6章の4 キラちゃんのあれ、何?
タキがスシをじろっと見た。
キラの反応は薄かった。
「あれえ? キラさん、スシですよ? 2年1組、あなたの隣の席のスシですよ!」
「うん」
「うん、て」
「いや、最後の候補がスシくんなら、特に驚きとかはない」
「えー」
さりげなく届出の書類を出したスシは、タキのせせら笑うような視線を感じ取った。
「キラです。候補者がそろったので、ファーストインプレッションを取材したいんです。でもあたしも候補なので、ここは公平に、候補者以外の人に仕切ってもらえるとありがたいです。質問項目はこの紙に書いておいたから」
「じゃあオロネがやろうか。えー、どれどれ、パラパラ。候補者の皆さん、立候補しようと思ったきっかけはなんですか?」
「現職のクロハ会長(中身マヤ)です。立候補のきっかけは、先ほど申し上げた通りです」
「新人のキラです。前期に続いて2度目の挑戦です。立候補の理由は、前期に異母弟が生徒会長選挙に出たので、あたしも出るかなと。会長か副会長やってみたいなあと思いまして」
「新人のスシです。特に理由は・・・」
カニとオロネが、ギロッとスシをにらんだ。
「あ、うそうそ。微力ながら、学校と生徒が直面する諸問題を解決する助けができれば・・・」
「前回当選するはずだったタキさ。立候補の理由は、オレの告白を断ったクロハとマヤを、会長の権力で強引にでもこっちに振り向かせるためかな」
(スシだけど、えーーっ! コイツ何言ってんの!)
「キラだけど、そういうダメすぎて新聞に出しにくい理由はやめてよ」
「じゃあ家が金持ちだから、にするか」
「怒るよ」
「じゃあ、我こそは生徒会長にふさわしい、だな。もともとこれしか理由はないな」
「オロネから。皆さんの公約ならびに施政方針は?」
「タキは、それはこれから、ここにいるウチの優秀な選挙スタッフに考えてもらう」
(スシだけど、えーっ! コイツ中身ないにも程があるだろ! 今日が告示日じゃないかよ。オレも公約を考えてないから人のことは言えんが・・・)
「新聞には公約は後日発表と書いておきな。手持ちカードは一度には見せられない」
(スシだけど、だいたい選挙スタッフが生徒以外って、なんなんだよ!)
「クロハ会長(中身マヤ)は、とにかく、無理な学校統合によって生徒が不利益を被らないように活動していく。前期から引き続き、これが第一の公約です。その他にもありますが、第一の公約を補完するためのものが多いです」
(スシだけど、こうやって全員で化身しているのが「補完する公約の実行」に当たるんだろうな)
「キラは、学校内にもっと活気があった方がいいと思っています。このたび誕生した校歌を使って、プロモーションを繰り広げていきたいです」
(スシだけど、キラさんてば、人の褌で相撲取るのが上手・・・)
「オロネです。スシくんの公約はなんですか?」
「あ、スシとしては『会長が副会長に指名した異性が就任すると、告白受け入れとみなされる』という慣わしを見直したい、というのはあります」
タキがスシをにらんだ。
「オロネですが、スシくん、それはどうして?」
「だって、せっかく副会長として能力を発揮できる人がいても、そんな慣わしがあると、おちおち引き受けられないでしょ? 会長と副会長はそんな目で見られることなく、純粋に副会長に向いているから頼まれて、彼氏とか彼女とか関係なく職務をこなす、そういうふうにしていかないとダメだと思うんです」
「スシくん、自分ばっかりいい子になろうとしてない?」
「何言ってるのオロネさん。でもまあ、そうなってくれないとオレの場合、副会長になってくれる人がいなそうで困るというのはある」
「ふーん」
クロハ会長(中身マヤ)がスシを、頼もしそうな、それでいてさみしそうな目で見た。
「オロネから。皆さんの座右の銘を教えてください」
「キラは『ペンは剣よりも強し』です」
「クロハ会長(中身マヤ)は『弱気は最大の敵』です」
「スシは『一歩後退、二歩前進』です」
「タキは『人の物はオレの物、オレの物もオレの物』だな」
「オロネから。もう少しマシなことを言ってください」
「じゃあ『金で解決』」
ここはツッコミどころだが、その場の誰もツッコミに行かなかった。
(スシだけど、もう呆れて物も言えん)
「オロネから最後の質問。会長に当選したら、どういう役員選任をしますか?」
「クロハ会長(中身マヤ)は、副会長については、前期に続いてマヤに頼みたいです」
「キラは、今回の選挙を通じて主張をぶつけ合い、能力を感じさせたライバル候補にお願いしようと思っています。魅力ある人が後期生徒会執行部に集うことにもなるし、選挙戦の感情的しこりを残さない効果も期待できるし」
「スシは、そうですねえ。正直、役員選任に協力してくれそうな友達が少ないので、選挙活動と並行して役員選任も考えないとですね。当選するならの話ですけどね。ははは・・・」
カニとオロネがまた、ギロッとスシをにらんだ。
(わあっ、ごめんなさい! でもオレが役員選任で困ってるのは、きみらを頼れないせいもあるでしょうが!)
