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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
5章 校歌には「学」「山」「川」「若」「空」とか入れるといいよ
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5章の2 訓練のための訓練に意味はないわ

(ロ、ロ、ロ、ローテーション化身だあ?)

 カニ書記長(中身スシ)は、げんなりした。「ローテーション化身」というと言葉はカッコ良くても、何かとてつもなく化身の苦労を倍増させる響きに思えた。

「クロハ会長(中身マヤ)続けます。ローテーション化身を一言で説明すると、AさんがBさんに化身、BさんがCさんに化身、CさんがAさんに化身というように、円環えんかん状に単位時間ごとに一斉に交代していく、というもの。バレーボールのサービスローテーションや、プロ野球の先発投手ローテーションをイメージしてもらうといいわ」

 カニ書記長(中身スシ)は、自分が「ローテーション(回転)」でなく「ローテンション(低いテンション)」なのを隠そうとしなかった。

「今までの化身は、ある人とある人が交代するという、1対1の局地的なもの。そのため、トラブルなどで化身に入れない人が出ると、とっさに対応を迫られる。誰が埋めるかの意思いし決定で判断ミスや、意思決定を伝える上でのミスが起こりやすく、破綻はたんにつながりかねない」

「カニ書記長(中身スシ)は思いますけど、まあ確かに生徒総会の時とかは、それで危なかったのかも」

「これに対してローテーション化身は、円環状に化身を交代していく。担当交代の順番が固定されている。次は誰に化身するかあらかじめ決まっているので、物心ぶっしん両面で準備がしやすい。トラブルで化身の担当者が途中で抜けても、ローテーションの前や後ろの人が補うことができる。『特定のひとりが長時間不在』という事態を避けられるメリットがあるの」

「何か言いくるめられている気がするけど」

「クロハ会長(中身マヤ)からの説明はこの辺で、じゃあ、さっそく練習しましょう」

「マヤ副会長(中身オロネ)だけど、今から?」

「うん。今から」

 有無を言わさぬクロハ会長(中身マヤ)の呼びかけに、マヤ副会長(中身オロネ)はカニ書記長(中身スシ)に微笑ほほえみかけ、その背中に指で文字を書いた。

(? なになに? 「ス・シ・く・ん・も・う・け・た・ね」? え? オロネさん、オレが何をもうけたって?)

「クロハ会長(中身マヤ)だけど。カニ書記長(中身スシ)、何やってんのよ!」

「えー、字を書かれてる方が怒られるの?」

 カニ書記長(中身スシ)とオロネ書記次長(中身カニ)の男手おとこで(外見は男と女)は、「やれやれ」という顔で、生徒会室のドアの内側に机と椅子いすを積み上げようとした。

「クロハ会長(中身マヤ)だけど、カニくん、スシくん、何してるの?」

「オロネ書記次長(中身カニ)だけど、ローテーションの練習中に部外者に入って来られるとやっかいなので」

「カニ書記長(中身スシ)だけど、こうやって机を積み上げて、ドアがこっち側に開かないようにしようと」

 クロハ会長(中身マヤ)は、ふたりをじろっと見た。

「カニくん、スシくん。確かに練習中に生徒会室に部外者が来るかもしれない。でもローテーション化身の実際の運用では、どうせ一般生徒の前でやることになるわけでしょ? 練習のときもバリケードなどない方が、適度な緊張感があって実のあるものになると思わない? 訓練のための訓練に意味はないわ」

 カニ書記長(中身スシ)とオロネ書記次長(中身カニ)は目を見合わせた。2人とも「クロハ会長(中身マヤ)は、化身に関することだと熱心だなあ。最後ちょっとカッコいいこと言ったのが、逆に心配といえば心配だけどなあ。すぐ始めたいみたいだし、仕方ないか」と思って、おとなしく机と椅子を元に戻した。その辺は慣れたものだった。

