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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
4章 一つ屋根の下に暮らすといいよ
20/41

4章の3 水泳実技テストは終わったけど

 クロハ会長(中身スシ)は腹をくくった。

(クロハさん。オレの泳ぎがクロハさんと違ってたらごめん。でもオレが泳ぐからには、クロハさんをみっともない目には合わせない)

 クロハの今年の体育の成績は、泥縄第一での成績がそのまま当てはめられる。今回のミッションは、クロハが泥縄第二で水泳の実技テストを受けたように見せかけるべく行われているに過ぎない。それなのに、クロハ会長(中身スシ)は急に、やたらと燃えてきた。

 さっきまで挙動不審ぎみだったのがうそのようだ。

 クロハ会長(中身スシ)は、キラの隣のコースのスタート台に立った。

「位置について。用意。ピーッ!」

 シキの笛と同時に25メートルプールに飛び込んだクロハ会長(中身スシ)は、クロールであっという間にキラを置き去りにした。均整のとれたフォーム、力強いビートとストロークを見せつけ、25メートルをサマーソルトターンで折り返し、キラが25メートルのゴールにたどり着く前に50メートルを泳ぎ切った。

(あれ?)

 折り返したのでスタート側に戻ってしまったクロハ会長(中身スシ)は、女子生徒が皆プールの向こう側で泳ぐのをやめているのに気づいた。

(あ、女子は50メートルじゃないんだ・・・)

 実技テストの女子の距離は25メートル。クロハ会長(中身スシ)は男子の感覚で、男子の実技テストの距離、50メートルを泳いでしまったのだ。場違いなことをしてしまって急に恥ずかしくなり、クロハ会長(中身スシ)はしきりに頭をかいた。

 クロハ会長(中身スシ)の快泳かいえいに、あっけに取られた女子生徒たちだったが、間もなく歓声が上がった。惜しみない拍手がクロハ会長(中身スシ)に送られ、異常なまでに盛り上がった。

 クロハ会長(中身スシ)は、女子のハートをとらえたようだった。もちろんそれは、女子の仲間(うち)のすごい人という位置づけではある。

(なんか、ごめんなさい。これじゃあオレ、オリンピックの性別検査をすり抜けて女子種目に出ちゃった人みたい)

 オロネがクロハ会長(中身スシ)に抱きついた。マヤはクロハ会長(中身スシ)の両手を握りめた。周囲が騒がしくなったので、マヤは安心してクロハ会長(中身スシ)とひそひそ話をした。

「ひそひそ、スシくん、すごい泳ぎっぷりです! クロハに代わってお礼を言います」

「ひそひそ、オレ今、スシでなくてクロハ会長(中身スシ)ですよ?」

 反対側でゴールしたキラが、クロハ会長(中身スシ)の元にかけつけた。

「すっごーい! クロハ会長!」

「オレ、いやわたし、キラさんはてっきり『自分も泳いでいて、隣はよくわからなかった』と言うと思った」

「みんながこれだけくなんて、ここんとこなかったことだよ!」

 キラにほめられ、クロハ会長(中身スシ)はうれしくなった。しきりに頭をかこうとした腕を動かしたとき、わきの下に二の腕が当たり、異音がした。

 キュキュ

(げげっ!)

「? クロハ会長、今の音はなに?」

「ほ、ほら、イルカの鳴き声をわたしがマネしたの。キュキュ」

「違う。もっと、こう、発泡スチロールがこすれるような音!」

「あ、は、は、そこらへんに放置してある発泡スチロール製のビート板が、大騒ぎの女子生徒に踏まれて、音を立てたのよ」

 スシは引きつった顔で、マヤとオロネの方を見た。マヤとオロネはあわててビート板のあるところまで走って、踏み始めた。しかし必死で踏みつけるものだから「キュキュ」ではなく「ギューギュー」という音しか出せなかった。

「あ、は、は、とにかく、ねえ、あの、ほら」

「次の新聞の1面トップはクロハ会長の水泳実技テストで決まり! 隣のコースの女子が25メートル泳ぐ間に50メートル完泳! 男子も真っ青の活躍!」

「しーっ!」

 キラはどこからか一眼デジカメを取り出し、クロハ会長(中身スシ)の写真を撮ろうとした。カメラを向けられた人間のさがで、クロハ会長(中身スシ)はピースサインやガッツポーズなどを始めた。

 スシに化身をほどこしたマヤとオロネは「制服ならともかく、水着だとスシとクロハの差を埋め切れないところが多い」と不安視していた。パッと見ならなんとかなるレベルでしかない今回の化身を、高画質モードで克明に記録されるのは好ましくなかった。

 マヤとオロネは、キラのデジカメとクロハ会長(中身スシ)との間に強引に体をねじ入れ、たてになって撮影を妨害した。

 クロハ会長(中身スシ)は口に指を当てて「しーっ。キラさん、ことを荒立あらだてないで」というポーズをしてみせた。しかしそれが伝わったかどうか、伝わったとしても、キラがその通り行動するかは不透明だった。

