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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
4章 一つ屋根の下に暮らすといいよ
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4章の4 そのふたりには、そんなにこだわりはない

「マヤですけど、スシくん、そんなこと言わないでください。スシくんさえ逃がすことができれば、この際、わたしたちはどうなっても」

「3組の一般女子(配役・オロネ)は思うけど、でも、これは有力な作戦かも。では続きを。マヤちゃんが『わかりました、あやしいかどうか調べてください』と言って、注意を引いたとこから。はい!」

「オロネ(配役・クロハ会長(中身スシ))です。マヤさんと一緒にたてになっている間に、クロハ会長(中身スシ)が『ごめんねマヤさん、オロネさん。この恩は一生忘れない』と言いつつ、後ろをそーっとすり抜けようとする」

「3組の一般女子(配役・オロネ)を始めとする、2クラス分の女子をかき分けて進むクロハ会長(中身スシ)。これはクロハ会長(中身スシ)がオロネと二役ね」

「やだ! クロハ会長(中身スシ)だけど、ちょっと通して!」

「スシくん、細かい芝居がうまいね。そこはやっぱり、そーっとは通れないか。ここで3組の一般女子(配役・オロネ)が、ほこらしげに声を上げる。おーい、レサ(配役・マヤ)ちゃーん、クロハさん見っけ」

「いや! クロハ会長(中身スシ)だけど、離して!」

「でも、その望みは聞き入れられない。はい、ここでレサ(配役・マヤ)ちゃん」

「レサ(配役・マヤ)だけど、そういえばあたし、1年の時にオロネちゃんとマヤちゃんとは脱がしっこしたことある。だから今ここで、そのふたりにはそんなにこだわりはない。クロハ会長(中身スシ)(配役・クロハ会長(中身スシ))に近づくレサ(配役・マヤ)。あっ、クロハさんだ。こんな上玉じょうだま獲物えものが、向こうの方から飛び込んでくるなんて!」

「ちょっとちょっと、クロハ会長(中身スシ)ですけど、マヤさんってば、レサさんにそんなことされたんですか? レサさんって、そこまで危ない人なんですか?」

「はい・・・。レサちゃんは、男子にはそんな面は一切見せないけど、だいたいそんなもんだと思います」

「・・・」

「はい、シミュレーション終了。オロネ、クロハ会長(中身スシ)、マヤちゃんの配役をく。各自、本人か化身に戻る。・・・。オロネ思うに、うちら3人の力だけでは、上がり目ないね・・・」

「わーん! わたしのせいです!」

 マヤは泣き出してしまった。

「クロハ会長(中身スシ)ですけど、それは違います。オレが自分で着替えて、マヤさんが着替える時間を作れば良かったんです。オレのせいなんです」

「それはオロネもそう思う。いかなるときでも、スシくんが化身の胸調整とかを自力でできるようにしておいても、ばちは当たらなかったかな」

「ごめん」

「でもこれを教訓として、次からちゃんとできるように練習すればいいよ」

「次ね・・・」

「マヤですけど、わーん!」

 マヤの泣き方は、火がついたように激しくなった。

「うえーん! もう次なんてないです! 6時間目の前に3組・4組がここに入ってきて、スシくんがひんかれて、男性だとばれて、化身の行状ぎょうじょう白日はくじつもとにさらされます! 一般生徒の好奇と疑念の視線が突き刺さるんです! うえーん! やっぱりスシくんに、わたしの水着脱がせてもらえばよかったんです、うわーん!」

