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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
6章 一緒に墓参りに行くといいよ
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6章の1 オロネがそんなこと言うのは慣れっこ

 2学期が始まった9月、生徒会長選挙まであと1週間という日の放課後。泥縄第二高の生徒は、まだ衣替えはしておらず、夏服だった。

 普段はマヤ副会長(中身スシ)ないしクロハ会長(中身スシ)化身で生徒会室に行くスシなのだが、この日はカニの言い付けで、スシの姿のまま向かっていた。

「スシ、入ります」

 周囲を見渡して、そっとドアを開けてスシが部屋に入ると、すでにクロハ会長(中身マヤ)、カニ、オロネが顔をそろえていた。

「クロハ会長(中身マヤ)だけど、どおしたのスシくん? 誰にも化身しない、の姿で来るなんて!」

 カニが、ちらっとスシを見た。

(いやカニくん、わかってるって。オレがマヤ副会長(中身スシ)化身で来ないようにしたの、クロハ会長(中身マヤ)には言わないよ)

 この日は、後期生徒会長選挙の立候補受け付けの日だった。

 立候補者が、届け出先である生徒会室にいきなり来ないよう、カニが午前中に校内放送で、受け付け開始を1時間()り下げておいた。しかし一般生徒は、言う通りに動く連中ばかりではない。クロハ会長(中身マヤ)は、部屋で役員でないスシを目撃されることを心配していた。

 スシやオロネが「何か言った方がいいんだけど、何の話がいいかしら」という顔をしていたところ、校内放送が入った。

「生徒会副会長のマヤさん、副会長のマヤさん、職員室のキクハまで来てください」

 クロハ会長(中身マヤ)は怪訝けげんそうな顔をした。

「何? 会長でなくて副会長を呼び出すなんて。しかも、うちらの内情を一番知っているキクハ先生がわざわざ・・・」

 クロハ会長(中身マヤ)は、サスペンスドラマの導入部のようなセリフをひとしきりしゃべったあと、しぶしぶ別区画秘密化身室で化身解除した。4分ほどでマヤに戻り、生徒会室を出て職員室に向かった。

「カニだけど。よし、マヤちゃんは出て行った。さあスシくん、ボクらと一緒に生徒会室の向かいの校舎の屋上に行こう」

「えー、何それ?」

 スシは、カニが何をたくらんでいるのかわからなかったが、ちょっといけないことをするようでドキドキした。カニ、オロネとともに、3階の生徒会室のちょうど反対側、向かいの校舎の2階屋上へいそいそと向かった。

「マヤちゃん、すぐ戻ってきちゃうから。ほら、急ぐ、急ぐ」

「?」

 3人は、けっこう離れた校舎の最上部に着いた。カニが、キクハを通じて借りた合鍵で、屋上に出られるドアを開けた。

「カニくん、一体どうしたの?」

「カニとしては、クロハ会長(中身マヤ)とマヤちゃんが、今どんなことになっているか、スシくんに知ってもらいたいんだ」

「え、じゃあキクハ先生に、マヤさんをおびき出すように頼んだの?」

「おびき出すとは人聞き悪いな。でもまあ、そう」

 そうこうするうちに、生徒会室にマヤが戻ってきた。

「ほら、やっぱりすぐ戻って来た。キクハ先生って、マヤちゃんの引っ張り方が淡白だから」

「キクハ先生が時として必要以上にサラッとしているのは本当だけど、今回はとくに理由なく呼び出すのも大変だったろうし、そんなふうに言わなくても」

「オロネだけど、スシくん、ほら、マヤちゃんを見てみて」

「うん」

 ちょっと遠かったが、スシは生徒会室の窓からマヤを観察した。

「あれ?」

「スシくん、わかった?」

「マヤさんの目つきが違う」

「そうそう」

「あれはクロハ会長(中身マヤ)の目つきだ」

「そうそう。すぐ見抜いたね。さすが、マヤちゃんに特別な感情を抱いているだけある」

「オロネさん、それどういう言い方かな?」

「まんまだよ」

 3人が遠くから見つめる中、マヤは椅子いすにかけ、机に突っ伏して頭を抱えた。かと思うと何かブツブツ言ったかと思ったら、両手で自分の顔をばんばんたたいてみたり、うろうろ歩き回ったり、壁をドンドン叩き始めた。

