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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
2章 迷ったら背負い投げしとこうか
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2章の2 運動部・文化部部長会議

 オロネ書記次長(中身カニ)が、部長会議の会場である視聴覚室のドアを開けると、すでに各部の部長は勢ぞろいしていて、到着した生徒会執行部を一斉にガン見した。カニ書記長(中身スシ)は引いた。

(ううっ。またかよ、この空気。今朝のホームルームみたい。なんでこの学校は、なんでもかんでもこんななの?)

 会議はオロネ書記次長(中身カニ)を進行役として進められた。

「えー、今年度最初の体育部・文化部部長会議、進行はあたしオロネ書記次長(中身カニ)が務めさせていただきます。よろしくお願いします。さて、出席のみなさんに事前にお知らせしてありますように、今回の議題は生徒会予算規模縮減で、早い話、各部活の予算総額を減らすことについてです。各部が申請してきた活動費総額が生徒会の収入を上回っていて、こちらとしても困ってるんです」


 あらかじめ断っておくが、役員のセリフのうち名前と肩書の後の(中身○○)という部分は、一般生徒には聞こえないことになっている。以下、本編の全部分において同様。


 カニ書記長(中身スシ)は、この時初めて部長会議の議題を知った。そして、オロネ書記次長(中身カニ)が、出席者にとって悪い方に刺激的な議題をいきなり切り出し、しかも「予算総額も考えず好き勝手請求しやがって」というあおりとも取れる言い方をしたのにびびった。「本物のオロネさんなら、こんなド直球な言い方はしないんじゃなかろうか。これでオロネさん本人が炎上したらえらいことだ」と心配した。

 そんなふうにドギマギしているカニ書記長(中身スシ)を、マヤ副会長(中身オロネ)が「なに挙動不審きょどうふしんになっているのかな?」という目で見た。

 オロネ書記次長(中身カニ)は続けた。

「繰り返しになりますが、今年度の生徒会予算案は、現状で各部の希望額総計が収入を上回っています。学校同窓会が負担してくれている分が、昨年度より減少したのが原因です。このままでは、明日の総会で予算案を採決するのは難しい。そこで各部の部長の皆さんに納得いただいた上で、各部の希望額を調整、というか削らせてもらいたいのです」

 それを聞いたカニ書記長(中身スシ)は目を白黒させた。

(えーっ! 生徒総会の前の日に予算案編成を決着させようだって? さすがにそれは泥縄すぎない?)

 オロネ書記次長(中身カニ)の議題説明が終わるか終わらないかのうちに、部長たちは勝手に発言しだした。

「他の部はともかく、うちだけは活動費を削らないでください」

「いくら足りないの? 8万6500円? そのくらいなら、なんとかならないのか」

「うちの部は12年前にインターハイ|(全国高校総合体育大会)に出たから、当然配慮される。減額はないはずだ」

「12年て相当前だな。それで特別扱いしろってのはムシがよくないか」

「予算はいったん赤字で組んでおいて、活動費を満額使い切らない部が出るのを待とう」

「収入が足りないなら、国債みたいに債券を発行して資金を調達しよう」

「未確定収入として8万6500円計上しておいて、後で帳尻を合わせましょうよ。収入がなかったら、その時はその時」

「活動費原資を、株式市場か先物市場あるいは中央競馬に投入して増やすというのは」

「18歳の新成人になった3年生をいいところで働かせて、上納金を取る」

「修学旅行の行き先を市内に変更して、浮いた費用を回す」

「修学旅行に行くのは2年ですから、3年が好き放題言わないでほしい。2年は迷惑」

「部員が1人もいない部活には、部費をやらなくていい」

「そんな部活の部長がここに来ているはずないだろ」

 会議は、猛烈に勝手な意見や、むちゃな注文ばかりで、予想通り紛糾ふんきゅうした。

 議事録を取っていたカニ書記長(中身スシ)は、化身がバレやしないかという緊張もあって、目が回りそうだった。


 会議は1時間を越えて、なお続いた。

 大部分の参加者は、へろへろになっていた。

(カニ書記長(中身スシ)は思うけど、みんな「自分のとこ以外を削るんだったら賛成」というムードに支配されている。こうなったら執行部で調整して、平等に少しずつ削って納得してもらうしかないんじゃないかなあ?)