「だから、オレがマヤさんを脱がすとか、ないですから」

「うえーん!」

「ねえ、マヤさん、クロハ会長(中身スシ)は思うけど、まだ望みはある」

「オロネもそう思う」

 クロハ会長(中身スシ)とオロネは、共通の人物を思い描いていた。

 この日、付け人役を務めている、カニその人であった。


 女子更衣室のドアを激しくたたく音がした。


 オロネが外に向かって怒鳴った。

「カニ! 遅い!」

「オロネ、聞こえる? スシくんとマヤちゃんもいる?」

「いるよ!」

「ちょっと待ってて! 体育教官室から鍵を持って来るから」

 クロハ会長(中身スシ)とマヤは、抱き合って喜んだ。

 クロハ会長(中身スシ)は、カニの頼もしさと、女子更衣室を物ともしない行動力に、熱い思いがこみ上げた。


 カニが鍵を持って来るのを待つ間、3人は並んで体育座りをしたまま、世間話をしていた。

「クロハ会長(中身スシ)思うに、オロネさんとカニくんって、いつからつき合ってるの?」

「オロネ思うに、おっと直球だねえ、スシくん」

「クロハ会長(中身スシ)だよ」

 マヤは、オロネとカニのエピソードはよく知っていたので、みょうにおとなしくしていた。

「そうだねえ、あたしとカニが初めて会ったのは、お互い5歳の時ね」

「へー、幼稚園の初恋が実ったの?」

「うちは家庭が複雑でね。あたしとカニが5歳の時、親同士が再婚したの」

「へー。・・・。・・・。え、ということは、2人はきょうだいなの?」

「でもその親同士も、去年離婚したの。親権しんけんは実の子をそれぞれ持つということだったのね」

「じゃあ今は他人なんだ。それで恋人になれたんだね。連れ子同士でも結婚は問題ないそうだけど、他人だったらもっと結婚しやすいかもね」

「そのあと、カニのお父さんは再再婚したのね」

「ふうん」

「言いにくいんだけど、そのお父さんの新しい奥さんという人が、カニのことを・・・」

「そういう話が出るということは、ひょっとしてカニくん・・・」

「うん」

虐待ぎゃくたいされたとか?」

「逆たい(九州弁)」

「へ?」

「奥さんという人が、カニをオトコとして見てしまったという」

「えーっ!」

「カニは元々、すごく年上の女にモテてモテて仕方ない男なんだよ。カニは新しいお母さんと暮らすうち、親子愛でない愛を肌で感じて、危ないと思ってうちに逃げてきたの。だから法律上は、うちの居候いそうろうということになる」

「あー、なるほど」

「どうしたの? スシくん」

「オレが泥縄第二に転入してきた日、オロネさんとカニくんが家からすでに入れ替わってた、って言ってたでしょ? あの時は深く考えずに流したけど、普通は家で男子が女子の、女子が男子の恰好かっこうをしたら、元の人物がいなくなるから家族にすぐバレるね。一緒に住んでいて、入れ替わりだから、できたんだね」

「そう。2階の寝室から、お母さんがいるリビングに降りて行った時には、すでにあたしはカニの、カニはあたしの恰好をしていたわけね」

「お母さんにも気づかれないんだ」

「それは任せて」

「それで、オロネさんとカニくんは恋人同士だから、将来的には結婚するんでしょ?」

「うーん・・・」

「?」

「恋人になったのは、仕方なくという面もあるのね」

「?」

「戻ってきたカニは、他人でしょ? その・・・。・・・。これ、カニにはないしょね。夜にね、お母さんとカニが、あたしに隠れてキスしているのを、物陰から見てしまってね・・・」

「えーっ!」

「ほら、カニは、すごく年上の女にモテてモテて仕方ない男だから」

「えーっ、オロネさんにキス現場を見られたの、カニくんが知らないなら、オレにも話さないでよ! 困るよ!」

「あ、そうか」

「そうだよ」

「それまで、あたしはカニが誰とくっつこうが構わないと思っていたけど、うちのお母さんだけは、どうしようもなくイヤだったので」

「イヤだったので?」

「お母さんがカニとくっつく前に、あたしが取っちったの」

「取っちったのか。そうか。オロネさんは両親が再婚したときと離婚したとき姓は変わった?」

「カニは父の姓のままだったけど、あたしは再婚で父の姓に代わって、離婚で母の姓に戻った」

「それなら再婚のとき養子縁組、離婚のとき養子縁組離縁をしているな。じゃあ、お母さんとカニくんは、かつて義理の親子だったから、離縁していても結婚できないんだよ。民法規定」

「え、そうなの? なあんだ」

「オロネさんは、カニくんのことが好きというわけでもないの?」

「好きでないわけではないけど、きょうだいだった時間が長すぎてね。それに、あたしの方がずっと、お姉さんやってたから、あまりアレが『彼』という感じはしない」

「そうなんだ」

「そうなの。そんなだから、姉が書記次長で弟が書記長なのは、本当はちょっと思うところが、ないわけではない」

「マヤです。役員を選任したのはクロハなので、文句は、その、クロハにお願いします」

 マヤはそう言うが、クロハは独断で役員選任を進めるような人ではない。副会長を頼んだマヤの意向もんでおり、オロネもそれを知っていた。マヤは冷や汗を流しながら、あさってのほうを向いた。

