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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
1章 53ページ目までに仲間にならないと心配
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1章の4 審議は尽くされたので採決

 話を終えたクロハ会長がステージから降り、入れ替わりにマヤ副会長がステージに向かった。ステージわきの階段でふたりがすれ違う姿は、再びスシの心を熱くさせた。

「ひそひそ。わあい。ぼそぼそ。マヤさんだ」

 はしゃぎながら小声で「わあい」などと怪しげな発言をするスシに、オロネ書記次長は少し引いた。

「生徒の皆さん、前期生徒会副会長のマヤ副会長です。今後の生徒会行事日程について説明します。本来あす4月9日が運動部・文化部部長会議の予定でしたが、学校日程の都合で今日、8日の放課後に変更となりました。生徒会執行部の事情で放課後すぐからは始められないので、午後4時からとさせてもらいます。各部の部長は会場の視聴覚室にお集まりください。あす9日には、10日に予定されていた生徒総会が、こちらも前倒しで行われます。昼休み後の5、6時間目の時間帯、会場はここ、体育館です。総会の内容はまだ流動的ですが、今年度生徒会予算案や、予算案採決先送りについてです」

 緊急全校集会が終わり、体育館から退場する列に従ってスシは2年1組に戻った。

 キラがスシに声をかけた。

「スシくん、あなたが学校統合の原因にならないのがはっきりしたから、あなたを歓迎するね。ようこそ泥縄第二高校へ」

 キラは確かに美少女で、席も右隣だが、スシはその現金な物言いが歓迎できなかった。

 スシは席に着くと、傷心しょうしんいやすためか、朝もらったマヤの名刺を縦にしたり横にしたりしていた。キラとは反対側の隣の席のクロハ会長が、それを見て言った。

「なんだねスシくん、マヤの名刺なんかをそんなにして。名刺が好きなのか。それなら、わたしのもあげるよ」

「あ、どうも。でもオレは自分の名刺を持ってないんだ。交換できなくてゴメン」

 スシは、クロハ会長から名刺を受け取ると、すぐさましまいこんだ。そしてまたマヤの名刺を縦にしたり横にしたりを繰り返した。

「・・・。スシくん、ひょっとして、マヤのこと気に入ったの?」

「いや、その、なんだ。えっと」

「ははは、スシくん。あんなの大したことないって」

「!」

 スシがクロハ会長を「コイツなんてこと言うんだ信じられん」という目で見た。クロハ会長は「あ。いけない」という顔をして、舌をペロっと出した。

「いや、ごめんね。スシくん」

「クロハさん、マヤさんは生徒会の仲間なんでしょ? お互い尊重し合っていてほしい」

「あはは」

 クロハ会長はスシの言い分がちょっとおかしかったが、これ以上カッカさせまいと、ツッコむのはやめた。

「いや、マヤがいない時にわたしが何を言っても、マヤは怒らないというか、怒りようがないというか。ともかく絶対大丈夫なんだけど、いや、ともかくゴメン。あはは」

 教室に教師がやって来て1時間目の授業が始まった。

 マヤは、朝スシに言った通り3、4時間目に教室に姿を見せた。その代わりクロハ会長がいなくなった。スシは「生徒会役員って、授業を抜けないといけないほど忙しいのか」と思った。

 元々始業式の日なので、4時間目までしか授業はなく、ショートホームルームのあと放課になった。

 スシは授業中から「放課後にマヤさんに話し掛けよう」と思っていたが、放課後になったらまたマヤはいなくなった。

 しばらくしてから、クロハ会長がカニ、オロネを伴って、スシに声を掛けた。

「スシくん、ちょっといいかな」

「何? クロハさん」

「ちょっとお願いがあるんだけど」

「何かな」

「ここじゃなんだから、生徒会室まで来てくれないかな」

 スシは3人に連れられて、おとなしく生徒会室に足を運んだ。ひょっとしたらマヤがいるかもしれないという期待もあった。

(・・・。オレは生徒会室で何を言われるのであろうか。生徒会役員は人手不足だというが、オレに役員になってくれとでも言うのだろうか。いやいや、今日転校してきたばかりですってば。たとえクロハさんやカニくんやオロネさんに頼まれても、ちょっと考えさせてくれとか言う。そんでもってマヤさんに頼まれたら、しっかりと首を縦に振ってみようかな)