 会議はさらに続いたが、さすがに参加者も疲れ果てて口数も少なくなっていった。

 疲労で意識が遠のきかけ、カニ書記長(中身スシ)の議事録を書く手が止まりそうになったとき、クロハ会長(中身マヤ)が仕切った。

「このままでは予算案は単年度赤字のままです。赤字でも、あすの生徒総会で採決、成立させるのは不可能でないにせよ、赤字で成立させてしまったら、そのあと大変な混乱を招きます」

(カニ書記長(中身スシ)思うに、おー、クロハ会長(中身マヤ)、言ったれ言ったれ)

 参加者は、またブーブー文句を言い始めた。

(あー、でも、クロハ会長(中身マヤ)の会長再選、というか、クロハさん本人でなくても再選と言うかわからんけど、ここでの強硬措置(そち)は人気にマイナスに働きそうだなあ・・・)

「クロハ会長(中身マヤ)は、そこで提案します。思い切って、あすの生徒総会では、予算案の審議はしない」

 参加者たちは、一様にキツネにつままれたような顔をした。

 キラが手を挙げて発言許可を求めた。

「あのー、クロハさん、新聞部長のキラですけど。年度当初の生徒総会で予算案を成立させるのは、生徒会規約で決まっているんじゃないですか?」

 参加者たちは、そうだそうだ、と声を上げた。クロハ会長(中身マヤ)は、もったいつけて言った。

「確かに、そう決まっています。そこで今年度に限り、来月もう1回生徒総会を開いて、そこで決めることにする。それを明日の生徒総会で組織決定する手続きを踏みます」

「もう1回生徒総会をやるというのは、予算案審議の先送りですか? 明日そのための議案を出して生徒にはかるんでしょうか?」

「そうです」

「その場合、来月に一発で予算成立したとしても、最低1カ月の空白期間が生まれます。その間に各部が使う金額はどうなるんでしょうか?」

「使用金額は、各部から提出される領収書と引き換えに渡すシステムです。なので、年度当初にすべての部活が予算請求額を使い果たすとかでない限り、実際に生徒会の金庫が枯渇こかつするのは来年の2月とか3月です。さすがにそれまでには縮減してプラスマイナスゼロの予算を成立させることができると考えます」

「それは現在の予算案を暫定ざんてい予算として機能させるということですね?」

「そうです」

「わかりました」

 切れ者の新聞部長キラが引き下がったのを見て、出席者たちは「ほう」という空気に包まれた。「少なくとも、きょうあす困った事態にはならなそうだ、相当長い時間、会議をやっているから、もう部活に戻りたい」という心理が働き、そこから会議はあまりもめずに収束した。

