5章の5 感動した! しかも結構いい曲そう!
生徒会室にひとり残されたキラは、あちこち調べだした。別区画のドアもノックした。中でうっかり返事をしそうになったカニが、懸命に口を手で押さえた。
次のターンで役員3人は、クロハ会長(中身マヤ)、マヤ副会長(中身スシ)、カニ書記長(中身クロハ)、オロネのシフトとなって生徒会室に戻った。
「キラさん、マヤ副会長(中身スシ)としては、Bメロはリロリロリーみたいな」
また10分間過ぎて、役員とシークレットは生徒会室を出た。次のターンで、クロハ会長(中身オロネ)、マヤ、カニ書記長(中身スシ)、オロネ書記次長(中身クロハ)のシフトで戻った。
「カニ書記長(中身スシ)としては、サビはルーロルロロ的な」
「キラ思うに、すごい! 役員の総力で校歌を作っているのね! それぞれが考えたフレーズをつなぎ合わせて一つのメロディーに! 感動した! しかも結構いい曲そう!」
カニ書記長(中身スシ)は「キラさんってけっこう感激屋さんなんだな」と思った。少したってから「でも本当はみんなで考えてるんじゃなくて、オレ一人が搾取されているんだよ」と思って、トホホな表情になった。
また10分間過ぎた。次のターンでクロハ、マヤ副会長(中身オロネ)、カニ書記長(中身マヤ)、オロネ書記次長(中身スシ)のシフトで生徒会室に戻ると、キラは慣れたのか、特に反応しなくなった。
また10分間過ぎた。次のターンでクロハ会長(中身スシ)、マヤ副会長(中身クロハ)、カニ書記長(中身オロネ)、オロネ書記次長(中身マヤ)のシフトで生徒会室に戻ると、やっとキラがいなくなっていた。
(あ、そうだ。スシ思うに、マヤさんをデートに誘わなきゃ。でもどうすればいいんだろ? オレは今、クロハ会長(中身スシ)化身。これでマヤ副会長(中身クロハ)を誘ってOKをもらうと、明日クロハさんとマヤさんがデートすることになるのか?)
どうしたらいいかとクロハ会長(中身スシ)が困っていると、別区画秘密化身室から、シークレットエージェント・スシ(中身カニ)に化身したカニが出てきた。
(カニくんナイス! これでローテーションが進めば、どこかでオレがスシに戻れるターンがある。その時にマヤさんを誘えばいいや)
シークレットエージェント化身がローテーションに仲間入りし、5人で回すことになった。次のターンで、クロハ会長(中身マヤ)、マヤ副会長(中身スシ)、カニ書記長(中身クロハ)、オロネのシフトとなった後、会長化身と副会長化身の間にシークレットエージェント・スシ(中身カニ)化身が追加され、順番は会長→シークレットエージェント→副会長→書記長→書記次長となった。普段ファッション系業界人のようにロン毛を後ろで束ねているカニは、髪が短いシークレットエージェント・スシ(中身カニ)に化身するのに、目立たない黒色のヘアピンをこれでもかと多用して、外見の髪のボリュームを調整していた。
また10分間過ぎた。次のターンはクロハ会長(中身オロネ)、シークレットエージェント・スシ(中身マヤ)、マヤ副会長(中身カニ)、カニ書記長(中身スシ)、オロネ書記次長(中身クロハ)のシフト。化身経験が少ないはずのクロハは、ここまでマヤ副会長、カニ書記長、オロネ書記次長とそつなくこなした。その実力に、カニ書記長(中身スシ)は舌を巻いた。
次のターンはクロハ、シークレットエージェント・スシ(中身オロネ)、マヤ、カニ、オロネ書記次長(中身スシ)のシフト。オロネ書記次長(中身スシ)は、クロハに話を振った。
「クロハさんは向こうで普段どうやって過ごしているの?」
「スシくんも前にいたところだし、学校生活自体は想像つくでしょ? そうね、わたしは向こうでは、クロハでない別の人が転入してきた設定になっているの。両方の学校に同一人物がいるのはまずいから」
「なんて名乗っているの?」
「・・・。・・・」
クロハは、別の名を進んで教えたくない、というふうだった。オロネ書記次長(中身スシ)がきらきらした目で見つめるので、観念したように別の名を口にした。
「その、ね。・・・。クモハ」
「ほう」
そこまでして言わせたわりに、オロネ書記次長(中身スシ)のリアクションは薄かった。クロハは少しさみしそうな顔をした。
「クロハ思うに、クロハというのもそんなにいい名前じゃないけど、クモハ・・・」
「いや、スシよりはいいですって」
「とにかく、クロハ本人そのものではない人生を送っている感じかしら。ほとんど地ではあるけれど、毎日、常に化身している感じかな」
(苦労しているのは、いつも会長に化身しているマヤさんだけじゃないんだ。オレがクロハさんとマヤさんの苦労の原因なのは間違いない。やれることはやらないと、だめだよな)
下校時刻まで20分程度となった。生徒会役員とはいえ、一般生徒の手前、理由もなく校内に残るわけにはいかない。カニとシークレットエージェント・スシ(中身オロネ)は、オロネ書記次長(中身スシ)に「とっととマヤちゃんをデートに誘え」と、目で圧力をかけた。
(カニくん、オロネさん。次の次がオレがスシに戻れるターンだから、そこで誘うよ)
次のターンはクロハ会長(中身スシ)、シークレットエージェント・スシ(中身クロハ)、マヤ副会長(中身オロネ)、カニ書記長(中身マヤ)、オロネ書記次長(中身カニ)のシフト。
クロハ会長(中身スシ)は、ここで重大なことに気付いた。
(ああっ! オレは次のターンでやっとスシに戻れるけど、その時マヤ副会長(中身クロハ)の中身は、マヤさん本人でなくてクロハさんだ!)