 スシのこんな考えをクロハ会長たちが知ったら「どうせマヤが頼めば引き受けるなら、誰が頼んでも引き受ければいいじゃないか」と怒ると思う。

 スシは3人と一緒に歩いた。スシにとって、ずっとマヤと一緒に生徒会室にいられる役員入りは、悪くない話ではあろう。だが、もしマヤだけが目当てで役員入りを狙うというなら、スシくんは悪い人だ。

(スシ思うに、あれ、待てよ。執行部の役職に空きがあるわけじゃなし、役員になれと言われるはずないか。では頼みたいことってなんだろう?)

 スシたちは生徒会室に着いた。クロハ会長がスシに着席をすすめ、全員椅子(いす)に腰掛けた。一般生徒はいない、ある種隔絶(かくぜつ)された空間だ。

「で、クロハさん、オレをここに連れてきたのはなぜでしょう?」

「これから前期生徒会執行部の会議をするの」

「?」

「いいからいいから。じゃあ、カニくん、始めましょ」

「会議の議長を務めさせていただくカニです。よろしくお願いします」

「スシは思うけど、カニくん、本格的だね」

「会議の議題は、スシくんに前期生徒会執行部シークレットエージェントをやってくれと頼むか、頼まないかです」

 がすっ。

 スシが思い切り机に頭を打ち付けた。

「ちょ、ちょっと待ってよ、シークレットエージェントってなんだか知らないけど、それをやってくれと頼むか頼まないかの会議に、本人を呼んでどうするのさ? 頼むと見せかけて、やっぱり頼まないとなったら、そのあと本人と気まずくなるでしょ?」

「議長カニから注意。スシくんはまだ会議のメンバーでないので、発言権はありません」

「えー? じゃあ、なんで呼ぶのさ」

「生徒会執行部が重要な決定をする会議では、役職と同数の人数が出席しないといけないと、規約に定められているからです。現状だと会議が成立するのに必要なのは4人」

「何それ。それならマヤさんを呼んでくればいいじゃないか。あるいはマヤさんがいる時に会議をやればいいじゃないか」

「まあまあ。4人出席で会議は成立しました。スシくんありがとう。時間が限られているので、多少巻きでお願いします」

 執行部会議の成立について、オロネとクロハ会長がお約束的な拍手をした。

「議長」

「オロネさん、どうぞ」

「スシくんに就任要請するに賛成。スシくんは役員、というかシークレットエージェントに向いていると思います」

「クロハ会長ですが、スシくんにシークレットエージェントを頼むことだけにしぼれば、就任要請するに賛成。次期生徒会長選挙に関して生じる懸案けんあんは、また考えないといけないけど」