(マヤちゃん、役員選任をどうやってやったか、スシくんには知られたくないんだね)

 オロネは女子が女子にやるように、クロハ会長(中身スシ)を後ろからぎゅーっと抱きしめ、両腕をクロハ会長(中身スシ)の首にからませ自由を奪った。

「オロネは、普段は組織の安定を優先してガタガタ言わないだけなんだぞ、心の奥底では人事の不満を感じてるんだぞ! わかってんのかクロハ会長(中身スシ)!」

「わー! オロネさん、オレのことスシって言ったりクロハ会長(中身スシ)って言ったり!あと、胸当たってる!」

「わはは。本物のクロハちゃんに言えないことを、クロハ会長(中身スシ)にぶつける」

「なんと!」

「マヤは思いますが、クロハがオロネちゃんの思いとカニくんの役職へのこだわりのなさを事前に知っていたら、2人の役職は入れ替わっていた可能性があります」

「オロネだけど、それじゃあ後期執行部では変えようか。とか言っても、あたしとカニは1年の後期も役員で、今、2期目。生徒会規約では役員は連続でも通算でも2期までだから、2人とも次の執行部には参加できない。後期の生徒会執行部は、マヤちゃんとスシくん、クロハちゃん、あとキラちゃんか誰かの、若い人にお願いするね」

「若い人って。オロネさん、オレらと同じ歳でしょうが」

「ははは」

「それで・・・。将来オロネさんは、カニくんと結婚するんでしょ?」

「おおスシくん、まだグイグイくるねえ。事情を知らないスシくんがグイグイくる。転校生だけに」

「なんか、聞いてしまう」

「カニの調査によると、マンガでメインキャラ男子に『ひとつ屋根の下に暮らす女子』がいる場合、たとえどんな強力なライバルが現れようと、結局ひとつ屋根の下の女子と結ばれるんだって。調査対象6作品、例外なし。ここで『結ばれる』というのは、他のヒロイン全員脱落まで行けば結ばれたとみなし、男女関係の有無は問わない、とのこと」

「『一つ屋根に暮らす』というのは?」

「アパートや一軒家などの、同一建造物に住むこと。名作マンガに『両家の間に共同出資で子どもたちのために建てた家』というのもあったけど、住んでいるとまでは言えないので、対象から外したって。ひとつ屋根の下というのは、男女を結びつける力が、よっぽど強いみたいね」

「じゃあオロネさんとカニくんも・・・」

「そうだねえ。でもあたしらが実際結婚するかどうか、それはわからない」

「えーっ! なんのためのカニくん調査引用だったの?」

「それはそれ、これはこれ」

「カニくんのこと、どうでもいいの?」

「どうでもよくはないけど、でも、もしカニが誰か他の女を好きになれば、そっちと結婚してもらうのは、やぶさかではない。うちのお母さん以外であれば。それはあたしに関しても同じで、あたしが他の男を好きになったら、そっちと結婚するかもしれないし、そのことでカニに文句は言わせない」

「えーっ!」

「お母さんとカニがくっつくの、もう阻止そしできた感はある。あとカニもあたしも、結婚とかそんな先のことまで決まり切っているのはイヤだし、お互いにしばりあってもいない。それに、」

「それに?」

「カニは、ブラックバイトで身をすり減らすようなタイプなのね」

「そうなの? すごい決め付けに聞こえるけど」

「カニはバイトしたことないけど」

「ないんかい!」

「カニがもし、何かの原因で引きこもりになるようなら、あたしが面倒を見ないと」

「へえ、感心・・・なのかどうなのか。それもすごい決め付けに聞こえなくもないけど」

「あたしは、もちろん自分でも働くけど、ちょっとスシくんを攻略して玉の輿こしに収まって、スシくんの財力の一部でカニを養っていくのも、一つの方法かなと思っているわけ」

 クロハ会長(中身スシ)とマヤは、思い切りズッこけた。

「オロネさん、何言ってるのさ!」

「そうよ! オロネちゃん!」

 マヤも怒った。

 クロハ会長(中身スシ)は、マヤの方を見てみた。

(あれ、マヤさん、ひょっとして、今怒ってくれたのは・・・?)