 部長がひとり残らず会議会場から出て行って、さらにしばらくたってから、クロハ会長(中身マヤ)が毒づいた。

「んもう、何よあれ! 全部の部があんなだったら、まとまる話もまとまらないわよ!」

「カニ書記長(中身スシ)思うに、クロハ会長(中身マヤ)って、一般生徒がいるといないで全然違うね」

「仲間しかいないところまで、取りつくろうつもりはないもの」

「それはわかる気がするけど」

「ほんとに?」

「でも赤字予算案は次の生徒総会に先送りされるだけで、問題は何ら解決していないんだね」

「その通り。各部の予算を削減する苦労がなくなるわけではない」

「でも、なんで8万6500円足りないの?」

「スシくん、会議で話聞いてた?」

「オレ今、カニ書記長(中身スシ)なんだけど」

「カニ書記長(中身スシ)、会議で話聞いてた? 同窓会からのお金が減ったからよ」

「秘密化身室は6カ所あって、教員有志のカンパで作ったって言ったよね?」

「うん」

「備品のバイク用ヘルメットやウィッグ、本人と同一モデルのメガネ、そういったものを購入するのにかかった総額は?」

「・・・」

「クロハ会長(中身マヤ)?」

 クロハ会長(中身マヤ)は、言いにくそうに、あさっての方を向いた。

「は、はちまんえんと・・・ちょっと・・・かな?」

「その費用はどこから?」

「ど、同窓会から生徒会予算に入るはずだったお金の一部を・・・、その、ないしょで、回させていただいて・・・。テヘ」

「テヘじゃないでしょ! やっぱりそうなのか。生徒会予算の収入計上分が一部、一般生徒に説明できない、使途不明金になっているわけだね」

「オロネ書記次長(中身カニ)だけど、スシくん鋭い」

「だから部長の皆さんに、こっちで一律に活動費を削減するとか、強く出られなかったと」

「クロハ会長(中身マヤ)だけど、そういう言われ方は本意ではない。あと、使途不明金って言うと、相当悪いみたいに聞こえる」

「良くはないでしょう」

「マヤ副会長(中身オロネ)ですけど。スシくんに仲間になってもらった以上、これはどうせいつか話して聞かせることだわ。それから、組織に誘われると入ってしまうスシくんに言っておくけど、新聞部だけは、いくら誘われても入っちゃだめよ」

「?」

「あなたより数段鋭いキラちゃんに、あなたがこのことを隠し通せるとは思えない」

「一般生徒には隠し通すの?」

「クロハ会長(中身マヤ)だけど。うーんとね、うまく説明できないんだけど、夏くらいに何かあって、臨時収入があって、どうにかなる気がするのね。なんか、どーんと。ばーんと」

擬音ぎおんが多いな」

「さっき会議のとき、『未確定収入として8万6500円計上しておいて、後で帳尻を合わせましょうよ。収入がなかったら、その時はその時』って言ったの、実はわたしだから」

「えー!」

「もちろん、使途不明金の分が年度末までになんともならなかったら、そのときはいさぎよく役員で頭割りして、秘密裏ひみつりに弁済しますよ? 5人だから、ひとり1万7300円ね」

「正規役員でないのに、オレも数に入ってる!」

「スシくんの髪が、わたしらと同じ長さがあれば、ウィッグの分の費用は縮減できたのに」

「えー。髪が短いと悪いみたい。そもそも、オレが仲間になる前にウィッグやバイクのヘルメットを買ってしまうって、どうなのよ」

「スシくんはちゃんと仲間になってるし、結果的に外れていないし、スケジュール的にそうしないと間に合わないし」

「えー」

「あと、クロハ会長(中身マヤ)からスシくんに説明しておくけど。普段わたしたちが遵守している『化身三原則』」

「化身三原則! アシモフの『ロボット三原則』みたいな?」

「それではいきます、化身三原則。①化身が重なってはいけない②化身と本人は等価値③化身がした約束でも本人に果たす義務がある。①は第1章でクロハ会長化身が重なったときに話したわね。②は化身と本人の交換はいわば『等価交換』であるとする信条を現す。③は化身が成り行きでした言動や約束であっても、そのあと本人が責任を負うということ。以上」

「なんか他の話に混ぜて言われてるけど、とても大事な話っぽい! それだったら、オレが最初に化身をする前に説明しておいてほしい!」

「はいはい、わかったわかった」


 ここで簡単に部長会議の内容と、前期生徒会執行部が模索する今後の進め方を振り返ろう。

 泥縄第二高校生徒会は8万6500円の(人為的な)財源不足に直面し、従来通りの予算案が組めなくなった。クロハ会長(中身マヤ)は、運動部・文化部に予算縮減の必要性を説明し、「そんなに大変なら、まずうちの部の予算を削ってください」「うちも」「うちも」という美しいことを各部が言ってくれることを夢見たが、まったくそんな展開にはならなかった。