「カニとしても、こんなに条件ぴったりの人はほかにいないと思う。天の配材というやつじゃないかな。就任要請するに賛成」

「スシから質問。シークレットエージェントって何? ネーミングからして非合法的なにおいがプンプンする」

「議長カニから注意。スシくんはまだ会議のメンバーでないので、質問権もありません」

「えー? オレが出たから会議が成立したというのに」

「スシくん、あとでちゃんと説明するから。このクロハ会長が」

「議長カニですが、審議は尽くされたので採決します。賛成の役員は挙手きょしゅを・・・」

「でも、ちょっと! マヤさんには賛成か反対か聞いたの? 副会長なんでしょ? マヤさん抜きで決めちゃっていいわけ?」

「スシくん、マヤがたとえ反対でも3対1で可決。マヤの欠席は問題ない。クロハ会長ですが」

「えー?」

 スシはしょぼくれた。

 クロハ会長はそんなスシを見て、少し焦った。

「ちょっと、スシくん。なんでそんなにしょぼくれてんのよ」

「え、だって・・・。その、オレをシークレットエージェントに誘うにあたって、マヤさんはちゃんと賛成してくれてるか心配だから」

「ああ、賛成よ、賛成」

「クロハさんには聞いてない」

 クロハ会長は「言ってくれるじゃない」という顔をした。少し考えたあと、スマホを取り出してどこかに電話した。

「ピッ、ポッ、パッ。ああ、もしもし、マヤ? 例の件だけど。賛成ね? わかった。じゃあね。・・・。ほらスシくん、マヤに電話して聞いたわよ、賛成だって」

「何その小芝居。今、電話帳でなくて直接ダイヤルなのに、3ケタしかタップしていない。かけたのは時報の117くさい」

 クロハ会長は本格的に「面倒くさいなあ」という顔をした。

「スシの希望。マヤさんがすごく忙しいんだったら仕方ないけど、マヤさんに会議に加わってもらえないかな。来れるようになるまで、オレここで待ってもいいからさ」

「あ、あのねスシくん。マヤの気持ちは、わたしが一番よくわかるから。マヤは賛成ですよ? これでいいですか?」

「クロハさん、口調と声色こわいろだけマヤさんぶってもダメですよ」

 クロハ会長は頭をかかえた。そして、隣のオロネの背中に、指で文字を書いた。

(ほ、し、5、ふ、ん)

 オロネが驚いて声を上げた。

「それだと重なるんじゃ!? それに、5分でするの?」

「オロネちゃん、別に重ならないでしょ?」

「ふうん。そうか、わかった。じゃあクロハ会長も・・・になるんだね?」

「?」

 オロネの発言の真意を理解していない様子のクロハ会長を尻目に、オロネはドアを開けて生徒会室を出て行った。

「オロネさんも忙しいの? 会議はもういいの?」

「議長カニですが、会議は続けます」

「メンバーふたりしかいなくなったじゃんか」

「議決は人数が再び4人になってから行うので、問題ありません」

「オロネさんは5分間いないの? 5分とはいえ手持ちぶさただね」

「穴埋めのため、スシくんにも発言を許可します」

「やったあ。でもそう言われても、会議で話すことなんかないけど」

「クロハ会長だけど、こらスシてめー、こっちが求めないといろいろ言うくせに、いざ発言を許可された途端になんだそれは!」

「えー」

「ただ今のクロハ会長の発言、一部不穏当(ふおんとう)。議長カニ」

「あはは。オロネちゃんが戻るまで会議は中断しているから、今のは議事録に入らないからね。でも言い直しましょうか。こらスシくん。こっちが求めていない時にはいろいろ言うのに、いざ許可されると言うことがないだなんて、ちょっと子供じみてるよ?」

「議長カニも、スシくんがそんなだと張り合いがない。せっかく発言を許可したので、何か言うように」

「えー」

「議長の立場を離れた、いち出席者としてのカニから。スシくん、きみみたいな男子はなかなかいないよ。とっても声がいい」

「声? これのこと?」

 スシは、クラスでやったように、女性歌手の歌をファルセットボイスで歌ってみせた。

「そう、それ。クロハちゃんと区別できない声。最高。クロハちゃんとマヤちゃんの声は似ているから、スシくんはマヤちゃんの声も簡単に出せそう」

「いや、でもそんな用事ないから」

「クロハ会長だけど、スシくん、わたしとしてはなんでかよくわからないけど、マヤがいないのそんなに気になる?」

「はい。・・・。ははは、言っちゃった」

 スシには、クロハ会長が一瞬うれしそうな顔をしたように見えた。

(クロハさんは、マヤさんの人気が高いと、自分のことみたいにうれしいのかな?)

 オロネがいなくなってから、6分ほどたった。

 部屋の中の会話がなくなった。

 オロネが出て行く前、彼女の背中に「5ふん」と書いたクロハ会長は、時間の経過に「おかしい」という表情を浮かべていた。

 スシはちろっとカニの方に目をやってみた。少し焦っているように見えた。

(・・・)

 クロハ会長・カニ・スシは、見つめあったまま、誰かが口火を切るのを待っていた。スシは、じれた。じれたが、自ら話題を作ってまで話すのもいやだった。

 さらに3分たった。

(こりゃだめだ。スシ)