「・・・」

 マヤは、赤くなって下を向いてしまった。

 オロネがスシを狙っているという話に、マヤが反発。クロハ会長(中身スシ)は、マヤがスシに関心を寄せてくれている表れかと思えて、うれしくなった。

「オロネ思うに、スシくんはちょっとくらい財産をかすめ取られても、友人のカニのためなら黙認もくにんしてくれるのは確実」

「何? 黙認って? 確実って?」

「マヤ思うに、オロネちゃんは、カニくんを低く見すぎじゃないでしょうか?」

「そうかしら。そうかなあ」


 再びドアをたたく音がした。

 クロハ会長(中身スシ)、マヤ、オロネは、喜んでドアに近寄った。

「カニだよ!」

「オロネだけどさ、早く開けて!」

「ごめん、鍵が体育教官室に戻ってない!」

「ガーン(オロネ・クロハ会長(中身スシ)・マヤ=同時発声)」

 クロハ会長(中身スシ)、マヤ、オロネは、絶頂から絶望のどん底へ落とされた気がした。

施錠せじょうしたシキ先生が、そのまま持っていると思うんだ! 先生を探すから、もう少し待ってて!」

「オロネだけど! カニ、シキ先生を校内放送で呼び出せ!」

「わかった!」

 カニは職員室に走った。


 キクハの声で校内放送が入った。

「お呼び出しいたします。シキ先生、シキ先生、プールわき女子更衣室の鍵をお持ちになって、職員室までお願いします」

 職員室の放送設備前で、キクハとカニが「これで安心」と一息ついた。

 5分。

 10分。

 再び校内放送が入った。

「来ないわ、どうなってるの?」

 放送を切りそこなっていて入った、キクハの声だった。

 女子更衣室のクロハ会長(中身スシ)、マヤ、オロネは、衝撃を受けた。

 職員室では、キクハとカニが、動転しまくっていた。

「あ、あ、あ、カニくん、先生は5時間目の授業の最初だけやってくるから、ちょっとひとりで動いてて!」

「あ、はい!」

 キクハは音楽室に走った。チャイムが鳴り、昼休みが終わってしまった。

 カニは5時間目もエスケープして、シキを探して校内をかけずり回った。


 女子更衣室の中で、マヤは再び激しく泣き出した。

「うううう、うえええ」

 もう言葉にもならない状態だった。クロハ会長(中身スシ)は、ヒナを守る親鳥のようにマヤを抱きしめたが、マヤの泣きぶりは呼吸に差しつかえるところまで来てしまった。

「うぐぐっ、うっ、ぐっ」

「あっ、そうだ」

 クロハ会長(中身スシ)は、ポンと手をたたいて、立ち上がった。

 マヤは、クロハ会長(中身スシ)が自分から離れたので、イヤイヤをするようにもだえ始めた。

 クロハ会長(中身スシ)は、自分がかけていた大きな黒縁メガネをマヤにかけさせ、ヘアブラシで前髪を真ん中分けから七三分けに変えてあげ、デオドラントを吹いた。

 バストサイズがマヤのままである以外、いつも通りのクロハ会長(中身マヤ)ができた。

 クロハ会長(中身スシ)は、逆に前髪を七三分けから真ん中分けにして、こちらもバストサイズ以外はマヤ副会長(中身スシ)となった。

 オロネが右親指を立ててウインクした。

「いいね! でもオロネ思うに、胸も中途半端は良くない。ちゃんとしようよ」

 クロハ会長(中身マヤ)の化身補助はオロネが引き継いだ。マヤ副会長(中身スシ)が向こう向きで衣服を脱いでバスト偽装をする間に、オロネはクロハ会長(中身マヤ)のシャツを外し、バストサイズ調整のアンダーサイズブラを着けさせ、背中のホックをぎゅーっと力を入れて止めた。再びシャツを着せ、ネクタイをめさせ、全パラメータがそろったクロハ会長(中身マヤ)が完成した。

「マヤ副会長(中身スシ)ですけど、マヤさんも会長化身すれば元気出ると思って」

「クロハ会長(中身マヤ)だけど、スシくん、ありがとう!」

「オロネだけど、スシくんナイス!」


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