 実技テストは再開され、マヤとオロネも順次25メートルを泳いだ。

 全員がテストを泳ぎ切り、クールダウンを兼ねた自由泳となった。

 クロハ会長(中身スシ)はマヤとオロネの所へ泳いで行き、ミッション終了が近づいたのを喜び合った。マヤはクロハ会長(中身スシ)と示し合わせて水にもぐり、文字通り水面下でクロハ会長(中身スシ)に話しかけた。

「ごぼぼ、ごぼぼ。スシくん、キュキュって音、危なかったですね。ごぼぼ」

「ごぼぼ、ごぼぼ。胸の偽装で仕込んだ発泡スチロールがこすれました。でも、それのせいで泳ぎやすくなってたとしたら、クロハ会長(中身スシ)の活躍を喜んでくれた人たちに謝りたいんですけど。ごぼぼ」

「ごぼぼ、いっさいがっさい秘密なので、そんなふうに思うのもやめてくださいね? それに、それくらいでそんなに速くならないでしょう? ごぼぼ」

「ごぼぼ、そうですかね? ごぼぼ」

 息が続かなくなり、2人とも水面から顔を出した。

 チャイムが鳴り、水泳実技テストの体育授業は無事終了した。

 クロハ会長(中身スシ)は水着を外すため女子更衣室に入るが、一般女子生徒が全員支度(したく)を終えて出て行ってから入る手はずだ。マヤ、オロネ、クロハ会長(中身スシ)は、女子更衣室に向かう人の波から徐々に外れて、人目につかないよう気をつけながら、物陰に身をひそめた。

 2クラス合同だけあって人数も多く、女子更衣室で一般女子生徒たちの会話や制服への着替えやもろもろすべてが終わるまで、かなり時間がかかった。

 体育授業の次は昼休みなので、時間的に余裕があるのはよかった。女子更衣室から全員出てから、マヤ、オロネ、クロハ会長(中身スシ)は悠々《ゆうゆう》と入った。クロハ会長(中身スシ)が実技テストの前に脱ぎ捨てた女子制服一式は、付け人役のカニが運び込んでくれていた。

 緊張は解けかかっていた。

「クロハ会長(中身スシ)ですけど、あれ? 服がここにある。ということはカニくんが女子更衣室に潜入した、ってこと?」

「マヤですが、細かいことを気にしないようにしましょう。カニくんが入ったのは誰もいない時だし、任務ですし」

 オロネは、クロハ会長(中身スシ)の視線がどこを向いているか確認もせずに、濡れた水着を脱ぎ去った。

 マヤはあっけにとられた。

「ちょっと、オロネちゃん・・・」

「何?」

「スシくんの前・・・」

「細かいことを気にしないようにしましょう。スシくんは仲間なわけだし、任務だし」

 オロネはマヤの発言を真似まねて、いなした。クロハ会長(中身スシ)は、オロネの大胆さにドギマキした。

「オロネから。あー、スシくん、クロハ会長(中身スシ)に化身している間は、女子の思考形態で動くこと! こんなんでいちいちドギマギしない! マヤちゃんもマヤちゃん! 自分だって緊急時はスシくんの前で、今のあたし以上のことしてたでしょ。あれやこれや言わない! 化身変換スピードアップ!」

 マヤは真っ赤になって、黙ってしまった。

 クロハ会長(中身スシ)は、言葉をのみ込んだマヤを気遣いつつも、「えーっ、マヤさんはオレと着替えるの気にしないって本当?」という思いに支配されて、動作が止まった。オロネが「急ごうね」とばかりに、クロハ会長(中身スシ)の背中をポンポンたたいた。

 マヤは、クロハ会長(中身スシ)を水着から制服夏服にする作業に取り掛かった。水着をいそいそと脱がし、タオルで髪と体をいてやり、スシの私物下着をつけてやり、制服用の胸の偽装に切り替えてやり、白のインナーを着せてやり、ソックスとスカートを穿かせてやり、水に濡れたウィッグを別のクロハ仕様のものに交換してやり、自分の私物リップを塗ってやり、ついでに自分でも塗り、クロハのネックレスをまたつけてやり、と手際良く進めていたところ、外からシキの声が聞こえた。


「もう全員着替え終わったねー、いないねー!」


 かいがいしくクロハ会長(中身スシ)の世話を焼いていたマヤは、自分がまだ水着だったので焦った。当初の予定では4時間目終了後、次に女子更衣室が使われるのは5時間目だった。間が昼休みだけと短いので、まず施錠せじょうはされないという前提で計画が策定されていた。3組・4組が6時間目に変更されたのに、計画はそのままだった。それが非常にまずかったようだ。

「きゃー! ス、スシくん! 手がいてるなら、わたしの水着脱がしてください!」

「わー! それは無茶すぎ!」

「オロネは思うけど、2人とも最初から自分で着替えてればいいのに!」

 3人がいたのは更衣室の奥の奥。シキには声が届かなかったようだ。マヤとクロハ会長(中身スシ)が騒いだのもむなしく、外から鍵が掛けられた。


 がっちゃん


 シキは去った。

 更衣室を静寂せいじゃくが包んだ。

 すりガラスの窓から光が差す。マヤは脱力したまま、もそもそと着替えを終えた。タオルをいて並んで座っていたクロハ会長(中身スシ)とオロネの隣で、自分も体育座りをした。