 スシは、いきなり席を立った。

「スシくん?」

 スシはクロハ会長に背を向け、部屋を出ようとした。

「ちょ、ちょっと、スシくん! 何よ! 『マヤさんが来れるようになるまで、オレここで待ってもいいから』とか言ったくせに、どこ行くの!」

「や、ちょっと外の空気に当たって来ようかなと」

「こら、待て! スシくん!」

 クロハ会長とカニはあわてた。

 スシが生徒会室のドアを開けて外に出ようとした時、逆に入って来ようとしていた女生徒がいた。どーん。2人の体が密着してしまった。

「あ、すみません…」

 スシは反射的にうつむいてしまったが、そういえばと考え込んだ。外から入ってくる女生徒で一番可能性が高いのはオロネだが、マヤというのもあり得るのではないか。

 スシはにやけ顔を抑えつつ、ゆっくりと顔を上げた。

「・・・。え、えーっ!」

 スシは、目の前の事態が、自分の中に恐怖体験として刻まれたことを自覚した。


 来たのはオロネでもマヤでもなく、クロハ会長だった。


 スシが部屋の中を振り返ると、そこにもやはりクロハ会長が。

「な、な」

 スシは腰を抜かさんばかりだった。

「クロハ会長が、ふ、ふたり・・・」

 目の前のクロハ会長も、部屋の中のもうひとりのクロハ会長を見て、血相けっそうを変えていた。

 取り乱したスシだったが、数秒たってからポン、とひざをたたいて復活しようとした。

「クロハ会長は一卵性の双子か、どっちかがクローン人間か、ドッペルゲンガーというところなのでは。ドッペルゲンガーだったら、本人と会わせると死んじゃうかもしれないから、まずいんじゃ・・・」

 スシに向かい合っている方のクロハ会長が、自身の姿を外の一般生徒にさらすまいとするかのように、生徒会室にスシを押し込んで自分も強引に入ろうとした。必死の形相ぎょうそうだった。

「むぶ!」

 クロハ会長は、スシが何か言っても声が外にれないように、両手で胸の谷間にスシの顔面を埋め込んだ。ドアをぴしゃりと閉め、スシを抱きかかえて、ずんずん部屋の中央まで進んだ。そこで解放されたスシは、ぺたんと床に座り込んだ。

 ふたりのクロハ会長は目を見合わせた。

 その場の全員の力が抜けてしまった。短い静寂せいじゃくがあった。

 いきなりカニが、外から入ってきた方のクロハ会長をどやしつけた。

「違うよオロネ! クロハ会長(中身オロネ)じゃなくてマヤ副会長(中身オロネ)だよ!」

「うそ! 暗号の『星』は、会長でしょ!」

「旧暗号は副会長が『雪』で会長が『星』だったけど、新暗号は副会長が『星』で会長が『そら』だよ! 朝に変更になったでしょ!」

「朝に『そうなったら変更』って言ってたから、あたしは、スシくんが実際に仲間になった後に変更だと解釈してたよ!」

 スシにはもうひとりのクロハ会長にしか見えない人物が、カニに「オロネ」と呼ばれて、本人もそれを認めている。ではこの人はオロネとして片付けていいのか。

 何が起きているのか、スシには全貌ぜんぼうがわからなかった。

「何が何で誰が誰? クロハさん・・・」

 部屋に元々いた方のクロハ会長が、観念したように話しだした。

「スシくん。どの道あなたに隠し続けるつもりはなかったし、説明するわね。わたしはオロネちゃんに、マヤ副会長(中身オロネ)に化身してもらうつもりだったの。スシくんが、どおしてもマヤがいないとだめみたいに言うから」