 スシは、最近クロハ会長(中身マヤ)とばかり会っていてマヤそのものの変化に気付かなかった自分を恥じた。

「ねえ、カニくん、オロネさん。マヤさんのあれ、クロハ会長(中身マヤ)の芸風げいふうそのものじゃないかなあ」

「オロネは思うけど、あれが『役が抜けない』というやつではないかしら」

「ああして役員が不在で放置されるとマヤちゃんがどうなるか、ボクたちも何度も見ているわけじゃないけど、マヤちゃんは別々のキャラクターがうまく整理しきれなくなっていて、短時間で化身を切り替えるのが難しくなっているんだと思う。誰もいないと、ああやって精神的な葛藤かっとうを隠さずに、化身を切り替えてるんだと思う」

「ええっ! 誰かに化身するのが難しいならわかるけど、自分自身に戻るのが難しいなんて!」

 スシは動揺した。そして以前カニから聞かされた、化身に関する恐ろしい話を思い出した。

(「役に成り切る」というレベルより深刻なんだ。当人に自覚のないまま、当人の生来せいらいの人間性が化身のキャラに飲み込まれて失われてしまうんだ。そうなったら、化身のキャラが抜けないまま過ごすか、当人の生来のキャラに逆に違和感をずっと感じながら過ごすはめになる。それは本来の自分の「死」とも言えるだろう)

「スシくん」

「あ、はい」

「カニは思うけど、マヤちゃんは、学校統合の危機、生徒による予算関係の執行部批判、化身の秘密保持、来週に迫った後期会長選挙でクロハ会長(中身マヤ)を再選させなくてはいけない、といった強いプレッシャーに、もっとも責任の重い立場でさらされ続けてきた」

「・・・うん」

「スシくん、オロネから言うとね、あたしとクロハちゃんとは、上半身の幅がちょっと違っててね・・・」

「ああ、オロネさんはグラマラスで、クロハさんはスレンダーということね」

「上着がない夏服だと違いがごまかしにくくて、あたしは、夏場はクロハ会長(中身オロネ)への化身シフトにあんまり入れないのね」

「へえ、だからオレは春先よりクロハ会長(中身スシ)の化身シフトが増えてたのか」

「あたしがマヤちゃんに負担を掛けてしまっていた部分もあるので・・・」

「でも、そんなの、オロネさんのせいじゃないでしょ。夏場に冬服着て歩いたら、応援団か変な人だもの」

「そこでカニから。どうだろうスシくん、もうこの辺で、きみの好きなマヤちゃんを解放してあげるというのは」

「オロネも、マヤちゃんはスシくんが救ってあげてほしいと思ってる」

「うん。オレはマヤさんからの頼まれごとを全部こなして、助けてあげたいとつねづね思っているけど。というか、頼まれなくても助けたいと思うけど。でもどうやったら助けてあげられる?」

「きみが後期会長選挙に出て当選するんだ」

「えーっ!」

「オロネも精一杯応援するから」

「で、でも、前期執行部はクロハ会長(中身マヤ)再選のために頑張ってきたわけじゃないか。オレが当選しちゃったら、ぶち壊しだ。マヤさんにも嫌われる」

「オロネだけど、こういう時、まず当選の心配からするのはスシくんらしいね。でもマヤちゃんが今どんなか、見たでしょ? マヤちゃんに嫌われるとか、そんな小さいことを言ってほしくない」

「えーっ、小さくはないでしょ」

「マヤちゃんには、うまいこと言えば嫌われないで済むわ。もしそれでも嫌われちゃったら、クロハちゃんにスシくんの彼女になってくれるよう、あたしが説得する」

「何言ってるのさ!」

「あたしはもう2期役員をやったから、会長スシくんの役員には選んでもらえない。スシくんには、マヤちゃんかクロハちゃんと一緒に、執行部をやっていってほしい。二人のどっちかは絶対スシくんの副会長になると思うし、あたしが説得する自信はある。それでも万が一スシくんが両方にふられたら、しょうがない、あたしが責任持ってスシくんの彼女になります」

「えーっ! オロネさんってば! カニくんも何か言ってやってよ!」

 カニは涼しい目をしていた。

「なんだいカニくん! その『オロネがそんなこと言うのは慣れっこ』みたいな顔は!」

「オロネと付き合うなら、最初はオロネがマヤ副会長(中身オロネ)に化身している間の付き合いから始めて、徐々に拡大していくのがいいんじゃないかな」

「彼氏なのに、なにひとごとみたいに言ってんのさ! だいたいオロネさん、副会長を受けるよう説得するなんて、それじゃあ重圧かけて意に添わない副会長に就任しゅうにんさせるのと変わらないでしょ? それで過去にもいろいろ不幸なことがあったんでしょ?」


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