「クロハ会長(中身マヤ)から。最初だから、ローテーションは10分間で交代ね。順番は、そうね、時計回りに会長・副会長・書記長・書記次長・また会長という並びにして、中身の人も時計回りに進んでいくにしましょうか。会長化身をやったら次は副会長。そして書記長、書記次長と進んでいって、次はまた会長ね」

 「じゃあ始めるか」となって、4人一度に生徒会室別区画の秘密化身室に入った。さすがにせまかった。

「えーと、今カニ書記長(中身スシ)であるところのオレ、スシは、次はオロネ書記次長(中身スシ)に化身する、と」

 4人がローテーションで担当を変えるが、男子化身から男子化身、女子化身から女子化身の場合は制服の交換は省略する流れになった。並びは

クロハ会長(中身マヤ)・マヤ副会長(中身オロネ)・カニ書記長(中身スシ)・オロネ書記次長(中身カニ)

 から

クロハ会長(中身カニ)・マヤ本人・カニ書記長(中身オロネ)・オロネ書記次長(中身スシ)

 となるので、男子制服から女子制服に変わるスシと、女子制服から男子制服に変わるオロネだけが制服を交換すればいいことになる。

 スシは着ていた男子制服夏服一式(シャツ・スラックス・ソックス)を手早く脱いで、次にオロネ書記次長に化身するカニに渡そうとした。

「うわっ!」

 スシはびっくりした。オロネはブラとショーツだけしか身に着けていなかった。

(カ、カニくんは? あれっ? もう秘密化身室から出てるよ! なんてソツのない!)

 スシは、あられもない姿のオロネを直視ちょくしできず、行動がもたもたした。そんなスシを、オロネがからかった。

「あはは。スシくん任務遂行(すいこう)! ちゃんと目を開けて急ぐ、急ぐ!」

 オロネのセリフを聞いて、マヤへ化身解除中のクロハ会長(中身マヤ)が引きつった顔をしたのが、スシにもわかった。

 クロハ会長(中身マヤ)は男子の目を防ぐかのように、しっかり長めのキャミソールを身に着けていた。

 オロネはこの日、スシと同時に別区画秘密化身室に入ることを、あらかじめ聞かされていなかった。マヤは「唐突とうとつな決定事項に自分だけ備えていた。ずるい」と言われても仕方ない。

 オロネは女子化身から男子化身。制服交換のあと、正統な化身手順に従うなら、次はバストの男子の外観への偽装だ。サイズ変更のため、ブラを外すことになる。

「あっ・・・」

 クロハ会長(中身マヤ)は「やだ、どうしよう」という顔をした。

 カニは、マヤのバストサイズ調整が始まるより前に、素早く秘密化身室から脱出している。ここにいる男子は、オロネ書記次長(中身スシ)化身があと少しで完了するスシだけだ。その目前でオロネが、躊躇ちゅうちょなくブラの背中ホックに手をかけた。

 いたたまれなくなったクロハ会長(中身マヤ)が、オロネ書記次長(中身スシ)を、秘密化身室のドアに向かってり飛ばした。

「いてっ!」

 オロネ書記次長(中身スシ)がぶつかって秘密化身室のドアが開いた。倒れ込んで秘密化身室から首だけ出したオロネ書記次長(中身スシ)は、クロハ会長(中身マヤ)に蹴られた尻をさすりながら、ニーハイを太ももまで上げて化身の完成を急いだ。そして何事もなかったかのような顔をして、自分の席に着いた。

 クロハ会長(中身カニ)は先に席に戻っており、間もなくマヤとカニ書記長(中身オロネ)も席に着いた。


 全員、何かを言い出しにくそうだった。


 化身に時間がかかったせいで、すぐ次のローテーションになってしまった。

 4人は「もう次なのか」という顔をしながら、別区画秘密化身室へ入った。次のターンはクロハ会長(中身スシ)、マヤ副会長(中身カニ)、カニ書記長(中身マヤ)、オロネというシフト。