 クロハ会長(中身スシ)は、なんとかマヤとオロネを励まし、この密室から救出されるまで、持たせないといけないと思った。

「マヤさん、オロネさん・・・。あきらめちゃだめだ。ここから救出されるまで2日かかるか、3日かかるかわからないけど、人間ってけっこう強いし、海外には、地下の鉱山や洞窟どうくつで長い間耐え抜いて救出された例もあるし・・・」

「スシくん。オロネは思うけど、うちらそこまで長く閉じ込められない。6時間目が3組・4組の水泳実技テストだから、それまでに出られるよ」

「あ、そうか」

「でも鍵が開いて3組・4組と出くわしたら、うちらがなんでここにいたか、説明できないね」

「・・・」

「スシくんさあ、3組のバレーボール部次期キャプテンのレサちゃんに、部活応援のとき会っているでしょ?」

「クロハ会長(中身スシ)としてだけどね。女子部だけどチアリーダーのコスチュームで応援してほしいと言われたなあ」

「その他に何か言っていなかった?」

「あ・・・。そういえば、更衣室で脱がしっこをするのが好きだけど、自分も脱ぐからいじめではない、と言っていた」

「そう。そこで、ちょっとシミュレーション(模擬もぎ演習)やってみようか」

「オロネさん、何のシミュレーション?」

「あたしがレサちゃん役、スシくんはマヤちゃん役ね」

「マヤさん役なのに、マヤさんにやらせないんだ」

「いきます。更衣室の鍵が開く。ガチャ。ドアを開けて真っ先に入ってきたレサ(配役・オロネ)、中にいた前期生徒会執行部3人に気づく」

「マヤ(配役・クロハ会長(中身スシ))です。や、や、あのっ、あのっ」

「ちょっとスシくん、わたし、そんなですかね?」

「マヤちゃん、チャチャ入れない。レサ(配役・オロネ)のセリフ。あっ、クロハさんとマヤちゃんとオロネちゃんだ。シキ先生が鍵を開ける前から中にひそんでいるなんて、あやしいなあ。人に言えないことしてたんじゃないの?」

「マヤ(配役・クロハ会長(中身スシ))ですけど、人に言えないこと(化身)してたのは、ある意味そうですけど、不純同性交遊とかはしてませんから!」

「レサ(配役・オロネ)だけど。クロハさんは特に、体を調べてみないといけないなあ。みんな、3人とも脱がせちゃえ!」

「いやー!」

 ここで最後に「いやー!」と叫んだのは、マヤ(配役・クロハ会長(中身スシ))ではなくて、マヤ本人。

「マヤですけど、それはいやです。ね、オロネちゃん。わたしも作戦考えました。鍵が開いてレサさんが真っ先に入ってきたら、わたしとオロネちゃんが率先して服を脱いで、みんなの注意を引きつける。その間にスシくんを逃がすというのは」

「じゃ、次のシミュレーションやってみよう。今度はマヤちゃんがレサちゃん、スシくんがオロネ、あたしが3組の一般女子生徒。いきます。更衣室の鍵が開く。ガチャ。ドアを開けて真っ先に入ってきたレサ(配役・マヤ)、中にいた前期生徒会執行部3人に気づく」

「オロネ(配役・クロハ会長(中身スシ))だけど、うちら特にあやしくないよ?」

「お、スシくん、そうやって先手を打つわけね。次、レサ(配役・マヤ)ちゃんのセリフ」

「レサ(配役・マヤ)だけど。ややっ、マヤちゃんとクロハさんとオロネちゃんだ。鍵の掛かった密室の女子更衣室に3人で潜んでいるなんて、あやしくないと言ってもあやしいなあ。・・・と、ここでマヤが『わかりました、あやしいかどうか調べてください』と言って、オロネちゃんと一緒に服を脱ぎ始めて注意を引く。マヤとオロネちゃんがみんなの視線のたてになって、クロハ会長(中身スシ)は後ろをそーっと通って、一気に脱出するの」

 これはシミュレーションのはずだが、マヤとオロネはリハーサルをしているかのように、実際にシャツとスカートを脱いだ。

「オロネ(配役・クロハ会長(中身スシ))から一言! ちょっとふたりとも! シミュレーションなんだから、そこまでやらない!」

「レサ(配役・マヤ)ですけど。作戦が採用になったらどうせやるわけですから、その通り動いてみるのがいいでしょう?」

「3組の一般女子(配役・オロネ)だけど。スシくんが言うのは男子の意見。女子に化身している間は、女子の思考形態で動いてよ。時間がもったいない」

「あのさあ、たとえこれでオレだけうまく逃げたとしてもさ。ふたりを犠牲にして自分だけ助かるなんて、オレ一生、心の底に引っかかるものが残ると思うよ」


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