長(中身マヤ)は経験の浅い自分に気をつかってくれたのだ。スシはうれしかった。

 もっともスシは、自分が女子のクロハ、マヤ、オロネの誰かに化身させられそうになったら、自分の化身の不始末で彼女たちの名誉が傷つかないよう、精一杯抵抗しようと思っていた。

 

 4人は、生徒総会の資料冊子を全校の人数分用意する作業に取り掛かった。

 総会の資料冊子の内容は、3月までの前年度後期生徒会の活動内容の記録、各部活や委員会の成績など一覧、そして運動部・文化部の活動費を中心とした生徒会予算案(通年分)である。資料冊子は、生徒総会を進行する役員がページを1枚ずつめくりながら、つつがなく進められるよう工夫してあった。

 役員たちはまず印刷室に行き、生徒会担当教師のキクハにってもらってあった大量のプリントを台車に載せ、生徒会室まで運んだ。続いてプリントをページごとに分け、机にそれぞれ山にして置いた。山からページを順に取っていき、全ページをまとめてじると1部完成。これを生徒全員分繰り返すわけである。

 そう複雑な作業でもないので、4人でかかれば作業は順調に進んだ。しかし赤字のままの予算案が掲載されているため、クロハ会長(中身マヤ)、カニ、オロネの表情は曇っていた。

 作業を初めて手伝ったスシは、すぐ飽きた。

「スシだけど、そういえば化身のタイムリミットって、長いと疲れるだけが理由なの?」

「カニが説明するよ。男子が女子に化身した場合、校内設備の関係で制約があるでしょ?」

「ああ、女子更衣室とか、トイレに入れないとかだね。ああ、なるほど。カニくんがずっと女子でいると、用を足せなくて困るんだね」

 内容が内容なので、女子ふたりはスシとカニの話を聞いてないふりをしていた。

「スシくん、化身をなるべく短くする方がいい理由は、他にもあるんだ。化身というのは本人に成り切るだけでなく、周囲に絶対に別人と見抜かれない必要もあるので、精神的にはかなりきつい。1回1回の負担をなるべく小さくしないといけない。スマホとか、ゲームとか、1回当たりの時間が長すぎると体に悪いというのと同じ」

「ふんふん」

「それに化身を恒常こうじょう的に行っていると、1回当たりの時間が少しずつでも、完全に回復できないダメージのようなものが蓄積されてくる。むしろこっちの方が問題」

「どう問題?」

「恒常的に行っている化身のキャラの方が本人のになってしまって、生来せいらいの自分の人間性の方がわきに追いやられる。本末転倒、しゅじゅう下克上げこくじょう

「そうなると?」

「これは『役に成り切る』というレベルより深刻なんだ。当人に自覚のないまま、当人の生来の人間性が化身のキャラに飲み込まれて失われてしまう。そうなったら、化身のキャラが抜けないまま過ごすか、当人の生来のキャラに逆に違和感を感じながら過ごす羽目になる。それは本来の自分の『死』とも言えるだろう」

「そんな!」

「だから気をつけて化身しないといけないのさ」

 スシは「化身には意外と怖い側面もあるんだな」と思った。

「クロハ会長(中身マヤ)だけど。こらこらスシくん、手を休めない」

 クロハ会長(中身マヤ)はスシにカツを入れようと、手にしていた冊子の1ページを、空飛ぶじゅうたんのような具合でスシに投げた。

 紙は平面性を保ったままスーッと空中を行き、スシのおでこに当たった。

「やーらーれーたー。お返しだー」

 スシも真似して、じる前の1ページをクロハ会長(中身マヤ)に投げてみた。けっこう上手に飛ばせて、クロハ会長(中身マヤ)の近くまで行った。クロハ会長(中身マヤ)はページをキャッチした。

「クロハ会長(中身マヤ)思うに、ペラペラの紙をいきなりそんなふうに飛ばせるなんて。上手じょうずねスシくん」

 クロハ会長(中身マヤ)は、スシが投げてよこしたのが自分が投げたページと同じなのを確認して、他のページと合わせて綴じ込んだ。スシも作業を再開した。


 生徒総会の日になった。

 この日は朝から総会を見すえて、クロハ会長(中身マヤないしオロネ)が教室に不在がちという設定で化身を回し、スシも2、3時間目にカニ書記長(中身スシ)を務めた。

 総会直前の昼休みに、4人は生徒会室別区画で一斉にファーストターン(生徒総会のうち最初の1時間)の化身を整えた。化身を一斉にするのは、たとえ短時間であっても別区画の外で同一人物の重なりを防ぐためだ。ファーストターンは事前の打ち合わせ通り、クロハ会長(中身オロネ)、マヤ本人、オロネ書記次長(中身カニ)、カニ書記長(中身スシ)である。

 カニ書記長(中身スシ)は、マヤをじーっと見てみた。

「? どうしました? スシくん」

 カニ書記長(中身スシ)は、今度は、オロネ書記次長(中身カニ)をじーっと見てみた。

「カニ書記長(中身スシ)、どうしたの?」

「誰かが誰かに化身するとき、その人の言いそうなことや考えそうなことって、いつもはっきりわかるものかな、と思って」

「オロネ書記次長(中身カニ)は思うけど、化身する以上、そういうのをわかって動かなくてはならないよ? ・・・。でも、誰も化身しないと破綻はたんにつながるなら、後先あとさき考えずに誰でも化身して、その場をしのがなければいけない。まずいこと言うとダメだから化身しないとか、言ってる場合じゃない。だから、化身がたとえ急場をしのぐために言った出まかせでも、本人の方は、あくまでそれを自分が言ったものとして行動していく。後付けで信憑性しんぴょうせいを出していくしかないのね」

 カニ書記長(中身スシ)は身震いした。オロネ書記次長(中身カニ)の話の内容に感銘を受けたのもそうだが、オロネ書記次長化身のカニの物言いが、オロネ本人のそれと見事に重なったからだ。

 しかし今のスシは、生徒総会で自分が化身を担当するカニ書記長(中身スシ)を、そこまでのレベルではこなせないし、そう期待されてもいない。昨日よりはましでも、まだかなり緊張していた。

 自分がカニ書記長の化身にふさわしい人間かどうか、スシは深く考えることを避けた。


 4人は円陣を組み、クロハ会長(中身オロネ)が発声した。

「みんな、行くよ! クロハを会長に再選させるその日まで! 前期執行部、オー!」

 円陣が解け、4人は総会の会場、体育館に向かった。

 体育館では、集まった生徒たちが、すでに不穏な空気をかもし出していた。

 例年なら総会資料冊子は総会より前に各教室で配布されるのだが、クロハ会長(中身マヤ)が、今回は総会直前に会場で配布するに変更した。配布して間髪かんぱつ入れずに総会を始めて、予算削減など執行部が答えにくい質問を一般生徒がなるべく考えつかないようにさせる狙いだった。ややせこい。

 それがかえって、一般生徒に「前期生徒会執行部は、自分たち生徒が預かり知らぬところで、予算削減を断行しようとしているのではないか」という疑念を広げていた。


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