「タキは、副会長にクロハ、書記長にマヤ、あるいはその逆、までは決めてある」
スシは背中に悪寒が走るのを感じた。ふと目をやると、クロハ会長(中身マヤ)がタキにおびえているのがわかった。
(クロハ会長(中身マヤ)・・・)
スシは、何がなんでもタキ当選だけは阻止する、と心に誓った。
インタビューが終わって、タキとキラは生徒会室を出て行った。キラは、去り際にスシにウインクを投げていった。
(オロネだけど、キラちゃんのあれ、何?)
(クロハ会長(中身マヤ)だけど、キラちゃんのあれ、何?)
明くる日、選挙活動初日。スシが放課後、自分のコメントが載った学校新聞を手に、漫然と学校敷地内を歩いていると、本物の選挙に使うようなワンボックスカーに出くわした。
「うわー! なんだなんだ?」
選挙カーの窓からタキが顔を出していた。スピーカーから、昨日会った20歳代ウグイス嬢の声がとどろいた。
「皆さまの生徒会長候補、タキです。タキがごあいさつに参りました。タキ、タキです。ありがとうございます。前回惜しくも敗れたタキ、タキを今度こそ男にしてやってください。生徒の皆さまの不安を取り除く、充実した施策。タキ、タキを、どうぞよろしくお願いします」
スシがびびっていると、今度はキラの選挙カーが通りかかった。屋根なしのスポーツタイプの車に継父と一緒に乗っていた。こっちはカッティングシートを貼り付けてめちゃめちゃセンスよく「キラ」の文字がデコってあり、一度見たら忘れられない車だ。
「キラでーす! 会長選挙は学校の中だし、本当は自動車に頼らず足で地道に活動する方がエコです。でも、やりすぎの候補者への対抗上、父に仕事を休んでもらって選挙カー出してもらってます。キラでーす!」
呆然としているスシの前に、キラの選挙カーが止まった。
「スシくんご機嫌いかが? キラは、あなたとは正々堂々と戦いたいな」
「いやいやいや、選挙カーってすごいね。キラさんのパパさん、(スシとしては)初めまして」
「ウイ。いつもキラがお世話になっています。キラは家で、隣の席のボーイは体育の授業で活躍しているとか、目をきらきらさせて話してます」
「何言ってるのよ、もう、パパちゃん」
「スシは、ほんと、選挙カーねえ。純粋にすごいとしか思えん」
「本当はこんなことしたくないんだけど、あっちがやってくるからね」
「もうこれは、泥縄第二の会長選挙では常識なの?」
「この学校の会長選挙は、公職選挙法に準じてやることになってるでしょ? 法律によると、車を使えば候補者名の連呼が可能になる(公職選挙法一四〇条の二①)。有利になって法律で認められているならやろう、ってなっちゃう」
「法律というなら、選挙運動は一四〇条の二②で『学校の周辺では静穏を保持するように努めなくてはいけない』となっている気も・・・」
「でもそれじゃあ校内で選挙活動自体できなくなるじゃない。ねえ、スシくんもバイク出したら?」
「えー。そしたらクロハ会長(中身マヤ)だけ選挙カーなしになっちゃうから、いいよ」
「スシくんて、クロハ会長とマヤちゃんには優しいね!」
「・・・」
キラの選挙カーは走り去った。