「いや、オレはマヤさんが忙しいなら仕方ないって言ったけど」

 外から来たほうのクロハ会長(中身オロネ)は、生徒会室の内部の、ベニヤの壁で分けられた区画のドアを開け、そそくさと入った。そして4分ほどで出てきた。

 髪がストレートからポニーテールになった。

 前髪は真ん中分けで、変化はない。

 白いソックスが、ダークブラウンのニーハイになった。

 スカート丈が短くなった。

 変装用かとみまがう黒い大きなプラスチックフレームのメガネを外した。

 クロハ会長(中身オロネ)は、外見を整えていたアイテムを総とっかえして、オロネ本人に戻った。

 スシがあんぐりと口を開けた。

 10秒ほどたって、スシはポンと手をたたいた。

「あ、なるほど。スシわかりました。オロネさんがクロハさんに化けていたと」

「わたしクロハ会長としては、オロネちゃんに、マヤ副会長に化身してもらいたかったのよ」

「すると、クロハさんが、オロネさんにマヤさんに化けるよう、オレにないしょで指示するために、背中に字を書いたと」

「化けると言わず、化身すると言ってよ」

「ニセ者のマヤさん、つまりオロネさんをマヤさんに化けさせて、生徒会室に戻そうとしたと」

「ニセ者と言わず、化身すると言ってよ。クロハ会長がふたり重なったのは、我々が化身を実行していく上で、最大クラスのミスです。本来あってはいけないものです」

「オロネが違うことしちゃったの。役員が、一般生徒に知られないように化身を指示する時に使っていた暗号は、書記次長が『花』、書記長が『月』、副会長が『雪』、会長が『星』だったの。でも今朝、スシくんがメンバーに加わることを見越して、シークレットエージェントが『花』、書記次長が『月』、書記長が『雪』、副会長が『星』、会長が『そら』に、変更になったの」

「花・月・雪・星・そらって、どこかで聞いたような並びだなあ」

「あたしはクロハ会長から『星』に化身と指令された。クロハ会長の新暗号では『星』はマヤ副会長(中身オロネ)。でもあたしはスシくんが実際に仲間になってから暗号変更だと思っていたから、旧暗号の『星』、つまりクロハ会長(中身オロネ)に化身した」

「ああ、それでオロネさんは『それだと重なるんじゃ!?』と聞いてたのか」

「あたしはクロハ会長も化身を変更すると思ったし。あたしがクロハ会長(中身オロネ)に化身するのは、これからクロハ会長がいなくなるからそのフォローが目的だと思ったし。指示よりも時間がかかったのは、部屋を出て化身できる場所が少し遠いからと、あたしが化身する場合、マヤ副会長(中身オロネ)よりクロハ会長(中身オロネ)の方が時間が必要だから」

「クロハ会長から繰り返し言わせてもらうと、理由はともあれ、化身で同じ人物が重なってしまうのは、前期生徒会執行部にとって最大クラスのミス。あってはならないこと」

「スシだけど、クロハさん、ちょっと待ってよ。朝に暗号変更を指示しておいたって? それはオレがメンバーに加わる前提だったの?」

「もちろんそうよ」

「でも、オレにメンバー入りを頼むか頼まないかは、この会議で決めてたんじゃないの?」

「そんなの手続き上の問題に決まってるでしょ」

「オレをメンバーにしようというのは・・・」

「結論ありきです。こっちも時間的な余裕はないんだから」

「なっ! そんなミもフタもない」

「わたしらは、スシくんにはそういうことを包み隠さず話したほうがいいと思ってる。スシくんの人間的成長にとっても、こっちの精神衛生上も。化身のことを知られた以上、もうスシくんは一般生徒ではないんだよ?」

「オレがメンバーに加わるかどうかもそうだけど、そもそもスシ思うに、マヤさんでないオロネさんがマヤ副会長に成り済ますとか、どうしてそんな手の込んだことを画策かくさくするのかと。マヤさんが自分で来ればいいでしょ? わざわざオロネさんをマヤさんにしたら、今度はオロネさんがいなくなっちゃうでしょ?」

「成り済ますとか言わずに、化身すると言ってね」

「クロハさんはオレをからかってるの? 本物のマヤさんはどこにいるの?」

「本物のマヤはですね、」

「あーもう! ところどころマヤさんの口調と声色を混ぜるのやめて!」

 クロハ会長は肩をすくめた。

「スシくんにはわかってほしいんだけど、からかっているとかじゃないの。朝も言ったけど、わたしたち前期生徒会執行部は、純粋に人手不足なの」

「人手不足? 確かに役員が4人というのは他校に比べて多くはないけど、でも役職は全部埋まってるんでしょ?」

「表向きは」

「表向きは?」

「今からわたしが話すことは、一般生徒と、教職員のうち校長、教頭などの管理職層には、ないしょね」

「? ないしょって?」

「ないしょはないしょ。泥縄第二高校の前期生徒会執行部は、4月から会長が不在なの」

「いや、いるでしょ? あなた、クロハさんが」

「クロハは、別の高校、あなたの古巣の泥縄第一高校に出向しゅっこうしています」

「出向? 本社に籍を置いたまま子会社で働くサラリーマンみたいに? ・・・。って、じゃ、じゃあ、あなた誰よ!」

 クロハ会長はゆっくり立ち上がると、黒い大きなメガネを外した。


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