クロハ会長(中身スシ)は脂汗を流した。
(この順で5人でローテーションを回す限り、どう頑張ってもオレがオレでマヤさんがマヤさんになることは、なかったんだ!)
オロネ書記次長(中身カニ)とマヤ副会長(中身オロネ)は「マヤ副会長化身の中身が誰でも、構わず誘え。校歌作りが口実なら、たとえ中身がクロハちゃんでも誘いを断わることはない。化身がOKすれば、実物もその通りに行動しなくてはならない、それが化身の道!」という、少し長い念をクロハ会長(中身スシ)に送って来た。クロハ会長(中身スシ)が理解したか定かでなかった。
また10分間過ぎた。下校まで残り10分を切っており、これがローテーション最終ターン。クロハ会長(中身カニ)、スシ、マヤ副会長(中身クロハ)、カニ書記長(中身オロネ)、オロネ書記次長(中身マヤ)のシフトとなった。
スシはついに本人の姿のターンを迎えた。
「クロハ会長(中身カニ)だけど、スシくんは、マヤちゃんに言いたいことがあるんじゃないの?」
「カニ書記長(中身オロネ)だけど、さっきからスシくんは、マヤちゃんに何か言いたいことがある顔をしている」
(カニくん、オロネさん、何その助け舟みたいなの。ありがたくないし)
マヤ副会長(中身クロハ)とオロネ書記次長(中身マヤ)が、両方ともスシの方を見た。
「えー、わかったよ、わかりました。あのう、マヤさん。校歌作りの締め切りまで日がないし、一人で作ってても進みにくいし。そこでマヤさん、明日オレと一緒にどこかに出掛けて、校歌作りを手伝ってもらえはしないでしょうか!」
(うーっ、言っちゃった)
マヤ副会長(中身クロハ)とオロネ書記次長(中身マヤ)は、両名とも目を丸くして、互いに顔を見合わせた。「どっちがどう返事していいのか」と迷う様子がありありだった。
数秒の沈黙があった。
「・・・。コホン。ではわたしマヤ副会長(中身クロハ)がお答えします。スシくんの趣旨はわかるし、マヤのような立場の人がそういう目的でスシくんと一緒に出掛けることは、一般的にはあり得ると思いますが、わたしには明日のマヤ本人の都合がわかりません。わたしが約束してマヤに行けとは言いづらいです。なので、その申し出には・・・」
(あー、やっぱり断られるか。まあ仕方ない。中身は違う人だし)
「その申し出には・・・、クロハを代理として向かわせますので、ご了承ください」
「へ? なんですって?」
「ですから、マヤでなくてクロハが行きます」
「それって・・・」
「そういうの、スシくんはいや?」
「いやだなんてそんな・・・、あ」
スシはオロネ書記次長(中身マヤ)の方を見ないようにしていて、オロネ書記次長(中身マヤ)のほうも一言も発していない。それなのにスシには、オロネ書記次長(中身マヤ)が猛烈に怒っているのがわかった。これが「怒りのオーラ」というやつか。スシは「マヤさんは今、オロネ書記次長(中身マヤ)に化身しているから、オロネさんと同じリアクションを取るべきだ。オロネさんにとっては怒るところでないから、マヤさんがそこまで怒るのはアリなのか?」と内心強がってみた。しかしマヤの怒りようはとにかく怖くて、スシはぶるぶる震えた。
「マヤ副会長(中身クロハ)から。スシくん、明日午前10時、マヤの家とわたしの実家の中間あたりのファミレスでいいかしら」
デート自体は自分から言い出したので、スシはマヤ副会長(中身クロハ)の集合時刻・場所の申し出に、うなずくしかなかった。
(あれ、待てよ? 明日は元々、マヤさんをマヤさんに戻そうということで、マヤさんがクロハ会長(中身マヤ)に化身しないようにマヤさんを誘い出して、そのついでに校歌の歌詞を作るのではなかったのか? だとすると、クロハさんがこっちに来た時点で、実行する意味が薄れていたのではないか?)
オロネ書記次長(中身マヤ)を中心に不穏な空気の中、下校時刻が来て解散となった。
スシは黄緑色のバイクでマヤを家まで送ろうとしたが、マヤはぷいっと姿を消していたので、すごすごと一人で帰った。