 部長会議でクロハ会長(中身マヤ)が提案したのは、平たく言うと以下のようなこと。

 生徒総会は明日なので、もうどの部の予算をどのくらい削るか計算して納得を得るのは、この時点ではあきらめる。生徒総会では予算案を、潔く「赤字予算ですが何か?」と一般生徒に示す。採決はできないことはないが、明日の時点ではせずに、5月くらいに開く臨時生徒総会に先送りする。

 え? 年度当初に予算案が成立していないと困るんじゃないかって?

 泥縄第二高校では、部活の活動費は各部が使った分の領収書と引き換えに渡すから、各部は1年分を一度に請求したりできない。足りないのは8万6500円だから、明日の総会で一般生徒に示す予算(案)の通りに各部が使っていっても、実際にお金が不足するのは年度末近く。冬の行事の少なさを考えれば、2月か3月まで持ちそうだ。

 もし5月に開く臨時生徒総会で、再度予算が成立しなくても、さすがに縮減やむなしのムードが高まる。その後も臨時総会を重ねていけば、年度末近くまで成立しないことはないだろう。

 夏に何か生徒会に臨時収入が発生して、赤字が埋まればそれでよし。最終的にほんとに8万6500円赤字になったら、役員が秘密裏に弁済しますよ、すればいいんでしょ、そうクロハ会長(中身マヤ)は考えていた。

 しかし期限内に予算が成立せずに新年度に突入というのは、本来なら予算執行自体が宙に浮き、各部の活動費請求が全て凍結してもおかしくない危険な事態だ。

 クロハ会長(中身マヤ)は、現在の赤字予算案を、予算が成立するまでの暫定ざんてい予算として機能させる腹づもりだった。暫定予算は日本の歴史においても、国会の与野党対立で年度内の予算成立がならなくて編成された例がある。まあ、泥縄第二高校でそれを真似すると、生徒会規約上問題なくはないのだが、そこに気づいて突いてくるとすれば新聞部長のキラだけだ。だがキラは今日の部長会議でその件に関しては文句を言わなかったので、了承は得られたと踏んだ。

 執行部4人は生徒会室に戻ってきた。

 マヤ副会長(中身オロネ)がカニ書記長(中身スシ)に言った。

「スシくん、カニ書記長(中身スシ)の化身、よくできていましたよ」

「えへへ・・・」

 実はスシは会議の終盤、化身の緊張のあまり体力が尽きかけ、人の言葉が右の耳から左の耳へ抜けていた。そういう状態だったことを自分からは触れないようにしていたので、ほめられて、少し恥ずかしかった。

(はっ。・・・。オレは今、ほめられて非常にうれしかったが、それはあたかもマヤさんにほめられたくらいうれしかったぞ。しかし目の前の人の中身はオロネさんなのだ。だから本物のマヤさんにほめられるより喜びが抑え目になるのが本当なんじゃないか? 中身がマヤさん本人だろうが違おうが関係ないとか、オレはそれでいいのか?)

 カニ書記長(中身スシ)は困惑した。


 事態はなんら好転しなかったが、ともかく部長会議を乗り切った。役員は翌日に迫った生徒総会を見すえてミーティングを始めた。

「クロハ会長(中身マヤ)が、明日の生徒総会の人員配置について説明します。総会は5、6時間目に行われ、午後1時半始まり。スタート時点のシフトは、クロハ会長(中身オロネ)、マヤ、オロネ書記次長(中身カニ)、カニ書記長(中身スシ)。スシくんは総会をエスケープして校外にいる設定です。会長は議案説明と質疑への応答、副会長は議事進行、書記長は議事録作成、書記次長は質疑のある生徒の発言のために、ワイヤレスマイクを持って会場を回るのが主な役目となります」


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