 スシはオロネ書記次長(中身スシ)からクロハ会長(中身スシ)へ。女子から女子なので制服はそのまま。ブラウスの前ボタンをいったん外して胸パッドを無造作むぞうさに数枚抜く。ウィッグはポニーテールのオロネ書記次長用からストレートヘアのクロハ会長/マヤ副会長用(前髪はクロハ会長の真ん中分けにモディファイ済み)へ交換、ヘアスタイル微調整。会長化身用の黒いメガネとネックレス着用。デオドラントをクロハと同銘柄どうめいがらに変更。

 クロハ会長(中身スシ)は、同じく女子から女子への化身変換だったマヤ副会長(中身カニ)ともども、素早く別区画秘密化身室を出た。マヤが女子から男子への、オロネが男子から女子への化身変換で、ともにブラの着脱まですることに配慮した。

 クロハ会長(中身スシ)とマヤ副会長(中身カニ)が、秘密化身室からカニ書記長(中身マヤ)とオロネが出て来るのを待っていると、生徒会室のドアをいきなり開ける者があった。

「いやー、こんにちは。地元ローカルテレビ局の者ですが、取材に来ましたよ」

 テレビ取材カメラクルー4人が、生徒会担当教師のキクハと一緒に入って来た。クロハ会長(中身スシ)は「何ごとだ!」と焦った。

(なんで入ってくんのよ。まだ秘密化身室に2人残ってるのに!)

 向かってくるキクハと取材クルーを、クロハ会長(中身スシ)とマヤ副会長(中身カニ)は「まあ、まあ、まあ」という、なだめるような発声とともに、両手で部屋の外へ押し出した。そのまま、窓から甲子園関連のビデオリポート撮影にぴったりの、窓から野球部の練習が見えるロケーションの第二理科室へと強引に誘導した。

 ほどなく、別区画秘密化身室を脱出したカニ書記長(中身マヤ)とオロネも合流した。

 クロハ会長(中身スシ)は「ほら、やっぱり部外者が来たじゃんか」という目でカニ書記長(中身マヤ)を見た。カニ書記長(中身マヤ)はあさっての方を向いた。

 クロハ会長(中身スシ)は思った。これは自分にとって、かなりな窮地きゅうちではないのか? たまたまその時クロハ会長の化身担当だったというだけで、前期執行部を代表してテレビ取材に応じなくてはならないのか?

「ひそひそ、ねえカニ書記長(中身マヤ)、ローテーション練習を言い出したのは、オレに取材対応させるのが目的?」

「ひそひそ、やーね、そんなことないわよ。取材が来る時にちょうどスシくんがクロハ会長(中身スシ)化身かまでは、わからなかったし」

「ひそひそ、自分に当たる確率を減らす意図はあったと。会長の声色ができないカニくんに当たってたら、どうしてたのよ」

「ひそひそ、そうなってたら、スシくんとカニくんで席を外してもらって、入れ替わってもらおうかと」

「ひそひそ、オレに当たる確率、2倍じゃないの」

「ひそひそ、ごちゃごちゃ言って。何よ、マヤが頼めば、なんでも文句言わずに引き受けるくせに」

「ひそひそ、クロハ会長(中身マヤ)から頼まれても、いつも結局やってるでしょうが」

「ひそひそ、キクハだけど、どうしたのよクロハ会長、中身は誰か知らないけど。取材があることを全員に伝えてくれてないの?」

「ひそひそ、クロハ会長(中身スシ)のスシです。オレは本来、伝えてもらう側です」

「ひそひそ、カニ書記長(中身マヤ)ですが、取材のことは、役員には言いました」

「ひそひそ、非正規差別反対! オレにも言っておいてよ!」

「ひそひそ、スシくんは今、クロハ会長(中身スシ)。『オレ』と言うな、『わたし』と言え」

(くそー、またもむちゃぶり!)


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